突き出せ5392
文字数 2,477文字
なんやかとあった週末が明けた月曜日の朝の9時前、
眠そうな学生が重そうな足取りで門に吸い込まれていく。
それなりの偏差値がないと入れないそんな有名大学の出入口前に一台の高級外車が停まる。
行ってらっしゃいうさぎさん……ああ、ちょっと待ってください
うさぎが助手席から降りようとすると榊が手を伸ばしてきて頬に触れた。
咄嗟にうさぎは目を瞑っていた。
でも期待していたものは降りてこなくて、すっと瞼を一撫でして離れていった。
まつ毛が瞼に付いていましたので……どうかしました?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!!!!
知らないっ!行ってきます!
あっ、ちょっとうさぎさん!?
……何か怒ってなかったか?何かしたか?
イライラして締めたドアはバンと大きめな音を立てて閉まった。値段を考えるとちょっと申し訳なく思う。こんな事は何回かあったが謝った事はないので今回も謝らない。あいつも悪いのだ。
うさぎはそのまま門を潜り、回らない頭で1限へと向かうのだった。
そして、4限まで終わらせたうさぎはそのままバイト先であるメイド喫茶へ電車で向かう。
テスト期間が終わったのか車内は騒々しい高校生たちが多かった。いつもは座りながらソシャゲの日課でもこなすのだが、今日は立つしかないくらい満員だった。
(最悪だわ…なんでバイト入れちゃったんだろ、めんどくさ。
朝キレちゃったしあいつにも会いたくない。え……、ッ!!まさか)
いきなり違和感を感じてうさぎは我に返った。お尻に感じる何かが触れた感覚。一瞬などではなく、縦横に手の甲で触ってくる、絶対に意図的な痴漢だった。
(うぅ…迂闊だわ、壁際に居るべきだった…うぅ〜〜しかも何か髪の匂い嗅いでるし…!きもい…!)
こういう時、意外にも気が弱くて消極的なうさぎは耐えるしかなくて、過去にあった時はそうやってやり過ごしてきた。電車を停めたりしたら他の乗客にも迷惑がかかる。
ブルブルと震えながら早くおわってくれないかと願う。
そんな時、髪を嗅いでいた男の息が上がったかと思うと尻に感じる何か硬いもの。胸に手を伸ばされ、乳首の位置を探り当てようと服の上から手をモゾモゾされる。
終わるどころかさらにエスカレートしてきて、うさぎは悪寒に震え上がった。
可愛い声で啼くなぁうさぎちゃん。
嫌だなんで言っても胸もここも、反応してるぜ?なぁ
耳元で囁かれた言葉に固まった。名前を知られていたという事は無差別な痴漢ではなく狙われたものだということ。しかも男だと分かっている。怖い。明らかに異常なのに誰も助けてくれない。そう思うとじわっと目頭が熱くなって泣きそうになってきた。
ここで射精しちゃうと車内で話題になっちゃうね。あぁ…うさぎちゃんの精液どんな味がするかとても興味深いよ…はぁはぁ
手が離れたかと思うと男が苦しそうな声をあげ騒ぎ出した。
驚いて振り返ると男は電車でよく見かける中年で、バイト先でも客で来ていた事がある男だった。手を逆さまに捻られて唸っていた。
おっさん、それ痴漢だからさ、犯罪なんだよね。一緒に次で降りてよ。
うん。大丈夫?…な訳ないか。ごめん、もうちょっと早く来れればよかったけど今日混みすぎだしさ。本当ごめん。
すいませーん!通してくださーい!
はぁ…はぁ…うた、小柄だから早すぎ。オレめっちゃ足踏まれたっつの。
停車した駅で降りて、意気消沈し連れ去られた宇宙人みたいな状態になった男を駅員に痴漢を引き渡した。駅員さんにうた達は誉められた。スルーしている人が圧倒的に多いそうだ。
うさぎは声を震わせながらも事情聴取に応じた。その過程男なんですけどと打ち明けた時の驚いた顔を思い出すと笑えてくるくらい呆然としていた。
お疲れ。店には欠勤の連絡しといたから。心配しなくていいよ。
あ、ありがとう……本当に助かったわ、うたと…えっと……
ああ、こいつの名前なんて覚えなくていいよ。モブだし。
あはは……うたって相変わらずね……あ、あれ、何だろ、なんか涙が
怖かったんでしょ、泣きなよ。ハンカチある?…ああついでに、胸、貸してやろうか?
ハンカチくらいあるもんっ!うたの薄っぺらな胸なんていらないもんっ!
べっつに〜?彼女のいるモテ男は違うなーって思うまして。オレさっき配ってたティッシュしかねーよ。
はぁ…うっせ。それ嫌みだろうけどお前がモテないだけだし。大体トイレから出て手洗った後ハンカチで拭くでしょ。ありえない、汚いんだけど。
正論でもう何も言い返せねえよ!!やっぱ泣く!!!!!
どんな顔面なんだよ!?本命と付き合いたいんですけど!?
うさぎちゃんまで!?笑ってくれるならいいけどさぁー
……うさぎ、1人で帰れる?家、電車乗らないと帰れないよね
一瞬の間。
ちらっとうたが視線をうさぎの後ろに向けたかと思うと口火を切った。
んー…送ろうかなって思ってたけど。僕より適任がいるか。……じゃあね。
あっ、ちょ、うた!!待てって。あ、じゃあねうさぎちゃん。
いきなり帰られて1人になったうさぎは公園のベンチに佇む。
後ろから足音が聞こえてきて、瞬間うさぎは身を固くした。
さっきのさっきだ、またあいつみたいな不審者かもしれないと。
足音はうさぎのすぐ後ろで止まった。
そして、後ろから手が伸びてきたかと思うと抱きしめられるーーと思ったうさぎは咄嗟に髪を振り乱して抵抗していた。
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