一文小説集「脱獄」等三篇
文字数 207文字
「脱獄」
刑務所の自由時間、中庭で誰かが「脱獄だぁ」と言ったので、見ると、一匹の蝶が塀の向こうに飛んでいくところだった。
**********
「煙」
電車で目の前に座っているおじさんのズボンのファスナーが開いていて、そこからずっと線香の煙が立ちのぼっている。
**********
「ぎゅっ」
あてどなく歩いている時、霊柩車を見かけたので、ポケットに手を入れ、恋人の死体から切り取った左手の、親指を、ぎゅっと握りしめた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)