第16話  怪しい影

文字数 3,887文字

「おおおおおお!」

僕は、ダムポーンの集団の中に突っ込んでいった。

「やっぱり捕まる気になったか?」

ディザイアはダムポーン達の中心にいる光一郎を見てニヤリと笑った。


「ダムポーン、光一郎君をベトベトに固めてやれ。」


ダムポーン達は光一郎を囲い込み白濁色の液体を触手の先から発射した。


「今だ!」


光一郎は液体が当たる直前に真上に飛んだ。


ダムポーンの液体はそのまま向かい合っていた者同士で浴びてしまった。

山颪(やまおろし)・刺突!」

光一郎が指2本でバッテンを作り振り下ろすと、
風が全身にトゲをはやした獣に姿を変え、ディザイア目掛けて針を撒き散らした。


「ダムポーン、俺を守れ!」

ディザイアが命令すると、体液で固まったはずのダムポーン達が触手を広げディザイアを覆った。

山颪の放ったトゲはディザイアに命中せず、逆に山颪本体が地面に叩きつけられてしまった。


「なんで動けるんだ?!」

「ふっふっふ。ダムポーンの皮膚の表面は自らの体液で固まらないように膜がはられているのさ。」

「さあ、光一郎を引き摺り下ろせ!勿論右側一世もだ!」


光一郎は自分の元まで伸びてきた触手を切り落とし、ネイビーは触手が届く前にダムポーンを焼き尽くした。

焼け残った残骸(ざんがい)の中から取り込まれた人たちが出てきた。

「俺が人間達を避難させておくからお前はディザイアを倒せ!」


「分かった!ありがとう!!」


光一郎の背後から伸びてくる触手は全てネイビーに止められた。


「まあ待てよ、光一郎が白星をあげる様を俺と見ておこうぜ!」


ネイビーが指を鳴らすと黒色の泥の様な物体が残ったダムポーン達を押し潰した。
もう一度指を鳴らすとその物体からいくつもの人形が起き上がり、気絶した人々を掘り起こした。





「光一郎君、あれだけ力の差を見せつけられてなお挑んでくる蛮勇さ。俺は君のそこが欲しいんだ。
君が向かってくるたびに俺の胸は昂ってくる。
口を開くたびに喉の中にある手がこぼれ出そうな気がするよ。」



「ディザイア。お前……いや、あなたの声がさっきから聞こえてくるんだ。『助けて』と何度も何度も。
ネイビーは倒せって言ったけど、僕にはあなたを助けられる力があるから、
あなたを元の人間に戻そうと思う。」



光一郎の話を聞いてディザイアの表情が変わっ
た。



「助ける…だと?俺はな、この力を手に入れて救われたんだ。もうすでに俺は救われているんだ。

世の中にダニみてえに潰されるゴミじゃなくなったのさ!

その俺を助けるだ?!
じゃあ死ねよ!俺にこの力を貸してくれた奴がよー、お前を殺したらこの力を俺のものにしても良いっつったんだ。


てめえも宝珠とやらの借り物の力で弱者を陥れる側に回ったんだ!
なぜ俺を否定する!?」


ディザイアは口から溶解液を吐き出した。
その液はコンクリートを溶かし、道路標識の鉄柱を腐食させた。

折れた鉄柱を触手で掴み、光一郎の頭蓋を目掛けて振り下ろしたが、白い光のバリアに防がれてしまった。



「僕のこの力は弱い人をいじめる為の力なんかじゃない。弱い人に手を差し伸ばす為にあるんだ!!」


光一郎は両腕を胸の前で交差させてから思い切り素早くばんざいのポーズをとって叫んだ。

「フラーッシュ!!」

次の瞬間辺り一面が白く輝き、ディザイアの視界を奪った。


「ぐお!め、目潰しか!…こ、小癪(こしゃく)なぁ。だが、見えなくともお前の力の位置はわかるぞ!!」



ディザイアは自身の左斜め後ろに大きな力を感じ、触手をのばした。


「そこだ!!」


だが、伸ばした触手の先にあったものは光一郎ではなかった。


()つっ!!」


触手の触れたそれは熱をもった光球であり、触れた瞬間触手の先ににまとわりついて破裂した。

「僕はここだ!!」
ディザイアの視覚が元に戻った時一番最初に目に移ったものは光一郎だった。


それもそのはず、光一郎は大胆にもディザイアの(ふところ)にいたのだ。


「お前、いつの間に!」


「大変だったよ。お前が光球の方に集中するように宝珠の力を使わずに近づかなきゃならなかったんだから。」


光一郎はそう言いながら触手に手を触れた。


「襲雷!」

「ぬががががががが!!」


電撃がディザイアの全身を駆け抜け彼を麻痺させた。



「今だ!神・剛焼剣!!!」


光一郎は全ての触手を切り落とし、後方へ退がった。


「おのれ…だが、俺の触手は何度切ろうとも生やす事ができるぞ!!」


ディザイアはまた触手を再生させようとした。


「バリアーッ!!」


光一郎はバリアを張った。だが、自分にではなくディザイアに、だ。


「な、何を?!」


「ディザイア、あなたの触手は確かに強い。だけど生えなくしてしまえばこっちのもんだ!」


「ばか言ってんじゃねー!!」


ディザイアはバリアを破ろうとした。
だが、短くなった触手ではバリアを壊すほどの力が出ない。
伸ばそうにもバリアの中は狭くこれ以上伸ばせそうには無かった。


「ちょこっと痛いけど我慢してね。」


光一郎は両手で空気をかき混ぜ、人差し指を立てたまま両手の指を組んだ。
そして助走をつけて左手の掌でバリアを殴った。


「天壊・空龍掌!!」


光一郎からバリアに伝わった伝熱は行き場をなくし、ディザイアを貫いた。



「か……あっ……!!」



光一郎は意識を失ったディザイアの本体に触れ、


「白の宝珠、お願い!ディザイアから宝珠の力を吸い取って!!」



突如白い光がディザイアから、光一郎の胸元へと走り抜け渦巻いて消えていった。


光一郎が気付いた時にはディザイアは元の人間の姿に戻っていた。


「ふう……。」


光一郎は手の甲で額の汗を拭った。




倒壊したビルの山の上から光一郎とディザイアの戦いを見ている一つの影があった。


「ディザイアはやられちゃいましたか。でも白の宝珠に選ばれた人間、光一郎君の活躍を見られたので良しとしますか。………!!」



その影、怪しい仮面の男は背後から放たれた殺気に押されて前方の折れた柱に跳び移りながら振り返った。


殺気を放ったのはネイビーだった。


「お前か?さっきから見ていたのは。」

「………」


「人間に宝珠の力を注ぎ込んで化け物に変えたのはお前かと聞いているんだ。」

「………」


「答えたくないか。なら、質問を変えよう。お前らを操っているボスは誰だ?」


「あ、すみません席を外していました。で、なんで質問でした?」


「いや、いい。質問は終わりだ。体に直接聞くことにする。」



ネイビーは右腕を黒い蛇腹の剣に変えて、仮面の男の太ももを抉るように振るった。


仮面の男は片足で上空に跳んで避けた。


「いきなり攻撃しないでくださ……」


蛇腹剣はその刀身を翻して、仮面の男の左脚に巻きつき、高速回転して脚を捻じ切った。


「あ、脚を!!」


とれた左脚は、ネイビーの手の中へと飲み込まれていった。


「やはりお前は遠隔操作されているロボットだったのだな。お前の身体からは生気が感じられなかったからな。」



「くっ!………ふふふ。
左脚の内部からデータを抜き出す気でしょうがそうはさせません。こちら側からデリートすれば良いだけです!」


「それは出来ない。左脚は黒の宝珠の中へと飲み込んでやった。所有者以外は宝珠の内部に干渉できないということは知っていよう。」

「ぐっ…………!」


天封七英神(てんほうしちえいしん)よ…」


「!!」

仮面の男は図星を突かれ、押し黙った。


「白の宝珠を使用できるのは限られているからな。並の天使や悪魔では持ち続けることすら敵わん。ならば、使いこなせるだけの力を持つ者は誰か、と考えればお前たちの中しかいない。」


仮面の男は落ち着きを払って言った。

「正体はバレていないようですね。この世界が破滅するまで精々暴れさせて貰いますよ。
ふっふっふっふっ!」



仮面の男はそれきり喋らずに停止した。



……かに見えたが、突然ネイビーに抱きついた。


「はいはい、自爆は他所でやれ。」


仮面の男もとい、ロボットが抱きついたのはダミーであり、ネイビーに腹部を蹴り上げられ上空で爆発した。







「う………こ、ここは?」


ディザイアが目を覚ますと目の前には二人の少年がいた。


「良かった!気がついたんですね。」

少年の一人光一郎が、歓喜の声を上げて言った。


「俺は一体何を……」


「道端でうなされていたので、木陰に運びました。もう大丈夫ですか?」


ディザイアは光一郎からペットボトルを受け取り水を少し口に含んだ。


「かすかにだが、覚えているよ……
俺は君たちに酷い事をしたんだな。
すまない……許して貰えるとは思えないけど。本当にすまなかった。」


「いいですよ!あなたが無事だったんですから。」


光一郎がディザイアだった男に手を差し伸ばしたその時、何者かが空から舞い降りた。


「お前らは。」


ネイビーの目線の先には四人の男女がいた。


「我々は『天下泰平機構』です。
その男を引き取りにきました。」






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登場人物紹介

南郷光一郎

本作の主人公。11才。臆病だが正義感があり、困っている人がいれば敵わない相手にも立ち向かうことがある。

左側一世

見た目は中年の紳士だが、その正体は神代の国の神である。白の三宝珠を取り戻すべく地上に降り立った

右側一世

見た目は少年だが、その正体は神代の国の悪魔である。魔神から地上を元に戻す為に派遣された

妖魔帝王ミルベウス

地上に跋扈する夕闇族のボスであり、地下世界の帝王。地上を征服し、天界を支配することを目論む

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