「キミ」がいない場所
文字数 1,361文字
朝になってゆたは目を覚ました。
すぐにその違和感に気が付いた。一緒に寝たはずのみずきが居なかったことである。
みずきさんが……いない……
カチャ
みずきさん！？
いえ……すみません、私です。ゆたさんが居るから驚いてしまいましたよ。
なんだ……榊さんか。おはようございます。昨日はこちらに泊まったんです。でも起きたらみずきさんが居なくて……何か知りませんか？
いえ……すみません、分かりません。いずれふらっと帰って来そうな気もしますが……ちょっと電話してみますね。
プルルルルルル……
繋がらない……まあ、こんな時もありますし、ふらふらしてる人ですからそんなに心配はいらないと思いますよ。
そう……ですね。今日もシフト入ってるので頑張ります。
ギュ……
ゆたは榊の腕に抱きしめられていた。腕に抱かれ、頭をぽんぽんとされる。
(ええっ……抱きしめられてる……！？)
元気を出してください。みずきさんも、貴方にそんな顔をして欲しくないと思います。今は笑って、帰りを待ちましょう。ね？
は、はいっ！そうですよね。ありがとうございますっ！元気になりました！
カチャ
ボトン
扉が開いて誰かが入ってきた後に何かを落とした音がした。
扉の方に視線を向けるとうさぎが立っていた。落としたものはカバンのようだ。
キャーーーーーーーーーーーーーッ！！榊が……っ！変態になってるーーーーーーー！！
うさぎさん！！これは違います！！誤解です！！私はゆたさんをただ慰めようとして……！
やっぱりお姉さまの言ってたことは本当で、いつもは紳士気取りで人畜無害そうな顔してるのに2人きりになったらスケベ発動するんだーーーーーー！！
スケベではないです！！今のに下心は一切ありません！！！
ほんとに～？信用ならないわね……男は下心なしで抱きしめたりしないものよ！
ゆたさんは男ですから抱きしめても何ら問題はないと思いますが！？
ふむ……まあそうね、よく考えたら何の問題もないわ……
でしょう
もうっ！ドヤ顔しないのっ！変態！！
変態……
うさぎはくるっと振り向いて、ゆたの方に向いた。
大丈夫？この変態に何かされてない？
あ、はい、大丈夫です何もされていません。というか慰めてくれただけなので、むしろ感謝しなくちゃいけないくらいです。
こいつ実はむっすりスケベの童貞らしいから気を付けるのよ、お姉さまが言ってた！
童貞でむっつりスケベ……
ちょっと！うさぎさん言いふらすなんて酷いじゃないですか！それと童貞は関係ないです！！
でもなんで落ち込んでたの？何かあった？
あ、えっと……朝起きたらみずきさんが居なくなってて、榊さんに電話してもらったんですけど繋がらなくて……どこ行ったんだろうって思うと……。
……朝起きたらって何してたかは聞かないでおくわね。うさぎの為にも。で、お姉さまが居なくなって落ち込んでたってわけね。
そんなの……うさぎたちはお姉さまを信じていつも通りにして、帰って来る場所を守るだけよ。元気に、笑顔でね。
うさぎさん……その通りですね。いつも以上に張り切ってメイド頑張ります！いいメイドになったねって褒めてもらいたい！
そうよ、その笑顔でね。……まあ、ナンバーワンメイドはうさぎだから、立場は弁えなさいね。
はいっ！今日もよろしくお願いしますっ！
しかし、それから一週間経ってもみずきは店から姿を消したままだった――。
