第48話

文字数 3,913文字

私が、仰天して、叫ぶものだから、女子高生たち4人が、ビックリして、私を見た…

 「…お姉さん…知っているんですか?…」

 が、

 その質問には、私は、答えなかった…

 代わりに、

 「…オマエ…今、どうして、アンナと言った? …ハンドルネームは、たくさん、あるんだろ? …それが、どうして、アンナと、すぐに、言った…」

 と、聞いた…

 聞いたのだ…

 が、

 女子高生は、

 「…だって、変わってるでしょ?…」

 と、返答した…

 「…なにが、変わってるんだ?…」

 「…外人みたいだし、現に外人だった…」

 「…外人だった? …どうして、わかった?…」

 「…そのハンドルネームの投稿者の他の動画を、見たの…そしたら、金髪のキレイなお姉さんが、映ってた…だから…」

 「…だから、そのアンナってひとのハンドルネームだけ、覚えたんだ?…」

 と、別の女子高生…

 「…そう…ほかのは、全部、お姉さんと、太郎ちゃんの動画だけだったけれど、そのアンナって、ハンドルネームの動画だけ、外人の金髪のキレイなお姉さんが、映ってたから…」

 「…それって、コレ?…」

 別の女子高生が、急いで、スマホで、検索して、その動画を見せた…

 「…そう、コレ!…」

 アンナと指摘した女子高生が、言った…

 私は、急いで、

 「…それを、見せてくれ…」

 と、頼んだ…

 すると、すぐに、私に、そのスマホを見せてくれた…

 そのスマホの画面には、あのアンナと呼ばれた女が、映っていた…

 紛れもない、あのアンナが、映っていた…

 …間違いない!…

 …あの女だ!…

 金髪碧眼の美人…

 あのサロンバスの中で、会った女だ…

 太郎の持ち主だ…

 私は、合点がいった…

 私は、納得がいった…

 同時に、

 …やはり、あの女か?…

 …あのアンナが、絡んでいたか?…

 と、思った…

 なにを、目的にしているか、しらんが、あのアンナが、関係していたか?

 と、気付いた…

 私は、

 「…すまんかったさ…」

 と、女子高生たちに礼を言った…

 そして、女子高生たちに、頭を下げた…

 「…すまんかったさ…礼を言うさ…」

 それから、太郎にも、

 「…太郎、オマエも、しっかり、彼女たちに、礼を言わねば、ならんゾ…」

 と、告げた…

 当然のことながら、太郎は、キョトンとしていた…

 意味がわからなかったに、違いないからだ…

 だから、太郎は、無言で、私を見ていた…

 私は、そんな太郎を見て、

 「…この女子高生たちに、こうやって、頭を下げるのさ…」

 と、再び、私が、彼女たちに、頭を下げて、見せた…

 それから、

 「…太郎も、私と同じように、頭を下げなきゃ、ダメさ…」

 と、言った…

 言いながらも、当然、太郎には、理解できんと思った…

 私の言葉が、わかるわけがないからだ…

 が、

 違った…

 まるで、私の言葉が、わかったように、彼女たちに、ペコリと、頭を下げた…

 そんな太郎の姿を見て、4人の女子高生たちが、口々に、

 「…太郎ちゃん、凄い…」

 「…太郎ちゃん、頭がいい…」

 と、言って、手を叩いて、喜んだ…

 が、

 実は、この中で、一番、驚いたのは、この私だった…

 この矢田トモコだった…

 まさか、私の言葉が、通じるとは、思ってもみんことだったからだ…

 だから、私の中で、ますます、太郎に対する疑惑が、高まった…

 一体、この太郎は、これまで、どこで、誰に飼われていたのか?

 どこで、どんなふうに、芸を仕込まれて、いたのか?

 そんなことを、考えずには、いられんかったからだ…

 私は、太郎を、見ながら、考えた…

 考え続けた…

 
 それから、女子高生たちと、離れ、私は再び、散歩に専念した…

 正直、後は、たいしたことは、なかった…

 私が、太郎の首にひもをつけ、歩いていたから、道行くひとは、驚いて、太郎を見た…

 まさか、猿が、街中を歩いているとは、誰も、思わんかったからだ…

 が、

 それだけだった…

 さっきの女子高生たちのように、私に話しかけてくる者は、誰もいなかった…

 ただ、猿が、散歩をしているのを、見て、
珍しいと、思ったのだろう…

 驚くだけだった…

 きっと、あの女子高生たちも、一人なら、私に話しかけて、こなかったに違いない…

 誰でも、同じだが、群れれば、勇気が出る…

 気が大きくなる(笑)…

 いわゆる、ヤンキーが、大勢で、群れるのと、いっしょ…

 誰もが、一人では、皆、おとなしい…

 だから、あの女子高生たちも、ひとりなら、私に話しかけてくることも、なかったに違いない…

 私は、思った…

 そして、散歩が、終わり、自宅に戻った…

 自宅に、戻ると、私は、太郎と、ふたりきりになった…

 いや、

 ホントは、ふたりきりという表現は、間違っている… 

 太郎は人間では、ない…

 太郎は、猿だから、一人と一匹が、正しいのかも、しれん…

 が、

 私にとって、そんなことは、どうでも、よかった…

 太郎と、いっしょにいられるのが、嬉しかった…

 なぜなら、私は、普段は、一人ぼっち…

 夫の葉尊は、仕事に出かけるから、昼間は、一人ぼっち…

 だから、正直、つまらないと、感じたこととが、多々あった…

 が、

 太郎が、身近にいることで、その孤独もなくなった…

 よく一人暮らしの男女が、年齢が、高くなれば、なるほど、ペットを飼いたがるが、その気持ちがわかった…

 痛いほど、わかった…

 そして、ペットを飼ったひとたちが、皆、口を揃えて、

 「…ペットじゃ、ありません…家族です…」

 と、いう気持ちもわかった…

 これは、私にとっても、同じだった…

 太郎は、ペットではなかった…

 太郎は、家族だった…

 太郎は、猿だが、家族だった…

 私は、思った…

 心の底から、思った…

 太郎が、ただ、可愛かった…

 太郎が、ただ愛おしかった…

 まるで、私は、太郎に恋していた…

 まさかとは思うが、一瞬、自分でも、そう思ったほど、私は、太郎が、愛おしかった…

 だから、太郎を抱いた…

 思いっきり、抱いた…

 そんなときだった…

 ピンポンとチャイムが鳴った…

 誰か、来たのだ…

 私は、インターホンの前に行き、誰が、やって来たか、見た…

 インターホンのカメラ越しに映った映像を見た…

 黒いサングラスをかけた、大柄な男だった…

 …まさか、葉尊か?…

 …葉尊が、やって来たのか?…

 考えた…

 が、

 葉尊は、日本の総合電機メーカー、クールの社長…

 めったなことで、昼間、自宅に帰って来ることはない…

 ということは、葉尊では、ないかも、しれん…

 私は、インターホンの向こうの画像を、ジッと見た…

 私の細い目をさらに、細くして、ジッと見た…

 そして、考えた…

 考えたのだ…

 もしかして、この人物は?

 私が、大体、当たりは、ついた…

 と、ほぼ、同時に、

 「…お姉さん…開けて…」

 と、いう声がした…

 私は、その声に、聞き覚えがあった…

 その声の主を、知っていた…

 それは、バニラ…

 バニラ・ルインスキーだった…

 「…バニラ…オマエ、何の用だ?…」

 私は、言った…

 強く、言った…

 嫌な女だった…

 二度と顔も見たくない、女だった…

 思い返せば、およそ二週間ちょっと前、このバニラと大喧嘩をして、私は、このマンションを飛び出した…

 このマンションから、飛び出して、家出をした…

 つまり、この矢田が、家出をした原因を作った女だった…

 私は、太郎と会わなければ、どうなっていたか、わからん…

 返す返すも、どうなっていたか、わからん…

 生か死か…

 それほどの極限状態に、追い込まれる原因を作った女だった…

 私が、そんなことを、考えていると、

 「…なんの用って?…」

 と、バニラが返した…

 「…そうさ…一体、なんの用事で、やって来たのか? 聞いたのさ…」

 「…リンダに頼まれて…」

 「…リンダだと?…」

 「…リンダに頼まれて、お姉さんを守ってと頼まれて…」

 すっかり、忘れていた…

 そうだ…

 そうだった…

 このバニラが、私の護衛だった…

 このバカ、バニラが、私のボディーガードだった…

 すっかり、忘れていた…

 リンダが、あのアムンゼンの豪邸で、私を守るのに、バニラが適任と念を押した…

 その事実をすっかり、忘れていた…

 が、

 この矢田とバニラは、天敵…

 互いに、相手を忌み嫌っている…

 それが、どうして、私を守ることに、同意したのか?

 謎がある…

 どうして、この矢田を護衛することに、同意したのか?

 わけが、わからん…

 ひょっとして…

 ひょっとして、このバニラこそ、刺客…

 この矢田の命を狙う刺客かも、しれん…

 ボディーガードの名目で、私に近付き、私に信用させ、最後には、私を殺す…

 推理小説で、よくある手だ…

 もしかしたら、バニラも、それを狙ったのかも、しれん…

 が、

 バニラは、リンダのお墨付きを、もらっている…

 ということは、どうだ?

 あのリンダもグルなのか?

 このバカ、バニラといっしょになって、この矢田の命を狙っているというのか?

 悩んだ…

 悩みまくった…

 すると、だ…

 バニラが、画面の向こう側から、

 「…チッ…」

 と、小さく舌打ちをする声が聞こえた…

「…まったく、葉敬に頼まれたからだけれども、あのクソチビを守るなんて…なんで、この私が…」

と、愚痴をこぼす声が、聞こえてきた…

私は、それで、合点がいった…

バニラが、やって来たことに、合点がいった…

おそらく、リンダが、葉敬に言ったに違いなかった…

リンダが、葉敬に頼んで、バニラを動かしたに違いなかった…

だから、

「…わかったさ…入れば、いいさ…」

と、言った…

そして、スイッチを押した…

すると、マンションのエントランスのドアが開かれ、バニラが、マンションに入った…

              
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み