第5話
文字数 3,803文字
休み時間の学校の廊下。
思い思いのグループになって談笑する生徒たちの向こうに、仲多奏多の姿が見えた。
ただそれだけで嬉しくなって、駆け寄ろうとしたところで足が止まった。
奏多のすぐそばで彼に微笑みかける女子がいたからだ。あれは一年の時に同じクラスだった九槍菜摘 だ。今はわたしとは違うクラスになったけれど、奏多とは同じクラス。席まで隣になっている。
今一番警戒しなければいけない相手。だって彼女はとても可愛い上に良い子だから。男子とも物怖じせずに話せるみたいだし、計算なのか天然なのか判然としないあざとさも併せ持っている。最大の問題は彼女も奏多に対して好意を持っているらしいということだ。本人からはっきりとそう聞いたわけではない。けれど、見てれば分かる。
奏多の良さが分かるのはわたしだけだと思っていたのに、思わぬところにライバルが潜んでいた。しかも強敵だ。
でもやっぱり一番の問題は奏多が女子、特に可愛い女の子には誰彼構わずすぐにデレデレしてしまうところだろう。男なんてみんな似たり寄ったりなんだろうけど、奏多は特にだと思う。今だって顔中の表情筋をだらしなく弛ませてニコニコしている。わたしにはなかなかあんなふうに笑ってくれないくせに、きっと菜摘ちゃんに何か言われてご機嫌なんだ。
放っておいちゃ駄目だ。またいつものように釘を刺しに行かないと。
わたし以外の女の子にデレデレしちゃだめだよって。
いざ、奏多の方に向かって歩き出そうとした時、誰かに肘を掴まれて止められた。
「ちょっと何するのよ」
言いながら相手を見ると、兼弘美沙 だった。
美沙は小学校時代からの親友だ。可愛いくせに、どこか男前な性格でもある。わたしの一番の理解者で、時には耳の痛いことも言ってくれる掛け替えのない友達。最近はツインテールがお気に入りらしくて、今日も束ねた髪が左右で揺れている。よく似合っているし確かに可愛いけれど、わたしにはやる勇気はない。
「離してよ」
「駄目だよ」
「何でよ?」
「また仲多くんのところに行って、例のやつをかますつもりでしょ」
「例のやつ?」
「わたしだけだよってやつよ」
「もちろん」
「やめときな」
「どうしてよ?」
「遥香、仲多くんの彼女でも何でもないじゃない」
「そりゃそうだけど……。何で今更そんなこと言うのよ?」
「今更じゃないでしょ。これまでにも何度も言った」
「そうだけど……だって」
「これも前にも言ったけど、彼氏でもない男の子に自分以外の女の子と仲良くしちゃ駄目だなんてことを言うくらいなら、素直に好きって言っちゃえばいいじゃない。もはや事実上告白しているようなもんなんだし」
「そうだよ。事実上の告白だよ。だったら奏多だってわたしの気持ちを分かってくれてもいいんじゃない?」
「それは我儘じゃないかな。それを言うなら遥香、あなたの方こそ仲多くんの気持ちを分かってあげているの?」
「え、奏多の気持ちって?」
その時だった。
奏多たちがいるあたりで、ぱーんと手を叩くような大きな音が響いた。
喧騒に包まれていた廊下が一瞬で静まり返った。
見ると、手のひらを片方の頬に当てて呆然としている菜摘ちゃんと、その前で菜摘ちゃんを睨みつける奏多の姿があった。
菜摘ちゃんのつぶらな瞳がじわじわと涙目になったかと思うと、そこから一筋の涙が零れ落ちて光った。そしてまた一筋——。
二人の体勢を見るに、奏多が菜摘ちゃんの頬を引っ叩いたように見える。いや。そうとしか見えない。けれど、奏多がそんなことをするとは到底思えない。
わたしは混乱したまま二人に駆け寄った。
「奏多、どうしたの?!」
奏多は答えず、代わりに菜摘ちゃんのそばにいた女子が、彼女を庇うように抱き締めながら、奏多に向かって声をあげた。
「仲多くん、酷いよっ! どうしてそんなことするのっ?!」
奏多は何も言わず、菜摘ちゃんを睨みつけたままだ。
「ね、奏多、何があったのよ?」
また奏多ではなく、菜摘ちゃんの友達らしき女子が言った。
「仲多くんがいきなり菜摘にビンタしたんだよ。菜摘はただ普通に話しかけただけなのに」
やっぱりそうなのか。
でも何故そんなことを?
「本当なの、奏多?」
奏多が女子に暴力を振るうなんて、イエスキリストが般若心境を唱えるほどに信じられない出来事だ。もし本当だとしてもよっぽどの理由があるはず。
「奏多、黙っていないで答えてよ。本当に菜摘ちゃんをぶったの?」
信じられないことだけれど、奏多は黙って頷いた。
「どうして? どうしてそんなことしたの?」
菜摘ちゃんは友達に抱き締められたまま、顔を埋めるようにして肩を震わせて泣いている。去年は同じクラスだった彼女のこともある程度は分かっているつもりだ。奏多に限らず、誰かをそこまで怒らせるようなことをする子ではないはず。
「奏多、ちゃんと答えて」
「遥香のためだよ」
耳を疑うとはこのことか。わたしは人生で初めてそんな心境に陥った。
「ど、どういう意味?」
「遥香が言ったんじゃないか。他の女の子と仲良くしちゃ駄目だって。仲良くしてもいい女子は遥香だけだって」
「そ、そんな——。何言っているの、奏多?」
混乱するわたしに、奏多は繰り返した。
「遥香が言ったんだ。わたしだけだよって」
奏多の瞳はまるで作り物のように無機質で感情が見られない。
「遥香、いつも言ってるじゃないか。わたしだけだよって。それなのに、あの子はいつも明るく親しげに話し掛けてくるから、だから、迷惑だからぶったんだよ」
嘘……、嘘でしょ?
何言っているの奏多?
あなた、本当に奏多なの?
そこでわたしはさらに息を呑んだ。混乱するわたしをよそに、それまで無表情だった奏多が満面の笑みを浮かべたからだ。
「これで遥香も喜んでくれるだろ? いつも遥香が言っている通りにしたんだから」
奏多はそこで言葉を切ってから、楽しそうに付け加えた。
「わたしだけだよ、って」
わたしだけだよ……?
自分の声が頭の中にこだました。
わたしだけだよ……
わたしだけだよ……
わたしだけだよ……
わたしだけだよ……
わたしだけだよ……
わたしだけだよ……
そのこだまを遮ったのは美沙の声だった。
「遥香、しっかりしな」
「美沙……何とか言って……助けてよ」
けれど、美沙の目は冷たかった。
「仲多くんが、やっと遥香の望み通りにしてくれたんだよ。遥香、もっとちゃんと喜ばないと」
美沙?
あなたまで何言ってるの?
「もっと仲多くんを褒めてあげなさいよ。せっかく遥香の言う通りにしてくれたんだから。遥香だけって」
その言葉に奏多も呼応した。
「そうだよ。もっと褒めてよ。ねえ。遥香の言う通りにしたんだから。わたしだけだよって」
わたしだけだよ……
わたしだけだよ……
わたしだけだよ……
わたしだけだよ……
わたしだけだよ……
わたしだけだよ……
違う……。
違うよ……。
違う違う違う違う。
違う違う違う違う。違う違う違う違う。違う違う違う違う。違う違う違う違う。違う違う違う違う。違う違う違う違う。違う違う違う違う。違う違う違う違う。違う違う違う違う。
誰か分かって。
違うの。
わたしは、——違うの!
周囲を見回す。そしてわたしはそうしたことを瞬時に後悔した。廊下に集まった同級生たちの視線が、まるで大量に解き放たれた矢のように、わたしの全身に突き刺さったからだ。
みんなが口々に言う。
「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」
「違う!」「違う違う違う!」
いくら叫んでも、わたしの声はかき消されてしまう。
「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」
わたしは両手で頭を抱え込むようにして、その場にしゃがみ込んだ。
助けて!
誰か助けて!
そう叫ぼうとしたところで目が覚めた。
けれど夢で良かったと安堵する気持ちなんて、これっぽちも湧かなかった。
(第5話「わたしだけだよ」終)
思い思いのグループになって談笑する生徒たちの向こうに、仲多奏多の姿が見えた。
ただそれだけで嬉しくなって、駆け寄ろうとしたところで足が止まった。
奏多のすぐそばで彼に微笑みかける女子がいたからだ。あれは一年の時に同じクラスだった
今一番警戒しなければいけない相手。だって彼女はとても可愛い上に良い子だから。男子とも物怖じせずに話せるみたいだし、計算なのか天然なのか判然としないあざとさも併せ持っている。最大の問題は彼女も奏多に対して好意を持っているらしいということだ。本人からはっきりとそう聞いたわけではない。けれど、見てれば分かる。
奏多の良さが分かるのはわたしだけだと思っていたのに、思わぬところにライバルが潜んでいた。しかも強敵だ。
でもやっぱり一番の問題は奏多が女子、特に可愛い女の子には誰彼構わずすぐにデレデレしてしまうところだろう。男なんてみんな似たり寄ったりなんだろうけど、奏多は特にだと思う。今だって顔中の表情筋をだらしなく弛ませてニコニコしている。わたしにはなかなかあんなふうに笑ってくれないくせに、きっと菜摘ちゃんに何か言われてご機嫌なんだ。
放っておいちゃ駄目だ。またいつものように釘を刺しに行かないと。
わたし以外の女の子にデレデレしちゃだめだよって。
いざ、奏多の方に向かって歩き出そうとした時、誰かに肘を掴まれて止められた。
「ちょっと何するのよ」
言いながら相手を見ると、
美沙は小学校時代からの親友だ。可愛いくせに、どこか男前な性格でもある。わたしの一番の理解者で、時には耳の痛いことも言ってくれる掛け替えのない友達。最近はツインテールがお気に入りらしくて、今日も束ねた髪が左右で揺れている。よく似合っているし確かに可愛いけれど、わたしにはやる勇気はない。
「離してよ」
「駄目だよ」
「何でよ?」
「また仲多くんのところに行って、例のやつをかますつもりでしょ」
「例のやつ?」
「わたしだけだよってやつよ」
「もちろん」
「やめときな」
「どうしてよ?」
「遥香、仲多くんの彼女でも何でもないじゃない」
「そりゃそうだけど……。何で今更そんなこと言うのよ?」
「今更じゃないでしょ。これまでにも何度も言った」
「そうだけど……だって」
「これも前にも言ったけど、彼氏でもない男の子に自分以外の女の子と仲良くしちゃ駄目だなんてことを言うくらいなら、素直に好きって言っちゃえばいいじゃない。もはや事実上告白しているようなもんなんだし」
「そうだよ。事実上の告白だよ。だったら奏多だってわたしの気持ちを分かってくれてもいいんじゃない?」
「それは我儘じゃないかな。それを言うなら遥香、あなたの方こそ仲多くんの気持ちを分かってあげているの?」
「え、奏多の気持ちって?」
その時だった。
奏多たちがいるあたりで、ぱーんと手を叩くような大きな音が響いた。
喧騒に包まれていた廊下が一瞬で静まり返った。
見ると、手のひらを片方の頬に当てて呆然としている菜摘ちゃんと、その前で菜摘ちゃんを睨みつける奏多の姿があった。
菜摘ちゃんのつぶらな瞳がじわじわと涙目になったかと思うと、そこから一筋の涙が零れ落ちて光った。そしてまた一筋——。
二人の体勢を見るに、奏多が菜摘ちゃんの頬を引っ叩いたように見える。いや。そうとしか見えない。けれど、奏多がそんなことをするとは到底思えない。
わたしは混乱したまま二人に駆け寄った。
「奏多、どうしたの?!」
奏多は答えず、代わりに菜摘ちゃんのそばにいた女子が、彼女を庇うように抱き締めながら、奏多に向かって声をあげた。
「仲多くん、酷いよっ! どうしてそんなことするのっ?!」
奏多は何も言わず、菜摘ちゃんを睨みつけたままだ。
「ね、奏多、何があったのよ?」
また奏多ではなく、菜摘ちゃんの友達らしき女子が言った。
「仲多くんがいきなり菜摘にビンタしたんだよ。菜摘はただ普通に話しかけただけなのに」
やっぱりそうなのか。
でも何故そんなことを?
「本当なの、奏多?」
奏多が女子に暴力を振るうなんて、イエスキリストが般若心境を唱えるほどに信じられない出来事だ。もし本当だとしてもよっぽどの理由があるはず。
「奏多、黙っていないで答えてよ。本当に菜摘ちゃんをぶったの?」
信じられないことだけれど、奏多は黙って頷いた。
「どうして? どうしてそんなことしたの?」
菜摘ちゃんは友達に抱き締められたまま、顔を埋めるようにして肩を震わせて泣いている。去年は同じクラスだった彼女のこともある程度は分かっているつもりだ。奏多に限らず、誰かをそこまで怒らせるようなことをする子ではないはず。
「奏多、ちゃんと答えて」
「遥香のためだよ」
耳を疑うとはこのことか。わたしは人生で初めてそんな心境に陥った。
「ど、どういう意味?」
「遥香が言ったんじゃないか。他の女の子と仲良くしちゃ駄目だって。仲良くしてもいい女子は遥香だけだって」
「そ、そんな——。何言っているの、奏多?」
混乱するわたしに、奏多は繰り返した。
「遥香が言ったんだ。わたしだけだよって」
奏多の瞳はまるで作り物のように無機質で感情が見られない。
「遥香、いつも言ってるじゃないか。わたしだけだよって。それなのに、あの子はいつも明るく親しげに話し掛けてくるから、だから、迷惑だからぶったんだよ」
嘘……、嘘でしょ?
何言っているの奏多?
あなた、本当に奏多なの?
そこでわたしはさらに息を呑んだ。混乱するわたしをよそに、それまで無表情だった奏多が満面の笑みを浮かべたからだ。
「これで遥香も喜んでくれるだろ? いつも遥香が言っている通りにしたんだから」
奏多はそこで言葉を切ってから、楽しそうに付け加えた。
「わたしだけだよ、って」
わたしだけだよ……?
自分の声が頭の中にこだました。
わたしだけだよ……
わたしだけだよ……
わたしだけだよ……
わたしだけだよ……
わたしだけだよ……
わたしだけだよ……
そのこだまを遮ったのは美沙の声だった。
「遥香、しっかりしな」
「美沙……何とか言って……助けてよ」
けれど、美沙の目は冷たかった。
「仲多くんが、やっと遥香の望み通りにしてくれたんだよ。遥香、もっとちゃんと喜ばないと」
美沙?
あなたまで何言ってるの?
「もっと仲多くんを褒めてあげなさいよ。せっかく遥香の言う通りにしてくれたんだから。遥香だけって」
その言葉に奏多も呼応した。
「そうだよ。もっと褒めてよ。ねえ。遥香の言う通りにしたんだから。わたしだけだよって」
わたしだけだよ……
わたしだけだよ……
わたしだけだよ……
わたしだけだよ……
わたしだけだよ……
わたしだけだよ……
違う……。
違うよ……。
違う違う違う違う。
違う違う違う違う。違う違う違う違う。違う違う違う違う。違う違う違う違う。違う違う違う違う。違う違う違う違う。違う違う違う違う。違う違う違う違う。違う違う違う違う。
誰か分かって。
違うの。
わたしは、——違うの!
周囲を見回す。そしてわたしはそうしたことを瞬時に後悔した。廊下に集まった同級生たちの視線が、まるで大量に解き放たれた矢のように、わたしの全身に突き刺さったからだ。
みんなが口々に言う。
「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」
「違う!」「違う違う違う!」
いくら叫んでも、わたしの声はかき消されてしまう。
「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」「わたしだけだよ」
わたしは両手で頭を抱え込むようにして、その場にしゃがみ込んだ。
助けて!
誰か助けて!
そう叫ぼうとしたところで目が覚めた。
けれど夢で良かったと安堵する気持ちなんて、これっぽちも湧かなかった。
(第5話「わたしだけだよ」終)