1-5. 不可思議な青年

文字数 1,941文字

 泣きぬれるユリアをいやらしい笑みで見下ろすザロモ。
 そして、彼はショーツを力任せに引っ張り、ビリビリと破きながらはぎ取った。

「いやぁ!」
 ユリアは必死に転がって逃げる。

「いい加減観念しろ!」
 ザロモはユリアの両足をつかむと引っ張り持ち上げる。
 もはや猶予はなかった。
 自分は冤罪(えんざい)なのだからアルシェがいつか迎えに来てくれるはず。こんな所で大聖女として守ってきた純潔を穢されてしまう訳にはいかないのだった。
「やめてぇ!」
 ユリアは思いっきりザロモを蹴り飛ばす。

 ぐはっ!
 もんどり打って転がるザロモ……。
 フーフーというユリアの荒い息が静かに部屋に響いた。

 ザロモはパンパンと服のほこりを叩きながら起き上がる。
 そして、真っ赤になってユリアをにらみつけた。
「お前の両親を王族侮辱罪で投獄してもいいんだぞ?」
「えっ!?」
 ユリアは息をのんだ。
「お前の親の処遇を決めるのは俺だからな!」
 ザロモはユリアに近寄ると勝ち誇ったように見下ろした。
「パパママは関係ないわ!」
 そう叫ぶユリアだったが、領主の横暴を止める手立てがないのも分かっていた。
「よーく考えろよ?」
 ザロモはいやらしい笑みを浮かべながらズボンを下ろす。
 ユリアは奥歯をギリッと鳴らし、動けなくなった。たっぷりと愛情をこめて育ててくれたパパとママ……。親不孝など絶対できないのだ。
「痛いのは最初だけだ。そのうち欲しくなってお前の方からせがんでくるようになる」
 ザロモは再度ユリアの両足を持ち上げた。

 ユリアの嗚咽(おえつ)が部屋に響く。
「さーて、どんな声で鳴くのかな……」
 そう言いながらザロモが両足を広げた時だった。

 誰かが後ろからザロモの股間を蹴り上げる。
 ぐわっ!
 悲痛な声をあげながらザロモは床に倒れ込んだ。

「えっ!?」
 ユリアが目を開けると、そこにはグレーのシャツに黒いジャケットを羽織ったスレンダーな長身の青年が立っていた。ショートカットの黒髪に印象的な切れ長の目と高い鼻、まるで俳優のような華のあるいで立ちだった。
 ユリアは急いで足を閉じ、破けたシャツで胸を隠す。
 すると青年はジャケットを脱いでそっとユリアにかけ、
「もう……、大丈夫だよ……」
 そう言いながらじっとユリアを見つめた。アンバーの瞳の奥にはゆらりと真紅の炎が揺れる。
 そして青年はユリアの前にひざまずき、そっと手を取ると、甲に優しく口づけをした。
「えっ!?」

 カチッ

 ユリアはその瞬間、自分の中で何かのスイッチが入った音を聞く。ユリアは何かを言おうと思ったが、言葉にならず、ただ、青年の美しい瞳に吸い込まれるように見入っていた。
 真紅の炎が揺れる瞳……、ユリアは見覚えのある懐かしさを感じたが、それが何だったのかは思い出せない。

「我と一緒に……来るか……?」
 青年は優しい笑みを浮かべる。

 ユリアはどういうことか一瞬混乱したが、ここにいたらレイプされてしまう以上、彼についていく以外道はなかった。
 ユリアは困惑した表情を浮かべながら、ゆっくりとうなずく。

「ふざけんなこの野郎!」
 ザロモが木の椅子を振り上げ、そのまま青年の後頭部に打ちおろした。

 激しい音を立て、砕けながら飛び散る椅子……。普通の人間なら即死の勢いである。
 しかし、青年は全く意にも介さずに、スクッと立ちあがり、ザロモの方を向く。
 後頭部をクリーンヒットしたのに効果なし、ザロモはその想定外の出来事にゾッとして、思わず後ずさった。これはつまり、青年は人間ではない、人智の及ばない存在だということなのだ。
「殺しておくか……」
 青年はそう言うと腕に赤い光をまとわせ、振り上げた。
「ま、待って! 殺さないで!」
 ユリアは青年に抱き着いて制止する。
「なぜ止める? こいつは……あなたを傷つけようとした」
「そ、そうなんだけど、私はまだ無事だわ。殺すほどのことじゃない……ありがとう……」
 ユリアはそう言って、ギュッと青年を抱きしめた。

「そうか……」
 青年は目をつぶり、しばらく何かを思案すると、
「今後、彼女や彼女の関係者に危害を及ぼすようであれば、お前とその一族郎党皆殺しにしてこの屋敷は焼き払う……。分かったな?」
 そう言って、瞳の奥の炎をゆらりと光らせながら、ザロモに警告した。
 ザロモはうんうんとうなずくと、冷や汗をたらしながら聞く。
「お、お前は何者か?」
「我は超越者……、人間よ、調子に乗るなよ……」
 青年は不愉快そうにそう言うと、手のひらをザロモの方に向け、光を放つ。
 ぐはぁ!
 ザロモは吹き飛ばされ、壁にしたたかに叩きつけられると崩れ落ち、意識を失って転がった。

「さぁ……、いきましょう……」
 青年は振り返り、優しい笑みでユリアを見つめる。
「お、お願いします……」
 ユリアは急いで頭を下げた。
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