第6話  教魔

文字数 2,553文字

僕はただいまを言って自分の部屋へ向かった。よたよたと歩いて壁に頭をぶつけた。でもそんなショックでは僕の暗い気分は変わらない。しかしそんな気分もいつまでもは続かなかった。

僕の部屋の隣には淳の部屋があるはずなのにその部屋は物置になっていた。「お母さん!」僕は急いで階段を下りて台所へ行った。
「お母さん!淳は?淳はどこ行ったの?!」と聞くとお母さんは顔をしかめた。「何の話よ。」
「何って、淳だよ僕の弟の。僕の1つ年下の淳だよ。淳の部屋がない。」
「…なに呆けたこと言ってるのよ。ははぁ、さては洋子ちゃんに振られたんでしょう。そのショックでおかしなことを言ってるのね。」

母親ってどうしてこういう事には勘が鋭いのだろう。

「そ、そんなんじゃないよ。知らないんだったらいいよ。じゃ。」


部屋に戻って僕は考えた。
「この世界には淳の奴がいないのか。おじさんはちょっとだけ変わったと言ってたけど大分変わってしまってるんじゃないだろうか。とにかく淳のためにも早くミルベウスを倒さなくちゃ。」

その日は晩御飯を食べて寝た。疲れちゃって泥のように眠った。




学校に行かなきゃならない。いつもはもっとゆっくりしてから行くけど学校がどこにあるか分からないからちょっと早めに家を出て大通りに出た。向こうの方に登校している人たちがいたから後についていった。

しまった、傘を持ってくるの忘れたなーとか考えている間にどうやらいつも通っている学校に着くことができたようだ。
学校の名前は変わってなかった。


教室に入るともうすでに何人か来ていた。
その中にそうまがいる。城代総真だ。彼の方からあいさつしてきた。「おはよ。コウちゃんもう来たんだ、いつもより早いじゃん。」

総真は僕のことをコウちゃんと呼ぶ。僕は彼のことをソーマと呼ぶ。
「ソーマ、君だけだよいつもと変わらないのは…。」「どうしたんだ急に。」「いろいろショックな事があったんだよ。」
落ち込んでる僕にソーマは言った。

「なんだよ、何があったか知らねーけど元気出せって。せっかく早く来たんだ、グラウンドでサッカーしようぜ!おい、たかやんもショーゴも来ねーか?」

この通り彼は明るくて元気で僕と真反対にいる人間だ。どうして僕とソーマが仲良くなったのかは覚えてない。
「僕も行くけど見てるだけでいいや。」

彼と遊ぶと必ずみんなが集まってきて僕は輪の外に追い出されてしまう。

「ええー一緒にサッカーやろうぜ。ていうかコウちゃんも変わってんじゃん。いつから自分のことを僕って言うようになったんだよ。」

「え、僕は僕のことをなんて呼んでたっけ?」「俺って呼んでたよ。何言ってんだ。」


結局僕はサッカーをしなかった。ボールが転がっているのを見ていたらチャイムが鳴った。

授業が始まって出席がとられた。
その時に気付いたんだけど、おかしな子がいた。髪の毛が淡い青色をしている。
今までにあんな子がいたら相当目立ってたはずだ。世界が変わったことで居なかった人が増えたんだろうか。
そんなことを考えていると、先生に名前を呼ばれたのに気づかなくて注意されてしまった。みんなに笑われちゃった。あの子以外のみんなに。


1時間目は国語だ。暑いので窓を開けようとしたら窓を開けるなと、また先生に注意された。授業の始まりから15分ほど立った時、それは起こった。
教室の様子がおかしい。よく見ると何人かの肩の辺りに小さな虫が飛び回っている。みんながざわざわしだした。
虫が余りにも多すぎる。
1人の女の子が窓を開けようとした。瞬時に虫にたかられているクラスメート達が、その女の子に飛びかかった。

さらに教室の中は騒めき立った。

「先生!なんとかしてください!」女の子をかばっているソーマが先生に向かって叫ぶように言った。


突如先生の体が震え始め、バリバリと人間の皮を破り始めた。怪物の姿を僕たちに現し、教室の中のざわめきが最高潮になった。他のクラスからも悲鳴が聞こえる。
おそらくこの学校には何体か怪物が潜んでいるのだろう。

「痛っ!」天井の板が頭に落ちてきた。上を見ると右側一世がいた。
「こんなとこいたんだな、探したぜまったく。ん?うるさいな、なんかあったのか?」
ヒラリと降りてきた彼は先生だった怪物を見た。

「教魔だ。」「キョーマ?」「人に嘘を吹き込んで心を操る下級の魔物だ。もっとも成長すればかなりの強敵になるけどな。」

「行け!者共、光一郎と隣にいる奴をメタメタにしてしまえ!」


教魔の合図で虫にたかられていた児童たちがいっせいに2人に襲いかかった。

僕はがっしと腕を掴まれた。その力は小学生のものとは思えない程に強い。しかもそれが何人もいる。
僕の首を絞めている子を右側一世は追い払った。気がつくと操られている数が増えている。

「光一郎、俺はこいつらを殺す。それが一番てっとり早い方法だ。」「殺すだって!?だめだよ、みんな操られているだけじゃないか!」

「心配するな!ミルベウスを倒して世界が戻った時は死んだ奴らも元に戻る。だから今は障害を減らして教魔を倒すんだ!」

右側一世は目をギラギラさせている。殺すだなんてとんでもない。
「でも僕は人を殺したくない!ほかに方法はないの?!」その言葉に右側一世は顔をしかめた。

「この甘ちゃんめ!なら、気絶させろ!教魔は心を操ると言ったろう。やつらは気を失って無心になった人を操ることはできない。お前がやれ。代わりに俺が教魔を倒す!」
そう言って彼は黒い槍を取り出し、教魔に飛びかかった。

教魔は指示棒をしならせ、右側一世の左ひざを叩いた。
だが、その攻撃も虚しく槍で縦に裂かれてしまった。
それと同時に操られていた児童たちも正気に戻ったが、また騒ぎ出してしまった。

「人間箱化!」右側一世がそう唱えると教室に居た僕以外の子たちみんなが小さな箱に吸い込まれていった。

「何をしたの?!」「人質にされたり暴れられたら困るから箱にして動けなくしたんだよ。これなら誰も死なないしお前も文句はないだろ?さ、行くぞ。他にもまだ敵はいる。」

僕は納得して彼と一緒に隣の教室に入った。
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登場人物紹介

南郷光一郎

本作の主人公。11才。臆病だが正義感があり、困っている人がいれば敵わない相手にも立ち向かうことがある。

左側一世

見た目は中年の紳士だが、その正体は神代の国の神である。白の三宝珠を取り戻すべく地上に降り立った

右側一世

見た目は少年だが、その正体は神代の国の悪魔である。魔神から地上を元に戻す為に派遣された

妖魔帝王ミルベウス

地上に跋扈する夕闇族のボスであり、地下世界の帝王。地上を征服し、天界を支配することを目論む

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