第15話 未知との遭遇のあと

文字数 2,796文字

 巨大な円盤型の宇宙船は、ゆっくりと下降し、まもなく地球に着陸した。ウィーンという音とともに宇宙船のドアが開くと、待ち構えていた群衆たちの歓声が響き渡る。ドアから伸びた階段を異星人たちはゆっくりと降り、ついに地球の地に足を着けた。

 昨日はお疲れ。大変だったね。緊張したわ。もう心臓バクバクよ。え、そんなふうには見えなかった。本当。それなら良かった。

 あの最新の翻訳機良いね。言い間違えても、正しく言い換えてくれるし、噛んでも修正してくれるし。本当翻訳機に助けられたよ。

 かなり集まってたんじゃない。友好の表れだろうね。地道に通信を重ねて、敵意がないことを訴え続けたおかげだよ。

 電波の違いがあって、声だけの通信だったけど、やっていて良かったよ。凄い歓迎ムードだったもん。だけどガッカリしてたね、結構あからさまに。

 われわれの姿を見た瞬間、ポカ~ンってなってたもん。目が点とはまさにあの事。歓声が止まったよね。正直、そんな重たい空気の中での挨拶って地獄よ。最初の方、何言っても聞いてないんだもん。本当、逃げ出したかった。

 われわれに会うの凄く楽しみにしてたんだろうね。地球人にとっては初めてだもん、異星人と会うの。初の未知との遭遇だもん。そりゃあ期待するよ。

 それで、出て来たのが、地球人とほぼ見た目が同じ、われわれじゃね。ガッカリするのも無理ないよ。

 「地球人じゃん」って声が聞こえてきたからね。「普通」ってのもあったな。普通に人間って事なんだろうね。ファーストコンタクトの感想が、普通ってちょっと凹むよね。

 われわれだってさ、様々な苦難を乗り越えて、ようやく地球に辿り着いたわけじゃない。それなのに普通だよ。普通はないよ。

 でも宇宙服は、よくなかったかもね。より地球人感が増したんだと思う。地球人が帰還してきたみたいだもん。
 
 われわれは、前もって送り込んだ調査隊からの報告で、地球人の姿を知ってたから驚かなかったけどさ、彼らからしたら想像していたのと、だいぶ違っていたみたいよ。

 地球人が抱いていた異星人のイメージって知ってる?あ、知らない。調査隊から聞いたんだけど、ちょっと紙ある。

 あ、ありがとう。体のわりに、頭部が大きくて、目は吊り上がって顔の3分の1ほどあって、肌が灰色で、こんな感じなの。

 凄くない。肌、灰色よ。この吊り上がった目、怖すぎでしょう。そう、服着てないの。裸よ、裸。ありえなくない。そう、毛もないの。これは失礼だよね。絶対いじってるよね。ふざけすぎ。よくこんなの思いついたと思わない。逆に感心しちゃう。

 こんな異星人が現れると思っていたところに、ほぼ見た目が同じ、われわれが登場した。そりゃあ、「普通」ってなるか。盛り下がるわな。

 せめて裸で登場したら、もうちょっと盛り上がったかもね。いや、冗談だよ、冗談。あんな大勢の前でフルチンを晒すなんて、変態じゃん。忘年会のお前じゃないんだから。それは言わないで下さいよ、じゃないよ。酔うと脱ぐくせ直した方がいいぞ。

 だけど、われわれ側からすると、地球人と見た目が変わらなくて良かったと思うよ。われわれにとっては有利に働くんじゃないかな。もしかしたら、計画していたよりも早く、目的は達成するんじゃない。

 あ、そうそう、今、思い出したんだけど、歓迎式典の時さ、一番勘弁してほしかったのって、あれじゃない。握手。

 あれは辛かった。地球人の代表が出てきて、これは地球での友好を示す挨拶ですとか言って、握手を交わしたじゃん。

 そうなんだよ。握手って割と何処の惑星でもやってる事なんだよな。まさか、あんなに丁寧に握手のやり方を説明されるとは思わなかったよ。握手を地球だけのものと思わないで欲しいよね。

 そうそう、その後だよ。まさかあんな展開が待ち受けているとは思わなかった。メトロム星の友好を示す方法を教えて下さい、ときたんだよ。

 肝を冷やしたよ。メトロム星でも友好を示す方法って、もちろん握手じゃん。だから、仕方ないからもう一度握手したらさ、翻訳機が故障したのかと思ったんだろうね。なんか苦笑いされて、こっちだって苦笑いじゃん。二人して苦笑いしてて、あれ何の時間よ。

 それで終わってくれれば良かったんだけど、何か取り繕わないといけないと思ったんだろうね。

 地球人の代表が「地球の文化である握手を気に入ってくれて嬉しいです」みたいな事言うからさ、俺、誤解したままだと駄目だと思って「メトロム星でも友好を示す方法は握手なんです」って言ったらさ、スゲェ変な空気になったじゃん。あれ何なの。こっちが悪いの。そのまま放っといた方が良かったって事。この時も「普通」っていわれてたし。地球人って案外、厄介な生物かもね。

 でもさ、さっきも言ったけど、われわれにとっては、地球人と見た目が変わらなくて良かったと思うよ。

 これも調査隊から聞いたんだけど、地球人って肌の色が違うだけで、差別するらしいから。宇宙規模で言うと、随分遅れてるよね。まだそういう段階みたいなの。

 もしわれわれが、地球人が抱いていたような異星人みたいだったら、式典では盛り上がったかもしれないけど、後々差別を受けていたと思うよ。

 肌が灰色だし、裸だし、見るからに違うわけなんだから。見た目が変わらなくて良かったんだよ。

 地球人もわれわれの目的に気が付いた時には、そう思うんじゃないかなぁ。

 いまや、人口減少社会に突入して久しいメトロム星において、人口減を食い止める最終手段として、他星に頼るほかないわけだかね。

 出来るだけ早く、メトロム星に嫁いでくれる地球人を探さないと。人口が減少すると経済成長率が低下してしまうからね。

 これから、歓迎会が開かれるホテルまでパレードだよね。パレードに人が集まるかなぁ。パレードって沿道に人が集まってこそじゃない。閑散としてたら、それはもうただの送迎だよね。俺、どういう顔して車に乗っていたらいいか分からないよ。思いのほか早くホテルに到着したら、気まずいだろうな。

 ああ、なるほどね。そうかも。地球側の実行委員が、無理やりにでも集めるか。体裁ってのがあるもんね。でも、盛り上がらないだろうな。

 ああ~、行きたくないなぁ。盛り上がらないパレードって地獄だろうな。まぁそうだね。メトロム星を救うため、もうひと踏ん張り頑張らないとね。

 あ、そうそう、地球人の、子供を作る方法なんだけど、われわれと同じみたい。やったーって、お前喜び過ぎ。われわれは、メトロム星を代表してやってきているわけなんだからな。節度ある行動を心掛けてくれよ。くれぐれも、酔ってフルチンを晒すなんて事はするなよ。それは言わないで下さいよ、じゃないよ。ホント酔うと脱ぐくせ直せよ。

 でも、どうせまた言われるだろうな。絶対言われるよ。「地球人じゃん」「普通」って。

未知との遭遇のあと・終
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