第16話 悲しい勘違い

文字数 1,231文字

読書 好きの長男に対してあまり本を読まない次男。そんな次男の中1の誕生日プレゼントに、長男が本を買ってきました。
長男いわく
「オレは結構面白く読めたから、きっと読んだらあいつも面白いと思う。」
とのこと。
私は次男にはちょっと難しいんじゃないかなぁ・・と思いながらも、長男の気持ちをちょっとうれしく感じていました 。

翌日、学校から帰宅した次男が私のところへやってきて、黒いカバーのかかった文庫本を差出し困惑顔で言いました。
「母さん・・・これ、兄ちゃんがプレゼントでくれた本なんだけど・・」
例の本だなと思った私は、ちょっと読んでみたけど難しい、とかいうのかなと想像し
「ああ、兄ちゃんが選んでくれたんでしょ?ちょっと大人っぽいけど読んでみたら? 」
となるべく明るく言いました。
すると・・・
「あのさぁ・・・何で兄ちゃんこの本くれたのかなぁ・・ ・」
と沈痛な面持ちで訴えるのです。
「????」
「この本・・・『人間失格』て、なんでこんな題名の本僕にくれるんだろう・・・ 」
「え?」

もしかしてこの子、この題名にショックを受けてる!?
自分のことだと思ってる!?

「あ、あのさぁ ・・これはさぁ ・・兄ちゃんがおもしろいと思ったから読んだらいいと思って選んだと思うよ。前に面白かった、って言ってたもん。だからちょっと難しいと思うけどがんばって読んでみたら?」
そう言うと
「・・そうなの?そうなんだ。わかった、じゃぁ読んでみる 。」
とホッとした顔に戻って、部屋へと帰って行きました。

去っていく後姿を見送りながら、急におかしくなってきました。
だって題名を見ただけで、自分のことを言っているのかと勘違いしてショックを受けるなんて 。まさか長男がそんなこと思うはずもないのに。思春期に入って傷つきやすいのねと思いました。

その夜 。
長男にその話をすると大笑いしながらも
「母さん説明してくれてありがとう~ 。あいつ、なんでそんな風に思ったのかなぁ 。 題名だけ見て決めるなよ。」
と驚いていました。
長男がその本を選んだのは、自分が友達に勧められて読んだ『文学少女と死にたがりの道化』というライトノベルを次男にも読ませたところ、次男も面白く読んだそうです。
でも、その小説はもともと自分が以前読んで面白かった『人間失格』を読むともっと面白く読めるので、次男にも『人間失格』を読ませようと思ったのだそうです。

「あのさ、お母さんいつも言ってるでしょ?なんでもっと言葉を使ってコミュニケーション取らないの?ちゃんとこの本を選んだ理由を言って本を渡せば、こんなことにならないんじゃない?」
「だって説明するの面倒だったんだもん。それに題名だけ見てそんな風に思うなんて、思いもしなかったよ 。」
「人はさ、一人一人ちがうんだからさ、自分と同じように思うばっかりじゃないでしょ?」
「ハイ、ハイ 」
やぶヘビとばかりに長男はそそくさと去っていきました。

・・・で、次男がこの『人間失格』を読み切ったのかは定かではありません。






ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み