捨てられた過去と捨てていく今に
文字数 1,353文字
日付が回った夜。
みずきはワインセラーから取り出した年代物のワインを開けた。グラスに注いで、香りを楽しんでから口に含む。
本当は夜景を眺めたいけれど、ここは地下なので窓も何もないことが残念だ。
すっかり疲れて寝てしまったゆたの寝顔を見ながら、飲むワインは格別で、より美味しく感じられる。気持ちよさそうに寝息を立てる姿がかわいくて、思わず頬を撫でる。
なんだか納得がいかなくてぷにぷにとした弾力のあるほっぺをツンツンとついて遊ぶ。
嵐のように去って行ったが、あの気に入りようでは早いうちにまた来るかもしれない。
もう来るなと言えば不自然だしまた来てと言ってしまったが、正直もう来てほしくない。しかし、みずきを捕まえるまで、手掛かりのあるここにはまた来るだろう。
だから好きな男の子のタイプも似るのかもしれない。かわいい男の子を見る反応が似ていたことを思い出して笑ってしまう。
母が再婚して、今は門脇姓だが、旧姓は鳳である。
業界で有名なデザイナー一家、鳳グループの息子。
その代表であり、父親である男に呼ばれたということだ。
落ち目だった鳳家は金と、地位のために当時妻だったみずきの母を捨て、令嬢と再婚した最低な男だ。それが許せなくてみずきは家を出て、母についていった。
それが中学3年の時。
そのことで母が病んで自暴自棄になったりしていたから、高校生の頃は酷いほど荒れてた。再婚したのが大学生で、みずきには妹が出来て、母も幸せになれる人と結婚して精神は落ち着いた。その原因を作った父親のことは許すことはできてない。
もはや、父親とも思いたくないほどである。
正直帰りたくはないし、帰るつもりもなかった。
しかし、居場所を突き止められてしまったのは厄介だ。
こうしていたところでいずれバレるだろう。とみずきは思う。
最悪の場合ここを奪われることを考えるとその前に自分から動くほうがいいだろう。