4-4. すれ違う思い

文字数 1,661文字

 その後、ユリアは時間を止めたままアルシェを連れ、宰相(さいしょう)の部屋に行く。クーデターを成功させても国の実務が止まっては何の意味もない。実務部門のトップ、宰相の協力は不可欠である。
 そして、そこでもユリアは半ば脅しながらクーデター計画への同意を迫った。
 時間を止める事ができ、ドラゴンを使役するユリアに逆らえる者などいない。
「クーデターが成功したらその権力者に従うだけです。我々は政治家じゃないので……」
 宰相は渋い顔でそう答える。
 ユリアはうれしそうに宰相の肩を叩いて、
「任せたわよ! クーデターの後は世界統一! 全世界の行政実務のトップはあなただからね!」
 と、ニコニコしながら言った。
 宰相は唖然とした表情で、アルシェと顔を見合わせ、思わず天を仰いだ。

「あ、二人とも面倒くさいことになったって思ってるわね? 一番面倒くさいのは私なのよ? こんなの本来大聖女の仕事なんかじゃないのよ? 分かる?」
 ユリアは腰に手を当て、ほおを膨らませて二人を不満そうに見る。
「そ、それは分かります。ただ……、クーデターしないと世界が終わると言われても、実感わかないですよ?」
 宰相は気圧されながら答える。
「んー、もう! 平和ボケなんだから! まぁいいわ、クーデターの時に使う権力移譲の書面、用意しておいてね!」
「わ、分かりました」
 宰相は渋々うなずく。
「それじゃ、当日はよろしく! チャオ!」
 ユリアはそう言ってウインクすると、ジェイドとともに消え、時間はまた動き出す。
 アルシェと宰相は渋い表情で顔を見合わせあった。

           ◇

 『蒼天の儀』当日がやってきた。
 ユリアは前回のスケジュール通り、純白のシルクにきらびやかな金の刺繍の入った壮麗な衣装で控室のソファに座る。
 前回はここで睡眠薬を盛られてしまって全てが崩れていってしまった。物心ついてからずっと一緒だった幼なじみのティモ。本当に彼がそんなことをやるのか……、ユリアは暗い気持ちでため息を繰り返す。

 コンコン!
 ノックされ、ヒョロッとした天然パーマの少年、ティモがお茶のセットをトレーに入れて入ってきた。そして、ティーカップに紅茶を入れてユリアの前に置く。
 見ていると、動きがぎこちない……。
「ねぇ、ティモ? 何か……、私に隠してないかしら?」
 ユリアはジッとティモを見ながら言った。
 しかし、ティモは目を合わすことなく、
「えっ? な、何のこと?」
 そうとぼける。
 ユリアは大きくため息をつくと、
「ねぇ、私たち、どこで……、間違えちゃったかな?」
 悲痛な表情でそう語りかける。
 しかし、ティモは、
「し、知らないよ!」
 そう叫ぶと、顔を真っ赤にして部屋を飛び出していった。
 ユリアは再度深くため息をつき、入れられた紅茶のデータを解析する。
 すると、浮かび上がる『ベンゾジアゼピン(睡眠薬)』との表示。
 ユリアは頭を抱え、しばらく考え込む。ティモを便利な従者としてしか見ず、人としての交流を怠ってきた自分の至らなさを反省した。でも、だからといってこんな仕打ちは度を超えている。
 ユリアは軽く首を振ると、睡眠薬の成分を消去し、ただの紅茶に戻してすすった。そしてソファに横たわって寝たふりをする。
 ほどなく誰かが入ってくる。ゲーザだ。
 そろりそろりとユリアに近づき、ユリアの肩をパンパンと叩く。
 ユリアが動かずにいると、ゲーザはユリアの胸元に手を忍ばせて封印のシールを貼った。そして、傍らに置いてあった『蒼天の杖』を盗ると、また静かに部屋の出口を目指す。
 ユリアは薄目を開けながらその様子をじっと見ていた。
 なるほど、こうやったのだ。

「動くな! 窃盗の現行犯だ!」
 物陰に隠れていたアルシェがゲーザに飛びかかる。
 ひっ!
 ゲーザは急いで逃げようとするが、足が動かない。ユリアが足の筋肉を麻痺させていたのだ。
「な、何なのよコレ!」
 ゲーザは『蒼天の杖』を振り回して威嚇(いかく)するが、程なく捕縛される。そして、ティモも警備の兵士によって捕まり、連れてこられ、二人とも床に正座で並ばされた。
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