ベテラン探偵に学ぶ!

文字数 1,242文字

それから私は50代のベテラン探偵の調査にも同行し、勉強をさせてもらった。

ベテラン探偵の吉田はさすがであった。

とある都内の宝飾店から、最近指輪の盗難が相次ぎ、警察も捜査中であるがなかなか解決しない為、我々に調査依頼をしてきた。

夜中に店に忍びこんで盗まれたわけではなく、営業時間中に盗難されていた。

精巧な模造品とすり替えられている為、店員もその場で気が付かない。

従業員は毎日帰宅する際は、持ち物をチェックされ、カバンの中身の確認もしっかりと行われていた。

特に盗難事件が始まってからなおさら厳重であったはずなのだが、それでも盗難は続いた。

もちろん従業員ではなく、客が犯人の可能性もある。

機転のきくオーナーは、防犯カメラの映像が記録されたSDカードの他に、密かにバックアップも取っていた。

防犯カメラの映像は鮮明で、あらゆる角度から録画されていたが、何時間見ても、全く不審なものは映っていなかった。

しかし、1つわかったことがあった。

その宝飾店は、1階が一般的なジュエリーサロンであり、2階はブライダルジュエリー、いわゆる婚約指輪や結婚指輪のサロンになっていた。

指輪はブライダルジュエリーのみ盗難されていた。

ということは、客が犯人の場合、2階のサロンを利用した者が盗んだことになる。

しかし客が帰る際、店員は客の持ち物検査はできるはずもないので、別室で防犯カメラを見て警戒している警察官が、店の外で待機している警察官に連絡することになっていた。

1日に何組も来店する客の中で、怪しい動きをする者はなかなか見当たらない。

ちなみに季節は夏であり、ほとんどの客は半袖を着ていて、袖口にたくしこむことはできなかった。

あらゆる角度から見つめるカメラの中でそのような不審な場面は見当たらなかった。

私は吉田と今日録画された防犯カメラの映像を、事務所の会議室を使って確認していた。

その場面では、30代前半くらいの夫婦が2階のブライダルサロンに上がり、販売員と向き合う格好で着席した。

着席型のブライダルギャラリーでは、店は客に無料で飲み物を提供している。

今の時期は暑いので、アイスコーヒーや冷たいりんごジュースを頼む客が多かった。

その夫婦は夫はリンゴジュース、妻はアイスコーヒーを頼んでいた。

販売員は提案した指輪を夫に渡す。

夫はその指輪をハメ、妻にも見せた後、販売員に戻した。

何一つ不審なところは見当たらなかった。

この夫婦も普通の客だ

私はそう思った。

夫婦はいくつか指輪を見て、出されたりんごジュースやアイスコーヒーを飲み、販売員と少し話をした後、その夫婦は帰っていった。

「この客だ。」

吉田は言った。

「私には普通のお客に見えたのですが。」

私はもう一度今の客の場面を見たが、全く分からなかった。

確かにこの日も盗難が確認されていた。

しかし10組ほどブライダルジュエリーサロンを利用した者の中で、不審に見えた客は私にはいなかった。

私は吉田に尋ねた。

そしてこのなんてことのないトリックに、私は己の観察力の無さに失望したのだった。
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