第２話　天変地異の真実

ピンチの場に颯爽と駆けつけたその紳士はあっという間に黒い男をバラバラに切り刻んでしまった。僕がありがとうと言おうとすると、紳士は女の人を抱えて目の前から飛び去ってしまった。
あっけにとられていると紳士はいつのまにか戻ってきていた。「大丈夫だったかい？」その言葉で僕は我に返り、おどおどとしながらお礼を言った。
「あ、ありがとうございます。僕1人じゃあの女の人を助けることはできませんでした。」すると紳士は笑みを浮かべて応えた。
「大丈夫さ。じきに君も1人で戦えるようになる。安心したまえ、さっきの女性は病院に運んでおいた。数日もすれば退院できるだろう。それにしても、君の行動は素晴らしい。臆病でありながら他人の為に自分よりも強い敵に果敢に立ち向かうその姿勢はまさに選ばれし者よ。」僕には何の話かさっぱりわからなかった。褒められているに違いないが、このおじさんが怪しいことに変わりはない。このまま逃げてしまおうか。
「まあ待ちたまえ。」ドキッとした。その一言はまるで僕が逃げようとするのが分かっているかのようだった。「私は左側一世。是非とも君の名前を教えてもらいたい。」僕は観念するように言った。
「み、みなみさとこういちろうです。」「そうか。では光一郎くん。大事な話があるのだがここで立ち話もなんだ、近くの公園に行こう。」まあ悪い人には見えないし、このまま帰ることはできそうにもないので、「話を聞くだけならね。」僕は精一杯強がって応えた。


公園のベンチに並んで腰をかけた。この紳士、容姿は青い羽飾りのついた黒のシルクハットを被り、片眼鏡をし、黒い礼服に赤のネクタイを締め、黄色いブーツを履いているというちょっとまとまりのない服装で、おまけに杖型の剣を携えカールしている口ヒゲをたくわえているときた。横には半袖半ズボンの小学生がいるのだ。通報されてもおかしくはない。
紳士は僕の目線をどこ吹く風と言わんばかりに語り始めた。
「今我々がいる世界とは別に『神代の国』という場所が存在する。そこには様々な神や悪魔が住んでいるのだ。その地には２つともない宝がある。その名も『六宝珠』という。黒と白３つずつのその宝珠の力は神々をも超え、悪魔さえも敵わない。そんな宝珠のうち、白の三宝珠をわしは守っておった。だが、ある時前代未聞の出来事が起こった！神代の国を冥界の化け物どもが襲った。奴らは宵闇の一族を名乗り、３つある黒の三宝珠のうちの１つを奪いおったのだ！なんとか奴らを滅ぼすことはできたが奪われた宝珠は見つからなかった。宵闇の一族の残党どもがどこに逃げたのかわからなかったからだ…。」


はあ、どうして年寄りの話っていうのはこんなに長いのかしら。僕はおじさんがここに来る時にコンビニで買ってくれたお菓子をポリポリと食べながら適当に聞いていた。が、次の話で僕の気だるさは吹き飛んだ。

「奴らが闇の中に消えてしばらくたったある日、遂にそれは起こった。なんと奴らは黒の三宝珠のパワーを増幅させ白の三宝珠を引き寄せたのだ！そのせいでこの世界は姿を変えてしまった。」
なんだって！？確かに僕は大災害に襲われた。でもあれは夢ではなかったのか？そんな僕の疑問に答えるように紳士は言った。
「六宝珠は世界を変える力を持つ。宝珠に選ばれた君以外の全てを宝珠は変えてしまったのだ。先程わしが現れたのはピンチを察したからではない。宝珠が君の居場所を教えてくれたのだ。君の意思に関係なく君は元の世界に戻るべく戦わねばならない。」どういうことだ？話についていけない。「ここの地名がわかるかね。」疑問だらけの僕に質問をぶつけないでほしい。僕はためらいながら言った。
「どこって東京都世田谷区下馬でしょ。」「違うね。ここは東京県本所河原区マテバシイ町だ。」
何を言ってるんだこのおじさんは！やめてほしい。頭がおかしくなりそうだ。でもそうなるのは心当たりがあるからだ。見馴れたはずの景色が違うからだ。


「今この世界には暗黒が渦巻いている。今は元の世界と少ししか違いはないが放っておけば全くの別世界へと変わってしまうのだ。この白宝珠を渡そう。わしと君はこれから戦わねばならんのだ。」僕に白い玉を渡したおじさんは空中を切り裂き穴を開けた。
「ようやく奴らのアジトがわかった。ついて来なさい。君がもしこの世界を救いたいのならば。」おじさんは涙目の僕を後にしてぽっかりと空いた穴に入っていった。

先程食べていたお菓子の袋をちらりと見るといつもの名前と違って「うめえな棒」という名前だった。