再会

文字数 1,025文字

 東山道を右に折れ武蔵道へと入り、もうあと少しで竹沢の屋敷に着こうかと云う時のことである。少将局を乗せた輿は、数名の武士に襲われた。彼らが南朝の一族なのか、北朝の武士なのか、それは少将局も彼女を護衛する武士も分からなかった。
 そもそも武士に北朝、南朝の区別などない。彼らは利のある側に味方するだけだ。現に足利直義は尊氏の弟でありながら、後に南朝に味方して幽閉の末、暗殺されている。
 結局、そこに思想の違いなどはない。彼らは、形だけそれぞれの天皇を奉じて、権力闘争をしていたに過ぎない。
 少将局を護衛していた武士は、彼女を守るように輿の周りに陣を作り、持っている刀を抜いた。しかし、敵の集団はそれに臆することなどない。彼らはこの獲物を奪い取ることに命を賭けているのだ。
「おい、その輿の中、女であろう? 儂らにそいつをよこせ!」
「ええい、下郎。下がれ、下がれ!」
 武士の一人が大声で怒鳴りつけてくる。護衛の兵士もそれに言い返す。お互いに争うことが怖いので、虚勢を張り合っている。殺し合いに慣れた者ならば、有無を言わせずに相手を切り倒すだけだ。
 そのような戦さ慣れした男が馬に乗って現れた。彼は何も言わずに、板輿に群がっていた暴漢たちを次々と切り伏せていく。
 彼には輿の中が誰であろうが、盗賊が北朝方かどうかも関係ない。この様な狼藉を働く輩は切り伏せるしかない。彼はそう思っている。いや、それすら考えてはいなかったかも知れない。
 彼の名を源朝臣義興という。そう、あの折烏帽子の青年であった。
 義興は、鎌倉公方の足利基氏討伐の命を受け、異母弟の新田家嫡子義宗と共に新田庄に戻り、丁度この時再度の挙兵をしていたのである。ただし、挙兵と云っても即座に戦闘状態になった訳ではない。宣戦布告して、まだ局地的な小競り合いを始めただけに過ぎなかった。

 輿の外からは、何やら金属同士がぶつかる音が響いている。なお、肉を斬る音というものは聞こえてこない。聞こえるのは刀同士、あるいは刀が鎧に当たる音だけである。
 少将局は正面の簾を上げて、輿の外を眺めてみた。そこには馬に乗った壮年の鎧武者が血刀を手に下げたまま、何やら大声でわめいている。少将局は恐ろしさのあまり、簾を下ろし、目線を正面の一点に戻して、輿の中でピンと背筋を伸ばした。
 そうして暫くした後、突然輿の簾が強引に上げられた。それをしたのは、今、彼女らの窮地を救ってくれた鎧武者であった。
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