4.問題解決

文字数 1,540文字


4.問題解決

いきなり広明がダッシュで走り始めた。
「あ? おい!」
声をかけても、振り向きもしない。
人類最速レベルの俊足ですっ飛んでいく。
「………またかよ!」
事態を覚り、ミロウシも慌てて後を追った。
前にも何度かこんなことがあった。
優の危機に際してだけ、広明は超能力者になる。
「警備室! 事件らしい! 通路E57東方!」
走りながら端末を取り出し、とりあえず警備隊の応援を要請しておく。
追いつくと、すでに事態は収束しつつあった。
広明が憤怒の形相でちぎっては投げ、ちぎっては投げ、侵入者どもを手早く殴り飛ばして股間を蹴り上げ、スタンガンで気絶させていく。
(その場合、股間蹴りは不要だろ?)
つっこみを入れる気は、むろんなかった。
「…ごっ ごめんなさい…ッ!」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっている優の表情がなお可愛い。
ほぼ裸にひんむかれて、しどけなく地べたに座り込んで、あられもなく服の端ヒダが手足に絡みついて動きを封じられているのが、なおエロい。
(…股間直撃だぜ…!)
ミロウシはまぁ相方が敵の股間を特に執念深く撃破しているのは単なる八つ当たりだよな? と敵さんのほうに少しばかり同情した。
「いや… おまえさんは悪くないだろ? ったく、奴らどっから入り込みやがった?」
「誰か…っ 案内人がっ、いるってっ、…言ってました…ッ」
喘ぎながら涙声で報告せんでくれ…とミロウシは己の理性と友情を総動員しながらあらぬ方角を眺めわたした。
「案内人?」
「盗掘犯どもだよ」
急行してきた警備隊のエアクラフトから降り立った人物がそう告げた。
「やつら侵入者の数が多いほうがこっちの警備網を攪乱できるだろうってんで、カネとってスグルの画像情報を餌にして、強姦ツアーを募ったらしい。」
「…ごうかん・つあぁ…!」
なんて嫌な響きだ。
ミロウシは唸った。
「だいじょうぶか、スグル?」
警備航空隊所属のクーリは顔馴染だ。優の天然媚態にもびくともしないのは、タイプは違うが同格の美形で、さらには長年連れ添った熟愛カップルの相棒がそばにいるからだ。
(もっとも、その相棒のほうは慌てて視線と意識をそらす努力をしていることを、ミロウシは見逃さなかった。)
「破れてなければ、服を直せ。広明が戻ってこれなくて困っているだろう?」
「…あ! …ごめんなさいっ」
「謝る必要はないから。」
わたわたと服を直す優は本当っに可愛い。小動物的な悩殺級のエロ可愛さだ。
もふりたい!
ミロウシは煩悩と友情の板挟みに苦悩した。



「…………優ッ!」
服を整えたのを目の端で見届けたのだろう、ようやく息をはずませて広明が(はるかかなたから)慌てて駆け戻ってきて膝をついた。
「怪我はないか? やつらに何かされたか?」
「ううん… 怖かった。」
優の大粒の涙に、広明は言葉を失った。
「あいつら、真っ暗で、ぐにゃぐにゃで、…僕を、ばかにしてた…」
接触テレパスでもあるユヴァリーには、心理的なダメージのほうが、より大きい。
「からだは? なにかされたか?」
「ううん。…広明が、来てくれたから…。無事。」
見上げるでっかい涙目には全幅の信頼の光が…。
…ぐらぁ~り…と、親友の理性がすっ飛びそうになっている事態を、同情をこめてミロウシは見守った。
「侵入者どもは警備で連行するから。優をはやく連れていってやれ。」
事情をだいたい知ってるクーリがぽんと力をこめて広明の肩を叩いた。
「ユヴァリーは精神的なショックに弱いんだ。今夜悪夢を視て魘されないように、早目に医療ケアを受ける必要がある。」
「…あぁ。…すぐに!」
広明は、(本当はお姫様だっこで大事に運びたい!)…という本音を顔に透けさせながらも、くるりとうしろを向いて、優におぶされと合図した。

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