第14話 裏テレビショッピング

文字数 3,254文字

 耳馴染みの良い音楽と共に、《裏テレビショッピング》というテロップが現れ、その通販番組はスタートした。

 画面中央に映る司会者の男性が、簡単に挨拶を済ませると、ゲストを紹介する。

 ゲストは男性2人に女性1人。男性2人は派手な柄シャツにスラックスというスタイル。女性は和服姿であった。

 3人共負けず劣らず強面である。好意的に見ても堅気とは言い難い。それでいうと、司会者の男性も通販番組には相応しくない風貌であった。厳つい顔で、ガタイが良く、黒いダブルのスーツを着込んでいる。

「では、さっそく商品を紹介していきましょう」
 司会者がそう言うと、袖からアシスタントの女性がワゴンを押して出てくる。彼女もまた通販番組には相応しくない見た目で、水商売風であった。

 画面が切り替わり、ワゴンの上に乗った拳銃が映し出される。司会者が軽快な語り口で商品を紹介する。

「最初の商品はこちら。長年不動の人気を誇る《S&WM19コンバットマグナム》の最新モデルでございます」

「おお~」ゲスト3人が声を揃えて唸る。

「この最新モデル、超画期的な機能が搭載されているんです」

「へ~、そこら辺にあるただのコンバットマグナムにしか見えませんがね」
 頬に傷がある男性ゲストがそう言うと、他の2人も頷いてみせた。

「従来の物とどこが違うんですの?」
 和服姿の女性ゲストが、興味深そうに聞いた。

「口で説明するよりも、実際にお見せ致しましょう」

 司会者の指示の元、ラジコンカーが用意された。ラジコンカーはスタジオ内をグルグルと走り回る。

「いいですか。よーく、見ていて下さいよ。今からあのラジコンカーを撃破しますんで」
 そう言うと、司会者は目をつぶり拳銃を適当な方向に向けて構えた。

「ちょっと、ちょっと、ぜんぜん的を狙ってないじゃないですか。そんなので、当たるわけがないですよ」

「心配ご無用」
 
 不敵に笑い拳銃の引き金を引く。すると、弾はラジコンカーを追跡するように飛び回り、見事に粉々に撃破した。

「おお~」「お見事」「何?何?どういう事?」
 ゲストたちは驚いてみせる。

「実はこの拳銃には半径30㍍を捜索するレーダーが取り付けられてあるんです」

「拳銃に捜索レーダー?!」
 ゲストたちは目を丸くした。

「操作も簡単。捜索レーダーに目標をセットして、拳銃の引き金を引くだけ。後は何もしなくていいんです。銃弾が自動誘導弾になっていますので、勝手に目標を追跡し、撃破してくれるというわけなんです。これさえあればどんなターゲットでも1発撃破でございます」

「性能が良いのは分かったわ。でもお高いんでしょ?」

「そんな事はありません。レーダー付き拳銃1丁に自動誘導弾12個をお付けして、お値段据え置き、39万8千円でございます」

「え~!」「安―い!」「マジか」

「それだけで驚いてはいけません。今回は特別に、発射音完全シャットアウトのサイレンサー。さらに防犯用の小型銃。そしてこの時間帯に見ていただいている方限定で、よりいっそう腕前を上げてもらう為の射撃練習用的。こちら全てセットで、お値段変わらず消費税込み39万8千円!39万8千円でお売りいたします。もちろん10回までの分割払いもご利用いただけます。金利手数料こちらが負担。今がチャンスです。数に限りがありますので、御注文はお早めに。この機会をお見逃し無く」

 画面が切り替わり拳銃の映像が映る。
《商品番号E―027638番・捜索レーダー付きS&WM19コンバットマグナム自動誘導弾セット》

 電話番号ゴロ合わせの歌が流れる。誰が唄っているのか、ドスの効いた重低音の歌声だ。
♪0120―564―883♪(0120―ころしや♪バンザーイ♪)
♪0120―564―883♪(0120―ころしや♪バンザーイ♪)
 深夜なのでお掛け間違いのないようにお願い致します。

 俺は慌てて、商品番号をメモした。拳銃の手入れでもしながら、のんびりと観賞するはずが、こんなにも夢中になってしまうとは。拳銃は分解したまま手つかずになっている。

 最新鋭の武器がここまで進化しているとは。この番組を観ていなかったら、危うく取り残されてしまうところだった。この業界で、情報に遅れることは、命にかかわる。

 俺は裏社会では名の通った殺し屋。こういった商売をやっていると、武器ほど購買意欲を刺激するものはない。

 この層を狙うとは、隙間産業でなくては生き残れない今の時代を物語っている。

 俺はテレビの上に取り付けたアンテナに目をやった。しかし噂が本当だったとは…。

 俺が殺し屋をやり始めた頃にこんな噂を耳にした。裏社会の人間をターゲットにした『裏テレビショッピング』という通販番組があると。

 それは特殊な電波で発信される為、専用のアンテナでしか見る事が出来ない。しかもその番組を制作している謎の組織が一流と認めた人物でなければ、アンテナを購入する機会すら与えられないという。

 俺はその噂を最初は子供染みていると信じていなかった。

 しかしつい先日、とあるバーで、その組織の者だと名乗る男にあった。

 その男は驚くほど俺の事をよく知っていた。どのように調べたのか分からないが、極秘のはずの俺の仕事内容まで調査済みであった。

 ただ証拠はなにひとつ残してないので、恐喝されるようなヘマはおかしてない。警察ですら俺を逮捕する事は出来ないだろう。それでこそプロ中のプロというわけさ。

 その男は持っていたアタッシュケースを開け、アンテナのカタログを出して詳しい説明をしてくれた。

 この話が来るという事は、一流であると認められた証。アンテナを持っていれば殺し屋としての箔が付く。

 俺はアンテナを購入する事にした。持っていて損する物でもないだろう。

 そして今夜、早速アンテナを取り付けて観ているというわけだ。

 裏テレビショッピングで紹介される商品は、多岐にわたっていた。

 1㌔先のアリまで見る事の出来るスコープ、本物より本物の偽パスポート、全身タイツ型防弾チョッキ、武器装備車、などなど。

 俺は気に入った商品をいくつかメモし、総額500万円程になった。俺の報酬からすれば微々たるものだ。

 それにこんな商売をしていると敵も多く、いつ狙われるか分かったものじゃない。品質が良い武器を持っているに越したことはないのだ。自分への投資は必要経費といえる。

 番組は佳境を向かえ、ついに最後の商品となった。

 袖からアシスタントの女性が、ワゴンを押して出てきた瞬間、俺は何だか胸騒ぎがした。

「さぁ、最後の商品はこちらでございます」
 司会者は満面の笑顔を貼り付け、ワゴンの上に乗ったTVのアンテナを指した。

「あ、これ、あれでしょう。この番組を観る為に必要なアンテナ」
 首元にタトゥーの入った男性ゲストが、ニコニコした薄気味悪い顔で言った。

「よくご存じで。ですが、こちらのアンテナ、ただのアンテナじゃないんですよ」

「へ~、そこら辺にあるただのアンテナにしか見えませんがね」
 頬に傷がある男性ゲストがそう言うと、他の2人も頷いてみせた。何処か楽しそうである。

「この番組を観る以外の使い道があるという事ですか?」
 和服姿の女性ゲストが、興味深そうに聞いた。

「はい、そういう事です。実はこのアンテナ、裏社会の人間を消し去る為の爆弾だったんです」

「え~!」「驚き!」「マジか」

「では実際に、このアンテナ爆弾の威力をお見せ致しましょう」
 司会者はそう言うと、手に持っているリモコンをこちらに向け、ボタンを押した。

 それと同時に、テレビの上に取り付けたアンテナのランプが赤く点滅した。チッ、チッ、チッ…というタイマー音がしている。

 恐らくもう逃げ切れない。この番組は警察組織と繋がっていたようだ。

 警察は証拠を残さない俺を逮捕することは出来ない。それなら、葬り去るしかないというわけか。

 裏テレビショッピングで紹介された商品は全てフェイク。俺をテレビに釘付けにするため。まんまとやられた。

ドカ~ン!

裏テレビショッピング・終
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み