カビたパン

文字数 502文字

おもむろに、封開けてパンの塊を取り出す。
見ると角が変色し、並々ならぬ主張をしている。
空腹でないのであれば、屑籠に袋ごと放るところであるが、生意気にも多忙を極めていた為、何か食わねば頭が回らぬ。
結局、屑籠に放ったのは、塊の端、のみであった。
歪に欠けた四角いパンを、熱も通さぬまま齧る。
変色した部位を除いている訳であるから、腹痛に繋がる要因は、概ね無いと思われる。細菌学は畑違い故、根拠は乏しいが。

さて、健康面のリスクは除けたとすると、この食事に、問題とするべき点はないのか。
否、大有りである。
空腹であった為、手を加えない、生のパンでも美味に感じ、多少腹が膨れたおかげで、少しずつ思考が動き始めた。
しかし、気分はどうか。
悪いこと、極まりない。
“腹を壊すやも“といった、憂慮ではない。
なんと、惨めであろうかという、情けなさに満ち満ちているのだ。
この食事は、余裕のある者が、小麦に対する博愛の精神で、痛みものを飲み下したのとは、訳が違う。
私は今、金銭的に決して豊かではなく、カビたパンを貪らざるを得なかったのである。
数刻しても、腹が痛むことは無かったが、腹が満たされた事を言い訳に、私は不貞寝を決め込むことした。
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