5.朝礼

文字数 2,458文字


5.朝礼

眼が覚めるとすぐ前にミロウシの顔があったので優は嬉しくなってにっこり笑った。
それから、泣き腫らした真っ赤な目をしていることに気がついて、慌てた。
(…えぇと…?)
なにがあったんだったか、完全に思い出せない。
(夕焼けが…。 紅くて… 綺麗で…)
つまりはそんな時刻に至るまで、お風呂で色に溺れさせられて、喘ぎながら絡みつかれて啼かされていた。わけで…
(…どうやって帰ってきたんだっけ…?)
そこで、あっと気がつく。
ミロに…! 運んでもらって…!
(…それから…?)
はたと。
気がつく。
…ミロ!
…泣いてる…!!
慌てて起き上がろうとしたが、腰が動かなかった。
「…ぁっ…!」
怠い。とにかく…重い。
「…ミロぅ…」
「あぁ?」
「動けないぃぃ…!」
「…すまん…!」
泣いてる。
とりあえず…
がんばって…
腕を伸ばして…
よしよし…
してみる…
「…うんとね…?」
なんて言ったら、いいのかな…?
「ぼく、怒ってないよ…?」
「…!」
「えと…」
もっと激しく泣きだしてしまったので、心底困った。
(…ちょっと違ったらしい…)
「ミロのこと、大好きだよ…?」
「…す、ぐる…っ!」
「…でもちょっと驚いた…。」
「…すまん!」
「えぇと…。今度から、ちゃんと起きてるうちに、言ってね…?」
…震えてる…。
「ぼくミロのためなら、なんだってするから。」
…泣いてる…。
「ちょっとくらい痛いのとか、ぜんぜん平気だったから!」
「………すまん………ッ!」
ほんとうに、ミロが辛そうで…!
「えと…」
優は、困った…。



食いしん坊の優が朝食の時間に食堂に起きて来なくて。
真っ赤な目を伏せたミロウシがこそこそと二人分のレンジ飯を誰とも目を合わさずに済むよう自販機で買ってレンジでチンして優の部屋へ持って行って。
朝礼5分前には二人一緒に装備はきちんと整えて集合場所に来て。
困った顔でよろよろしている優と、いっそ死刑にしてほしいという顔のミロウシ。
まぁだいたい何があったかなんて推測がつきすぎて怖くて誰も話しかけられない。
「時間だ! 朝礼を始める! まず初めに!」
そんな空気は一切読まないことに決めているらしい所長がきっぱりとマイクを握った。
こちらはこちらで。なぜかものすごく機嫌が悪いように見える…。
「説明が面倒なのでこれより本日から放映予定のCF映像をスクリーンに映す!
以下詳細は各自の端末に送信済みだから早目に眼を通しておくように! 本日以上!」
はぁ? と一同が点目になっているうちに空中映像が投影された。
ちゃんちゃらら~とおなじみの朝の軽い情報番組のテーマソングが鳴り響いて。
きゅるるっと早回しで省略部分が飛んで。
『ではこちらがその噂の呑竜茸なんですね~www』
『いや~ん! なにこれ~!www』
アップで投影される珍妙な姿に女声のキャーと男声のウォー!がひとしきり。
ごほん。と咳払いして…ルーデル局長が登場。
『工場内で無菌培養されたものは以前から製剤原料として商品化されておりましたが…』
きゅるるっ
『…ということで、このたび皆様のご要望にお応えし、我が惑星(ティアラ)の温帯植物園内売店にて、季節に応じた数量限定ではありますが、市民の皆様にもお求め頂きやすい適正価格にて、天然物を販売させていただく運びになりました…』
「…はぁ?!」
朝礼参加者一同、寝耳に水なニュースに驚く。
「…裏ルート限定でこそこそと超のつく高値で取引されているから、無駄に盗掘者どもが涌くんだ。市販品にして価格を下げてしまえば、割に合わない商売からは向こうが自主的に手を引くだろうと。…局長の御提案で…。」
所長がぶすくれて職務放棄しているので副所長が代わりにマイクを握る。
「緊急に監視カメラ設置と並行して呑竜茸の自生地域と株数を精査した結果、胞子を飛ばした後のものなら販売用に一定量を採取しても絶滅の危惧はないという結論に達した。
扱いとしては、今までも販売してきた食用キノコの天然物と同じ棚に並べる。」
きゅるるっ
『…それで? そ~の効果はっ? 噂の通りなんでしょ~か~っ??』
『えぇまったく問題なくご満足いただけると思いますよ。実をいうと早速私も職権を濫用しまして、ひとつ食べてみまして…』
得々とした顔でのたまうルーデル局長。
「えっ!」…と優の声が小さくフロアに響く。
『これこの通り。妻も大満足でして…』
後ろから現われた超美女がにっこり笑って銀髪の混ざる黒髪の紳士の頬にキス…。
きゅるるっ
「今の、アレだよな? 元モデルの美人妻!」
「七番目だっけ? 再婚の…」
「いや愛人も入れて常時七人じゃなかったか?」
「ぅははははは!」
「…………えっ?」…再び優の…小さな声が響いた…。
『さて今日は! もうひとつ! 悩める中高年紳士の皆様に! 朗報が~っ!』
なにか知らないがいきなりアーリーのアップが!
「えーーーーっ!」と生贄たちが悪魔風な装いのあまりの恰好よさに色めきたつ。
キャラキャラと何かのテーマソングに合わせてひとしきり美形強調ショットが映し出されて、女性にもてもて~! などとアオリ文字が入り。
『…皆様ご存知でしょぉかぁ! 噂の《セックス・ヴァンパイア》!と呼ばれるジェジュアタみたいになれる薬は、高価な呑竜茸だけじゃないんですー!』
『えぇっ? それは! …耳よりなお話じゃないですか~!!』
…続いて紹介された薬剤名が。
「ぅぇぇ…!」
よく知られた商品だったので、男性一同から悲鳴が洩れる。
『…逆もまた真なり! 今まで副作用として嫌われていた部分に逆に着目し! このたび改めて認可を取り直しました! …《二十四時間、待てますか!?》…愛しい妻やぴちぴちの若い愛人と! うきうきデートのその前日に! きちんと呑んでから! お出掛けす~れ~ば~…ッ!!!!!』
…ミロウシが、物も言えずに地に伏した…。

「…奥さん? …いたんだ…? …な、…七人も…?」
なぜかぽろりと優の両眼から涙がこぼれた。
不幸なフランツは、ひたすらおろおろしていた…。

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