第31話 怪談話

文字数 1,287文字

「運転気を付けてよ。ここ事故が多いみたいだから…」
「ああ。分かってる」
「ねぇ、あのトンネル何か薄気味悪くない?」
「気のせいだろ」
「ちょっとヤダ。花子、あんた顔色悪いよ」
「さっき、何かいた」
「マジかよ」
「花子、敏感だから」
「気分悪い。トイレ行きたい」
「このトンネル抜ければ山頂だからもう少しの辛抱だ」

「結構、集まっているな」
「外、寒いし、車内にいようぜ」
「えー、せっかく夜景見に来たのに」
「寒いんだから、仕方ないだろう」
「私、寒くないもん」
「夜景なんかよりさ、誰か怖い話してくれよ」
「ちょっと、何言い出すのよ。そういうのやめよう」
「花子、お前なんかない」
「わたし、時々見えるだけだから……」
「正信はどう?怖い話」
「なくはないけど」
「じゃひとつ頼む」
「ちょっと、待ってよ。本当にするの。やめようよ。怖い話をすると寄ってくるって言うよ」
「雪、うるせぇぞ。ドライブに怖い話はつきものだろう」
「はじめていいか」
「ああ」
「これは、僕が知人から聞いた話なんだけど。とある結婚を誓い合った二十代のカップルがいてね。誰もが羨むような、美男美女カップルだったんだけど、ひとつ問題があったんだ。その彼氏、無類の女好きで、遊び人だったんだよ。その事に気が付いた彼女は、とても傷付いて、心を痛めていたんだ。好きだから別れることも出来ないし、惨めに思われたくないから、友達に相談することも出来ない。心配かけたくないから、家族にも言えずにいた。ずっとひとりで抱え込んでいたんだよ。そんな時にね、彼女の異変に気が付いた、ひとりの女友達がいて。「最近変だよ。何かあったの?」って声を掛けてきたんだ。誰かに話しを聞いて欲しかった彼女は、思わず彼氏に浮気癖があることを相談したんだよ。話を聞いてもらった事で少し気が楽になったのは良かったんだけど。それから、何かあるたびに、その女友達に相談するようになっていったんだ。相談された女友達の方も、いつも彼女に寄り添ってあげていてね。二人を応援してるから、お似合いのカップルだよ、って励ましてくれていたんだ。だけどね、その女友達…」
「え、何々、怖いんだけど」
「その彼氏の浮気相手だったんだよ」
「キャ~!!」
「こわっ!!」
「信じられない」
「それで、その事に気が付いた彼女は、女友達に直接問いただしたんだよ。そしたら…」
「そしたら…」
「あの男、本当軽いわ。別れた方がいい、って言ったんだって」
「キャ~!!」
「こわっ!!」
「マジか。開き直りかよ。恐ろしい女だな」
「本当最低」
「いつも思うんだけど、人間って、ホント何考えてるか分かんないよな」
「ああ、そうだな。そういう所を直さないから、呪われたりするんだよ」
「人間、嫌い」
「キャー!何々?」
「ちょっと、眩しいよ」
「知盛、頭に刺さった矢で、電気のスイッチ押してる」
「あ、すまん。またやっちまった」
「いい加減、矢に慣れろよ」

「外、明るくなってきたよ。そろそろ帰ろう」
「え~、まだいようよ」
「余り遅くなると怒られちゃうし」
「じゃ帰るか」
「あ、来る時に通ったトンネルは通らないで」
「了解」
「ごめんね。あそこよく人間が見えるの」

怪談話・終
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