第四話 着任式

文字数 8,266文字




 午前十一時二十分キッカリ。
 埃っぽく、それでいて何か懐かしい匂いのする教室の一室。
 そこで俺は、なんの因果か教壇の上に立っていた。

 陽光が窓から差し込む中、対面するのは一糸乱れぬ整列をした九人の少女達だ。

 「ただいまより、ミシマ准尉の着任式を行います。部隊長臨場、部隊気をつけ!」

 「気をつけ!」  
 
 シノザキ伍長の進行で、気をつけの号令がなされる。
 すると、最前列にいた少女が号令をかけ、その場に居た九人の搭乗者候補生達が一斉に気をつけをした。
 少しぎこちないが、皆んな真剣だ。
 シノザキ伍長は短い期間で結構な数の訓練を施したに違いない。

 「部隊長、訓示。指揮者のみ敬礼」
 
 シノザキ伍長の司会進行は続く。
 先頭の少女のみと敬礼を交わし、覚えてきた文言を吐いた。

 「部隊休ませ」

 「せいれーつ、休め」

 ただの休めかと思ったが、姿勢をとるなり顔だけ一斉にこちらに向けてきた。
 少しシュールで笑いそうになったが、真剣な眼差しの少女達を見て咳をして誤魔化す。
 少し間を空けてから話し始める事にした。

 「少し遅いが、おはよう」

 「「「おはようございます!」」」

 「本部隊に配属されたミシマ准尉である。昨今の緊迫化した状況下において、諸君らの——」

 なるほど、世の全ての校長先生が何故つまんない話を長ったらしくするのか理由が分かった。
 所作や言動は子供達に見られているイコール大人にも見られているのだ。

 つまり、滅多な事は言えないし出来ない。
 子供達にとってつまんない話を繰り広げなければならない。
 体感十分程話し終えた後、俺が壇上を降りて式は終了した。

 ——ふと、教室の後方の壁に飾られた中隊旗が視界に入った。
 旗には、〝電光中隊〟の文字が。
 
 デンコウ、か。
 俺の受け持つことになる、この部隊の名称だ。

 昔ドキュメンタリーか何かで見たが、軍にとって軍旗とは、自身らの象徴と共に誇りなのだという。
 なのに壁に飾られた旗を見てみると、手作り感満載のしょぼい旗だった。

 シンボルマークも無く、達筆な墨字だけ。
 これが国家の威信を懸けて戦わんとする部隊に与える旗なのだろうか?
 がらにもなく、そんな考えが一瞬浮かんだ。 








 
ΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔ

 指揮官室に戻り、昼食まで時間があるので今日の午後の日程を確認する。
 
12:00 昼食
12:30 中休憩
13:00 施設巡回
13:40 面談一部
15:00 小休憩
15:15 面談二部
16:55 終礼
17:20 夕食
21:00 夜点呼
22:30 消灯

 うーむ、今日は……ほぼほぼ面談だな。
 候補生に限らず、勤務に就く軍人達も交代で俺の面談を受けるのだそうだ。

 まあ、コレは納得だ。
 こっちとしてもどういった奴らかを把握しておく必要がある。
 叔父の話では滅びの組織に好き好んで残った戦闘狂共と言っていたのでかなり憂鬱だが……。

 しっかし、分からないのは叔父の方だ。
 一歩身を引いた、無気力な発言ばかり目立つのに、未だに軍に残留している。
 てっきり一番最初に辞めそうな人だと思ったのに、不気味だ。

 続いて次の日からの訓練日程を見る事にした。
 ……なんだコレは?
 候補生達の教育期間の前半がほぼほぼ基礎体力向上訓練というのが占めていた。
 持久走に筋トレ、食育なんてのもある。
 格闘技能に射撃技能、通信技能に山中潜伏技術etc……。

 そこからやっと操縦技能訓練という風に記載されてあった。

 「シノザキ伍長」

 「はい」

 「この基礎体力向上やら格闘技術はエルフライドを着用しての訓練だろうか?」

 「いえ、生身の教育です。まずは基礎となる体力と技術を習得するというのが大綱であります」

 生身の基礎……?
 パイロットとしての素養だろうか?
 長時間飛行に備えての。
 いや、小学生六年生くらいの女の子の体力が百日程度の訓練で長時間活動を可能に出来るとは思えない。

 「ほう、この訓練日程の発案は貴官かね?」

 「いえ、中央本部の立案です」

 「これを見て何か思う事はあるか?」

 「国家存亡の期にこれは少し生ぬるいとは思います。ですが、候補生の年齢を考えると妥当なものかもしれないと判断しました」

 うーむ……なんだろう。
 やっぱり全部無駄に見えるのだが?
 エイリアンと戦うためにロボットに乗るのに、生身の技術なんて必要ないだろう。
 むしろハードにやるならばずっと操縦技能訓練で充分だと思うが。

 ちょっと、軍が心配になるな。
 せっかく最新技術のロボットがあるのに、こんなお堅いお役所仕事みたいな事をするなんて勿体無さすぎる。

 これなら俺が邪魔する様なムーブを取ろうが取らまいが負けに行く様なものだらう。 
 叔父が言っていた通り、たった九機のエルフライドで何万機と居るかもしれない本家のエルフライド軍団に勝とうなんざ正気の沙汰では無い。

 しかし、せめて真面目に取り組んで部隊を運用出来るくらいにはしておかないと、部屋の隅で休めの姿勢で待機しているおっかない伍長にボコボコにされそうだ。
 指揮官だって交代させられるかもしれない。

 ……そうだ!そうなる前に、いざとなれば候補生の乗るエルフライドを使ってとんずらをしよう。
 
 その為には候補生達の信頼を勝ち取る様な密接な関係を構築する事が前提だ。
 そして、搭乗者達への確実に操作できうる技能と判断能力の構築。

 その為には俺が考える一番効果的な訓練内容の実践——これを実現するには、現行の予定をかなり変更が必要となる。

 「明日からの訓練日程等、私の権限で変更する」

 「はい」

 表情をチラリと伺ったが、あまり変化は見られなかった。
 まあ、このくらいのことは想定の範囲内なのだろう。
 
 「また、訓練内容について明日には君に伝えるので、候補生と共に一時待機しておいて貰えるか?」

 「分かりました」
 
 まず着手する事は候補生達の得意不得意を洗い出す所からだ。
 俺はゲームで様々なジャンルをこなしてきた。
 その中にはロボットモノや育成ゲームなども含まれている。

 無課金ながらかなりのランクまで上り詰めていたのだ。
 不謹慎ながら、久しぶりに胸が躍っていた。
 俺は幸運かもしれない。
 与えられた未知のテクノロジーにある程度の権力。 

 宇宙人達との戦争はさておき、俺の教育でどこまで彼女達を運用できる様になるのか。

 それに道徳的大義を貼り付ければ正義以外の何物でも無い。
 俺は正しい、俺は正しいと祈る様に心の中で呟いた。
 
 

 
ΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔ

 昼食は指揮官室に運ばれてきた。
 緑の作業服っぽい服に身を包んだ少女が三人。
 着任式で指揮をとっていた少女……資料で見た名前は確か珍しい名前だった。

 キノトイだったか?
 しかし、それとは別に全員同じ様なお団子ヘアーなので個性が無い。
 
 「キノトイ候補生他、三名の者入ります」

 「入れ」

 「キノトイ候補生他、三名の者はミシマ准尉の昼食をお持ちしました!」

 イチニ、イチニっとお盆を持った少女達が行進しながら俺の机の前に来た。
 間抜けな光景に俺は呆気に取られたが、目の前に湯気を立てる食事を置かれて我に返る。

 「ありがとう、美味しそうだ」

 お礼を言いながら手をつけようとすると、少女達はジッと見つめながら待機していた。
 命令が無いと動けないのか?俺は慌てて手を振る。
 
 「行っていいぞ」

 「キノトイ候補生他、三名の者、要件終わり、帰ります」

 バタンッと部屋から去る少女達を見届けてから、俺はシノザキ伍長に向き直った。

 「候補生が食事を用意するのか?」

 「はい、流石に糧食係はいるので配膳のみですが、精神教育の一環です」
 
 精神教育ねぇ……なんだか軍人マシーンの養成に見えるが。
 しかも、聞いてみれば入室以外にも様々な手順が必要になるのだとか。
 室内で整列してイチニ、イチニッて……ギャグじゃないか。

 面倒だし、時間がかかる。
 これも撤廃だな。
 軍の慣習的なモノはとことん排除していこう。
 俺は心のメモに刻んでから窓の外を眺めた。

 反射して映るのは不敵な笑みだ。
 明日からは大改革を施してやる。
 呆気に取られる連中の顔が楽しみだ。






ΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔ

 
 「エンジニアとは顔を合わせたのか?」

 「私は顔合わせ位はしましたが、お恥ずかしながら合衆国語を習得しておらず、挨拶程度で終わっています」

 昼食を終え、施設巡回の時間がやってきた。
 食事を作る糧食係、全体の健康管理をする衛生係とは対面したが、最後は体育館を根城にする合衆国のエンジニア達と面会する。

 シノザキ伍長と共にグラウンド向こうの体育館まで足を運んでいた。
 体育館はオンボロ校舎と違い、一年半前まで市が管理し、運用していた為か外観からして中々新しかった。

 だがそれも、整備された道路が大規模な土砂崩れを起こして封鎖されてからやむなく放棄された。
 立派な廃墟となり、それを軍が買い取って今の形となる。

 シノザキ伍長の話では合衆国軍人が数十名、二、三週間前にヘリでやって来て中を改築したり、エルフライドを運び込んだり、慌ただしくしていたそうだが。

 やることが終わると、エンジニア三名だけ残留し、今はプッツリ糸が切れた様に静かにしているらしい。

 「そうか」 

 話しながら入り口まで到着する。
 ガラス張りの玄関があり、そこを抜けると鉄扉の先のコートがあるフロアがエンジニア達の居住空間兼、作業場所だ。

 鉄扉を開けると————また扉があった。
 シルバーの銀メッキの様な輝きを放つ両扉だ。
 オイルと金属製品の匂いが鼻腔をくすぐる。

 「また扉か」

 「アルミ製なので、電磁波対策だと思われます。エルフライドは通常では観測し得ない量の電磁波を放出する為、電気製品を全てダメにしてしまうそうですから」

 解説を聞きながら両扉に手をかける。
 中に入ると、銀色の世界だった。
 体育館内はアルミの壁で覆われ、天井にはクレーンが設置されてある。
 そこから——白いアーマーに身を包んだ巨人が何体も釣り下がっていた。

 二、三メートル程だろうか?  
 プロペラもジェット機構も見当たらないが、これが空を飛び回って世界中の軍隊を恐怖に陥れたのだ。
 思わず息を呑みながら近づき、手を触れる。
 まるで、氷の様に機体は冷えていた。

 「ミシマ准尉、この部屋にエンジニアが居ると思われます」

 振り返ると、アルミ缶を倒した様な、隅に小さい部屋があった。
 扉の前にシノザキ伍長が立っている。
 俺は軽く手を振りながら部屋の扉へと近づく。
 シノザキ伍長が開けてくれたので、中に入ると——。

 「よっしゃー!! フルハウス、これで金は取り戻したぜ」

 「があー!! アンタ、イカサマしてんでしょ!?」

 「エマはここぞという時に勝負弱いな」
 
 キャッキャっ言いながら軍服を着た黒人女性と白人男性二人がポーカーをしていた。
 チラリとシノザキ伍長の様子を伺うと、眉間に皺を寄せ、今にもブチギレそうになっていた。

 マズいな……まさか遊んでるとは思わなかった。
 シノザキ伍長がキレる前に俺は接触を図る事にした。

 「楽しそうだな」

 背後からの一言に、シンッとその場が静まり返る。

 「え?」

 「……おい、准尉だ。例の」

 「マズいんじゃないか?」

 「きょ、きょきょっ今日だっけ?」

 三人組は慌ててポーカーを放り投げて整列する。

 「こ、こんにちわ准尉。ちょっと、エルフライド運用に関連する確率論をカードで再現していたところです」

 釈明してきたのは一等軍曹の階級をつけた美人な黒人女性だった。
 胸元にはエマ・G のネームが刺繍されていた。
 
 「そうか、エマ一等軍曹殿。ポーカーは俺も得意だ。それなら私でも役に立てそうだな」

 俺がそう言うと、ハハハッ……と汗を流すエマ一等軍曹。

 「おい、無茶苦茶流暢だな、訛りも無い」

 「それに……ガキみたいだ、東洋人はガキっぽく見えるけどその中でも……只者じゃ無さそうだな」

 エマの後方にいた白人二人がヒソヒソ話を始めた。
 髭が濃い強面な男と軽薄そうな細身の男だ。
 どちらも二等軍曹の階級をつけている。
 階級的にエマという女性が二人の上官のようだ。
 それにしては……。

 「声がでかいってきこえるぞ!」

 上官っぽく無いな。
 ていうかお前の声のがデカいよ。
 三人は合衆国軍人らしからぬ、ゆるそうな雰囲気をしていた。
 合衆国軍人といえば世界最強の軍隊だ。
 規律も高く、屈強な精神も併せ持つ。
 それにしてはどうも素人くさい。
 まあ、融通が利きそうな相手なので都合は良いが。
 俺はクイッと顎で合図して部屋の外に出る。
 慌ててエマがついてきた。

 「白いのがエルフライドか?」
 
 エルフライドの前で親指を指しながら聞くと、エマは太陽な笑みを浮かべながら答えた。

 「ええ、准尉殿! アレが我が合衆国が誇るエルフライド・タイプゼロです!」

 合衆国が誇る、か。
 実態はエイリアンから盗み出した盗品である。
 まあいい、とりあえずコイツを動かすには彼らが必要だ。
 現段階では地球上で最もこの兵器に詳しい集団だからな。

 「何かマニュアルはあるのか?」

 「え、マニュアルですか?」

 聞くと、すっとぼけた様に首を傾げるエマ。
 俺はため息を吐きながら言った。

 「動かすにあたって、だ。そもそもコイツは狙い通りちゃんと動くのか?」

 みるみるうちにエマの表情が曇りだす。
 怪訝な表情を浮かべてやると、エマがポツリと言った風に口を開いた。

 「……それが、ですね。よく分からないというのが本音です」

 聞いてみると、どうやらエルフライドは宇宙人からパクったのはいいものの、操縦方法やら機能などが全く持って解明されていないのだとか。
 合衆国の子供達が運転して、エイリアンがやるみたく空を飛ぶところまではいったらしい。
 しかし、電子機器をダメにしてしまうので、データが取れない。

 子供を乗せてコックピット内がどの様に作動しているかを対電磁波カメラで撮影しようとしたがやはり無理。

 得られるのは子供達からの証言だけ、極め付けは十人が十人、直感的な操作方法の説明をしたが要領についての一致する部分は無かったそうだ。

 なんだソレ、都市伝説かよ。

 「つまり、このエルフライドが動くかどうかも分からない、と」

 「まあ、端的に言えばそうですね、ハイ。私たちも一度バラして色々調べようとしたんですけど、ボルトも無いし電ノコも通らないし……スパナやモンキーも最早おもちゃみたいなモンで、ハイ」

 「コックピットは開くのか?」

 「それはまあ、開きます。乗ってたエイリアンの体内に結晶化した核部分があって、我々は鍵と読んでるんですけど、これを持ってエルフライドに近づいたら勝手に開くんですよ」

 体内に結晶化した核?
 グロいな、解剖して摘出したのか。
 生きたまま抜かれて無い事を祈ろう、怨恨が募っているかもしれない。
 まあ、宇宙人にそんな恨みつらみみたいな概念があるのかは不明だが。

 「だが運転の仕方は分からんのは問題だな」

 「合衆国じゃ色々進んでるらしいんですけど、最重要機密っすからね〜。私たちも教えてもらって無いんですよ」

 まあ、合衆国もお粗末だな。
 エルフライドを貸してやると気前よく寄越してきたは良いが、技術を学ばれたら困るから俺たちが整備する!と、エンジニアもセットにした。
 しかし、そのエンジニアも何も分かってないときた。

 かなり自虐的なタイプのお笑いだ。

 「なるほど、自分達で色々試してみないことにはわからないって事か」

 慰めの様に口にすると、エマはそうっすねぇ〜と他人事の様に言っていた。
 コイツらは……エンジニアとしてのプライドとかは無いのか?

 「コイツの装備は?」

 「装備、ですか?」

 「武装だよ、宇宙人が持ってたビームライフルとかは無いのか?」

 「いやあ、それがエイリアンが使用していた武装の中で、使えるものは合衆国にも無いのですよ」

 「はあ?」

 「宇宙人達が運用するエルフライドは光線銃の様な武装をしていたのですが、鹵獲した時には全て形状が変わっていて、使い物になりませんでした。原因は不明です」

 「合衆国はどうするつもりだ?」

 「あくまでエンジニアの中での憶測なのですが、新たにエルフライドに適した武装を作成するのでは、と言われています。皇国もそうなんじゃないんですか?」

 「武装もなく、操作方法も不明、か」
  
 自分たちで武器も作れって?
 聞いてないぞ、全くのゼロスタートでは無いか。
 そもそも我が国の軍に本当にやる気があるとは思えない。
 叔父に聞いた話だと、本部からも丸投げの様な状態なのだとか。
 嬉々として合衆国から受領したのでは無いのか?

 もう、諦めてしまったのか?
 それならそれで都合が良いが……。
 背後の伍長の目はギラギラだ。
 彼女は本気で勝つ気でいるのだろう。

 俺は現実逃避する様に壁にかかっていたカレンダーを見つめた。

 「明日は何曜日だ?」

 「え? 金曜日ですけど……」

 「土日は休みだ、バスを出して候補生と一緒に買い出しに行くんだが、お前らも来るか?」

 俺は土日は休みにする予定だ。
 まだ、シノザキ伍長やその他の面々には伝えていない。

 波風が立たない様にタイミングを見極め中なのである。
 現在は合衆国語で喋っているのでシノザキ伍長はなんの話をしているかは把握していない。

 俺の発言にエンジニア三人は目をパチクリさせていた。
 細身の白人が、ポケットからクシャクシャの訓練時程を取り出して口を開く。

 「あの……貰った訓練時定では休みは月一みたいになってますけど?」

 「俺は敬虔(けいけん)信徒(しんと)じゃ無いが、日曜日は休む事にしてるんだ。土曜日はついでだ」

 バレない様にしたつもりか、後方にいた白人二人が顔を見合わせて小さく肩をすくめる。
 俺が独裁者なら不敬罪に処す所だが、見逃してやった。

 「私服はあるのか?」

 当然、出歩くなら目立たない格好が望ましい。
 エンジニアは困惑するように首を振った。

 「ありませんよ、てっきりこの地域にずっと滞在するものだと思ってましたから……軍服と作業服だけです」

 「サイズを教えろ、土日の迎えの者に買いに行かせる。そしたら一緒にいけるだろ」

 「あのー……良いんですか?」

 ポーカーで遊んでいた癖に、意外と真面目な奴らだ。
 俺は軽く肩をすくめ、訓練時程を取り上げながら言った。

 「この訓練日程、お前らはどう思う?」

 「まあ、合衆国とはちょっと違いますけど。軍は大体こんなもんかと」

 「そうだな、無駄が多い。無駄を省いた分、休みに当てる」

 何とも言えない表情を浮かべる三人。
 休んで町に行けると聞いて、半分嬉しくて半分不安みたいな顔だ。
 派遣されてきたエンジニアの彼らからすればエルフライドのデータも取らないといけないし、合衆国からもサボっていると思われたくないのだろうか?

 まあ、でもポーカーで遊ぶ連中だ。
 欲には負けるだろう。

 「お前らも酒くらい飲みたいだろ?タバコはやるのか?」

 「まあ、やりますけど……」

 「決まりだな、土日は準備しておいてくれ。平日はしっかり働いてもらう。やってもらいたいこともあるしな」

 エルフライドを()でながら言うと、何とも言えない顔を浮かべる三人。
 俺は満足げにシノザキ伍長に向き直った。

 「シノザキ伍長、挨拶は終わった、帰るぞ」

 「……了解しました」

 体育館、もとい工場を出て暫くして。
 シノザキ伍長がポツリと口を開いた。

 「彼ら、カードで遊んでいました」

 お灸を据えろ、という事か。
 厳格な彼女からしたら、仕事時間に遊んでいたなんてもっての他だろう。

 しかし、俺からすればエンジニア達とコミュニケーションも取らずに、放置している方が問題だ。
 俺が来る事くらい、なんとかジェスチャーするなり単語を調べるなりして準備させておくべきだろう。

 とりあえず俺は適当に誤魔化す様にシノザキ伍長に対して、

 「ああ、かなり強めに警告をしておいた。奴ら心を入れ替えるそうだ、合衆国の憲兵は特段に怖いらしいぞ」

 そう言うと、彼女は神妙な面持ちのまま頷く。

 「そうですか、それは安心ですね。それにしても、ミシマ准尉は合衆国語が相当堪能(たんのう)なのが分かりました。素人目ですがかなり流暢(りゅうちょう)に話されていたので」
 「りゅうが——ゴホッゴホッ海外勤務の賜物(たまもの)だよ」

 そんなことを話しながら、俺は校舎へと足を踏み入れる。
 次はいよいよ——面談だ。
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登場人物紹介

②氏名: |茵《シトネ》キリ 


性別: ♀

年齢: 12

階級: 候補生《訓練終了時軍曹に昇進》

解説: SACのエルフライド搭乗者候補生。髪型は元はお団子だったが、美容室に行ってからはゆるふわ系のボブカットになった。候補生達の証言では、過酷な孤児院時代は孤児院長からも君悪がられていたという程の天才であり、母国語に限らず、外国語も独学で習得していた。常にクールで本を読んでおり、集中しすぎると周りが見えなくなる。ほぼ毎日指揮官室に通い詰め、指揮官から外国語の発音を習っている。

①氏名: |乙亥《キノトイ》アネ


性別: ♀

年齢: 12

階級: 候補生《訓練終了時軍曹に昇進》

解説: SACのエルフライド搭乗者候補生。髪型は元はお団子だったが、美容室に行ってからはツインテール。孤児院組の纏め役。責任感があり、積極性はあるが、リスクヘッジに敏感すぎる節がある。しかし、指揮官からのアドバイスで一皮剥ける事に成功し、頼れるリーダーとなった。

⑥氏名: |日野《ヒノ》セレカ 


性別: ♀

年齢: 12

階級: 候補生《訓練終了時軍曹に昇進》

解説: SACのエルフライド搭乗者候補生。髪型は元はお団子だったが、美容室に行ってからはゆるふわポニー。何故か関西弁を喋る、乙亥《キノトイ》の参謀役。勝ち気な性格で、言動が荒ぶることもしばしば。

⑧氏名: |弓田《ユタ》ミア 


性別: ♀

年齢: 12

階級: 候補生《訓練終了時軍曹に昇進》

解説: SACのエルフライド搭乗者候補生。髪型は元はお団子だったが、美容室に行ってからはベリーショート。内気で大人しく、周囲に流される傾向にある。|別蓋《ベツガイ》と絡み出してからは孤児院組からも少し距離を置かれている。

③氏名: |瀬乃《セノ》タネコ 


性別: ♀

年齢: 12

階級: 候補生《訓練終了時軍曹に昇進》

解説: SACのエルフライド搭乗者候補生。髪型は元はお団子だったが、美容室に行ってからはショートにワンポイントヘアゴム。別蓋と同じく、孤児院組とは別の出自で電光中隊に配属された。常にボーッとしており、本人曰く訓練所に来るまでの記憶を全て無くしているという。何故か唯一、|別蓋《ベツガイ》が強く出れない人物でもある。

⑤氏名: |波布《ハブ》キョウコ 


性別: ♀

年齢: 12

階級: 候補生《訓練終了時軍曹に昇進》

解説: SACのエルフライド搭乗者候補生。髪型は元はお団子だったが、美容室に行ってからはポニーテール。落ちついた物腰で、そつなくなんでもこなす器用さがある。候補生達の中では一番軍部への憧れが強い。篠崎伍長に憧れており、軍部への在籍を希望している。時折り、それが行き過ぎて篠崎伍長の様に振る舞う事もある。

④氏名: |仙崎《センザキ》トキヨ


性別: ♀

年齢: 12

階級: 候補生《訓練終了時軍曹に昇進》

解説: SACのエルフライド搭乗者候補生。髪型は元はお団子だったが、美容室に行ってからはセミロングサイドテール《アホ毛を添えて》。天然でハツラツとした候補生達のムードメーカー。食いしん坊であり、時には大胆な行動に出ることもある。

⑨氏名: |輪舵《リタ》ヒル


性別: ♀

年齢: 12

階級: 候補生《訓練終了時軍曹に昇進》

解説: SACのエルフライド搭乗者候補生。髪型は元はお団子だったが、美容室に行ってからはロングの三つ編み。劣悪な環境にいた小学生とは思えない、上品な雰囲気を纏っている。世話焼きで、集団のお母さん的存在。1番のオシャレ好きなおしゃれ番長でもある。

⑦氏名: |別蓋《ベツガイ》サキ 


性別: ♀

年齢: 12

階級: 候補生《訓練終了時軍曹に昇進》

解説: SACのエルフライド搭乗者候補生。髪型は元はお団子だったが、美容室に行ってからはアシンメトリーのストレートセミロング。瀬乃と同じく、孤児院組とは別の出自で電光中隊に配属された。不遜でIQが高く、不和を生む言動を繰り返す。集団の異物的存在。軍部への反抗心があるようで、何やら企んでいる節がある。

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