一文小説集「脱獄」等三篇

文字数 207文字

「脱獄」

 刑務所の自由時間、中庭で誰かが「脱獄だぁ」と言ったので、見ると、一匹の蝶が塀の向こうに飛んでいくところだった。

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「煙」

 電車で目の前に座っているおじさんのズボンのファスナーが開いていて、そこからずっと線香の煙が立ちのぼっている。

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「ぎゅっ」

 あてどなく歩いている時、霊柩車を見かけたので、ポケットに手を入れ、恋人の死体から切り取った左手の、親指を、ぎゅっと握りしめた。
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