第15話 おいでませ、山口へ。

文字数 3,228文字

 ノベルデイズの大先輩である、るるせさんがお仕事のため山口県にいらっしゃるとのことで、僭越(せんえつ)ながら、わたくし桐乃が一日観光案内役を買って出たのでした。
 (方向音痴のくせに)
 (大丈夫なのか)
 (大丈夫かどうかは当日までわかりません……)

 るるせさんのお時間に余裕ができたとのことで、観光案内本番に先立ち、ひとまず顔合わせをという話になり、新山口駅で待ち合わせと相成りました。

 (るるせさんの旅行記がnoteに更新されていますので、詳しくはそちらをぜひご覧いただければと思います)

 新山口駅は元々は小郡(おごおり)駅という名前で、山口県民のそこそこの年代の方のなかでは「小郡」と呼ぶほうがしっくりくる、という人も少なくないかもしれません。わたしはそのうちのひとりです。
 新山口駅は北口がリニューアルされたらしく、るるせさんが宇部空港から直通でいらっしゃる予定のバスターミナルはその北口にあり、到着まで少し時間があったので、辺りをぶらぶらと散策することに。

 全体的に白を基調とした開放感のある造りになっていて、そのときちょうど15時頃だったのですが、突然かなりの音量でCMのような放送が流れ出し、びっくりしていると、やがて聞き覚えのある声が。
 そうか、エフエム山口のサテライトスタジオがあるんだった、と思い出しました。
 最近はほとんどラジオを聴かなくなったのですが、懐かしい、エフエム山口のパーソナリティの大和良子(やまとよしこ)さんの声が聴こえてきて、スタジオのほうへ吸い寄せられるようにふらふらと。
 ガラス越しに、遠巻きに、お姿を拝見しました。
 いつもラジオで聞いていた声を、目の前で拝聴できるなんて。よき……。(ジーン)
 また聴きに来よう。

 そうこうするうちに、るるせさんから「到着しました」との連絡があり、無事にお目もじが叶いました。
 めちゃくちゃ緊張しました。
 るるせさん、ご自身のことをときどき「コミュ障」だとおっしゃるけれど、そんな印象はまったく感じませんでした。すごくハキハキとお話しされる方だなというのが第一印象でした。

「山口、すごいですよ」
 とおっしゃるので、なにごとかと思ったら、
「関東とは植物の種類が微妙に違うし、山の形も違う」
 と植物学者のようなことをいわれるので、さすが、目のつけどころが違う、とのっけから圧倒されました。

 新山口駅周辺、カフェとか喫茶店とか、そういうちょっとお話しするのに最適なお店がなかなかなくて。わたしが新山口駅を利用するときは乗り継ぎばかりだったので、駅の外のようすは全然わからなかったのですが、おお、ほんとにお店がないんだな……。
 ボーっとして、てんで使いものにならない桐乃に代わって、他県から来たばかりのるるせさんがテキパキと主導権を握り、早い時間から営業していた居酒屋へ落ち着くことに。

 るるせさんは生ビールを。
 わたしは飲めないので烏龍茶を。

「酔っ払いが嫌い」
 というのは確かに今まであちこちで公言してきましたが、あれはあくまでも酔って絡んでくる鬱陶しい酔っ払いのことであって、実害がなければ、問題はないのです。
 そう説明しましたが、るるせさんは気にされていたようなので、
「もし酔っ払ったら、そのへんに転がして帰るので大丈夫ですよー」
 と冗談めかしてお伝えしました。でも、るるせさん、お酒はお強いみたいで、かなり飲まれていましたが、駅へ戻るときの足取りや言動はしっかりされていました。さすがです。

 なんのお話をしたのだったか。
 緊張していたこともあり、元々ぽんぽん言葉が出てくるタイプでもないので、辛いくらいに塩のきいたフライドポテトをひたすらもぐもぐ食べるわたし。
 イモい人間がイモを食べるという愉快な絵面。

 るるせさんはどうやら赤がお好きのようで。
 眼鏡も赤いフレームでしたし、iPhoneケースも赤。iPhone本体も赤でしたが、るるせさんご自身はどうやらその自覚がなかったようで、びっくりされていたのが可笑しかったです。

「どうやったら小説を書けますか」
 みたいな質問を、以前わたしがどこかで目にして、
「本を読むしかないですよね。あとは自分が書きたいことをとにかく書く、それ以外ないのでは」
 と思ったというお話をしたら、るるせさんもそれに同意してくださいました。
 書きたいものがあるなら、がむしゃらにそれを書くしかない。うまく書こうとか技術とかは二の次で、ひたすら数をこなしていくしかない。
 そう思います。自分がそうだったので。

 るるせさんとお会いしていちばん印象的だったのは、とにかく目ヂカラが強いひとだなと。これに尽きます。眼力というのでしょうか、ものすごく力のある眼差しで、思わずたじろぐほどまっすぐにじっと見つめられるので、頭蓋骨まで見透かされているような気分になります。
 ただでさえコミュ障の桐乃、ひとからそんなにまじまじと見られることにはまったく慣れていないので、つい何度も目を逸らしてしまいましたが、悪気はないのです。自分に向けられる視線への耐性がないだけなのです。

 るるせさんがnoteの旅行記で、わたしのことをかなり持ち上げて書いてくださっていて、読んで「ヒィ、恐れ多い……!」と縮こまりましたが、真似をするつもりではなく、わたしも似たようなことを思ったので、驚きました。

 るるせさんがお書きになる作品や、その奥にひそむ思想のようなもの、透徹した揺るがない根っこの部分は、この強い眼差しから作られているのだなと。
 玉石混淆(ぎょくせきこんごう)の世界をつぶさに観察しながら、なにひとつ取りこぼすことなくそれらを取り込み、繊細な、それでいてナイフのように鋭い眼差しでひとつひとつの事象を丁寧に解剖していく……そんなイメージがひらめいて、なんだか腑に落ちるようでした。
 この「目」が(つちか)われた背景、るるせさんが今までの人生で背負ってこられたものが、その眼差しを唯一無二の名刀のように鍛え抜き、磨き上げてきたのだろうなと、そんなふうに感じたのでした。
 そんじょそこらのなまくら刀では、とうてい太刀打ちできないですよ。

 るるせさんの目に、この山口県がどんなふうに映っているのか、どういうふうに「解剖」されていくのか。
 不肖(ふしょう)桐乃、るるせさんを地元にご案内できる日が、ますます楽しみになりました。


 翌日の観光予定のお話を聞いていたら、目的地そのものは決まっているけれど何時にバスが出発するのかも、料金もわからない、とのことで、行き当たりばったり具合には自信のあるわたしでさえ、
「えっ、大丈夫なんですか」
 と心配になり、帰り際に駅でバス乗り場と時刻表を確認することに。
 田舎のバスや電車の本数を甘く見てはいけません……
 一時間に一本とか、ザラにありますから。
 実際、一時間に一本の便でしたね……。
 るるせさんのすごいところは、行き当たりばったりに見えて、押さえるべきところはガッチリ押さえているところなのですよね。

 一分単位とかでせかせかと観光するのは好きじゃない、時間に急かされたくない、というのはわたしも同じなので、観光案内当日はまじで行き当たりばったり珍道中になるかと思いますが、そこは旅の醍醐味、ハプニング込みで楽しんでいただけたら良いなと思います。

 最後になりましたが、mikaさん、るるせさんから伝言、お聞きしました。ご丁寧にありがとうございます(⁠ ⁠ꈍ⁠ᴗ⁠ꈍ⁠)

 さてさて、次はとうとう本番ですよ〜!
 山口観光案内レポート桐乃版は、仕事のため、週末か週明けになると思いますが、そちらもお付き合いいただけますとうれしいです。その前にきっと、るるせさんが先にnoteに旅行記を更新されると思いますので、そちらをご覧くださいませ。
 るるせさん、引き続き、よろしくお願いいたします!

 (この一連のレポートは、noteのほうにも同じ記事を転載しようかなと考えています。内容は同じですので、お好みのほうにお付き合いいただけますと幸いです)
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