第57話

文字数 4,721文字

 が、

 それは、驚くべきことでも、なかった…

 なにしろ、この矢田トモコも、35歳…

 もはや、お子様でも、なんでもない…

 葉尊が、私を選ぶに当たって、なんらかの下心と言うか、思惑があるのは、なんとなく、わかっていたというか…

 葉尊が、私を選んだ理由…

 それは、私が、平凡だからだった…

 身長も、高くなく、美人でもない…

 家も、金持ちでも、なんでもない…

 だから、ハッキリ言って、平凡…

 平凡そのもの…

 頭も、家柄も、平凡…

 とりたてて、誇るものも、なにもない…

 だから、私を選んだ…

 そういうことだろう…

 おそらく、葉尊は、あらかじめ、私の環境を調べ上げ、私を見つけて、プロポーズをしようと、画策した…

 台湾の大金持ちが、日本の平凡な家庭の娘と、結婚する…

 すると、当然ながら、それが、話題になる…

 同時に、それは、台湾の企業が、日本の誰もが知る、大企業を買収したことによる、反感を和らげることが、できる…

 ハッキリ言えば、日本人の大半は、欧米企業よりも、アジア系企業の方を、下に見る傾向が、強いからだ…

 いわば、下剋上というか…

 自分たちよりも、下の企業が、上の企業を買収したように、思える…

 すると、当然ながら、反感が生まれる…

 おそらく、それを、考慮して、葉敬、あるいは、葉尊は、私との結婚を画策したに違いなかった…

 それは、結婚して、時間が経ってみれば、わかる…

 私も、葉尊と結婚して、半年…

 当時は、わからなかったことが、徐々に、わかってきたというか…

 ある意味、冷静になることで、わかってきたことがある…

 結婚当時は、頭に血が昇って、考えられなかった(笑)…

 まさか、私が、台湾の大実業家の一人息子と結婚できるなんて、考えも、しなかったからだ…

 それは、何度も言うが、私が、平凡…

 平凡の極みだったからだ…

 つくづく、そう、思う…

 が、

 稀に、この世の中には、とんでもなく、自分のことが、わかっていない人間が、男女とも、いるものだ…

 私のように、平凡極まりない女でも、長身のイケメンでなければ、結婚しないとか、年収一千万を超えなければ、結婚しないとか、断言するものが、稀にいる(爆笑)…

 35歳の私のように、もう若くも、なく、ルックスも平凡、家も平凡、学歴も、平凡にも、かかわらず、だ…

 実際にそういう人間が、男女とも、いるものだ…

 普通の人間ならば、男女ともに、小学生の高学年、10歳程度になれば、集団での自分の立ち位置というか…

 男女ともに、自分は、他人様よりも、ルックスがいいか、悪いか?

 あるいが、他人様よりも、勉強が、できるか、どうか?

 さらには、異性にモテるか、どうか?

 など、なんとなく、わかるものだ…

 が、

 稀に、それが、まったくわからない者が、いる(爆笑)…

 偏差値40の工業高校を出ても、大企業で、課長になれるとか…

 とんでもなくハードルが高いことを、自分なら、できると、安易に考えるものが、いる…

 普通なら、とんでもなく、難しいことを、自分なら、あっさりとクリアできると、考えるものが、稀にいる(爆笑)…

 そして、そのような人間を考えると、まずは、考えられるのは、頭の悪さ…

 絶対、できないであろうことを、自分なら、できると考える頭の悪さだと、気付く…

 同時に、考えられるのは、自分に対する甘さ…

 とんでもなく、自分の評価が高い(爆笑)…

 例えば、学生時代、モテなかった男女が、別人のように、モテることは、普通はありえない…

 もし、あり得たとしたら、それは、環境の変化…

 例えば、学生時代は身の回りには、男女半々だったのが、就職して、自分の周りを見れば、男ばっかりだったり、真逆に、女ばっかりだったり…

 その中に、いて、周りが、男だらけで、自分が、若い女なら、当然、モテる…

 真逆に、周りが、女だらけで、若い男なら、これも、また同じ…

 モテる…

 要するに、環境が、激変したから、急にモテだす…

 が、

 そんなことが、なければ、普通は、あり得ないだろう…

 学生時代に、モテなかった男女が、就職すれば、別人のように、モテだすことは、普通は、あり得ない…

 整形でも、して、美男美女にでも、ならなければ、あり得ない…

 もっとも、女の場合は、お股がユルいと、モテだす可能性も高い(笑)…

 要するに、

 「…あの女は、簡単にやらせてくれる…」

 と、男の間で、噂になっているから、モテる…

 本人は、学生時代は、モテなかったけれど、大人になって、別人のように、モテだしたというけれど、その理由は、コレ!

 でも、本人は、その事実に気付かない(爆笑)…

 が、

 誰でも、そんなものかも、しれない…

 自分のことは、わからない…

 自分のことは、甘く見る…

 そんなものかも、しれない…

 が、

 何事にも、程度がある…

 何事にも、限度がある…

 さっき、例に挙げた偏差値40の工業高校を出て、大企業で、課長になろうとするのは、無謀というか…

 そこまで、調子に乗る人間も、あまりいない(笑)…

 そして、それを見ると、やはり、それは、偏差値40だからと、誰もが、考える…

 偏差値40だから、そんなことも、わからないと、周囲のものは、考える…

 事実、その通りなのだろう…

 が、

 当然、偏差値40でも、そう考えるのは、稀…

 大半は、そこまで、調子に乗らない…

 それを、考えると、やはり、その人間は、生まれつき、頭が悪い…

 あるいは、生まれつき、とんでもなく、自分に甘いというか…

 自分の評価が、とんでもなく、高いと、思うものだ…

 そして、そんな人間は、世の中に、ごまんといるものだ…

 なにしろ、世の中は、広い…

 そんな人間は、たくさんいるだろう…

 が、

 やはり、世間の中では、少数派…

 だから、滅多に、お目にかかることもない…

 それゆえ、これを、読んで、

 「…そんなこと、あるわけないじゃん…」

 と、考える人間も、いるだろう…

 が、

 これは、事実…

 紛れもない事実だ…

 世の中には、ビックリする人間も、稀にいるものだ(笑)…

 が、

 大抵は、そこまで、調子に乗るというか、自分の評価が高い人間は、周囲にいないものだ…

 だから、わからない…

 そんなことを、言っても、ウソを言っていると、考える…

 ウソを言っていると、思われる…

 そういうものだ…

 誰もが、見たり、聞いたり、経験しなければ、わからないというか…

 経験しなければ、実感しない…

 それが、当たり前だ…

 私自身、そんな人間と会わなければ、

 …まさか、そんなことが?…

 …まさか、そこまで、調子に乗る人間が、いるなんて?…

 と、思う…

 自分の信頼する友人や、会社の同僚に聞いても、眉唾物というか…

 素直に納得できない…

 が、

 現実に、いる…

 現実に、存在する…

 そして、それを、思えば、世の中は、実に、広いと思う(爆笑)…

 世の中には、実に、さまざまな人間が、いると、思う…

 そして、なにより、経験は、大事だと、思う…

 どんなことでも、経験しなければ、身にならないというか…

 経験しなければ、実感が湧かないからだ…

 私も、以前、今の話を昔からの友人にして、

 「…ウソ? …話を盛っているでしょ? …そんなこと、あるわけないじゃん…」

 と、言われたことが、ある…

 当然、私は、必死になって、

 「…ウソじゃないさ! ホントさ…」

 と、言ったが、その友人には、信じて、もらえんかった…

 が、

 いま、考えれば、それも、わかる…

 今、考えれば、それも、理解できる…

 どうしても、自分が、直接、見たり、聞いたり、しなければ、

 「…そんなこと、あるわけないじゃん…」

 と、いうことが、世の中に、結構あるものだからだ…

 そして、そんなことが、続くと、その友人とは、自然と、距離を置くと言うか…

 付き合わなくなる(笑)…

 話が、合わなくなるからだ…

 学生時代、いかに、仲が良くても、学校を卒業して、就職したり、私のように、就職はせずとも、契約社員や、派遣社員、バイト等で、さまざまな職場を経験すると、今も言ったように、通常では、あり得ない人物と会うと言うか…

 とんでもなく、自分に甘かったり、とんでもなく、自分の評価が高い人間と、稀に、出会う…

 が、

 普通は、そんな人間と、なかなか、お目にかかれないものだ…

 とりわけ、一つの会社しか、経験しない場合は、特に、そう…

 そして、その会社が、一流会社だったりする場合は、特に、そう…

 会社が、有名ならば、偏差値の高い、頭のいい人間が、多いから、やはり、おかしな人間と会う確率が、低いからだ…

 だから、話が、通じないと言うか…

 話が、合わなくなる…

 だから、互いにつまらなくなるから、距離を置く…

 結果、付き合わなくなる…

 そういうことだ…

 そして、これは、誰にも、当てはまる…

 女の場合は、まだ、いい方だが、これが、男の場合は、特に、そう…

 やはり、男の場合は、どうしても、会社の話というか、仕事の話が、中心になるから、互いに、話が、噛み合わなくなる…

 結果、付き合わなくなる…

 よく、歳月は、ひとを変えるというが、歳を取れば、取るほど、いかに、学生時代、仲が良かった人間でも、話が、合わなくなるというか…

 学校を卒業して、それぞれが、歩んだ道が、まったく違うのだから、人間もまた、変わってゆくのが、当然だ…

 むしろ、まったく変わらないのが、変というか…

 おかしい…

 誰もが、歳をとれば、少しは、変わるものだ…

 いい例が、恋愛…

 男でも、女でも、顔が命というか…

 ルックス重視の男女でも、結婚した相手が、ルックスが、それほど、良くない場合が、大半だろう…

 ある程度、歳をとれば、中身というか…

 人柄を重視するようになる…

 あるいは、自分が、さほど、ルックスが、良くない場合は、高望みというか…

 ルックスが、良い相手とは、結婚することが、難しいと悟るものだ(笑)…

 要するに、現実を見るものだ…

 それが、大半だ…

 あるいは、収入とか…

 とにかく、現実路線に、切り替えるものだ…

 だから、例えば、学生時代に、平凡な男女が、

 …自分が、いかに、モテるか…

 とか、

 …自分が、いかに、凄い人間か…

 周囲に、吹聴する人間が、パートナーと歩いていて、昔、知っていた人間と、偶然、どこか、街中や、ショッピングモールで、会ったときに、急いで、顔を伏せる…

 要は、自分が、以前、言っていたことと、現実にやっていることが、違い過ぎるからだ(爆笑)…

 まったくの平凡なルックスや学力を持つ女が、自分は、絶対、イケメンでなければ、結婚しないと、豪語する…

 当然、そんなことが、できるはすがない…

 普通のルックスの平凡な男と結婚する…

 が、

 それが、本人は、恥ずかしくて、仕方がない…

 さんざん、デカいことを、言っていたことを、周囲の者は、皆、知っているからだ…

 だから、それを、知っている、以前の学校の友人や、職場の同僚に、自分のパートナーを見せたくない…

 自分自身、以前、周囲に言っていたことと、やっていることが、全然、違うことが、わかっているからだ…

 だから、恥ずかしい…

 それゆえ、現在のパートナーを見られたくないから、顔を伏せる…

 が、

 いかに、顔を伏せても、体型や歩き方を覚えていれば、わかる場合も多い…

 とりわけ、背が低かったり、高かったり、太っていたりする場合は、顔を伏せても、わかる場合が、大半だろう…

 私は、なぜか、葉尊のことを、考えながら、いつのまにか、そんなことを、思い出していた…

 いつものことだった(笑)…

  
 いつものことだったのだ(爆笑)…

               
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