第36話 目ざめの朝

文字数 1,041文字

 まぶしい光を感じて、自然と目が開く。カーテンの隙間から光が漏れ出て、部屋の一部を容赦なく照らしていた。
 朝か。うつらうつらしながら、体を起こす。隣で寝ているあおいちゃんに気が付いて、お泊り会をしていたことを思い出した。
 なんだか、すごく楽しい夢を見た。私がパティシエールになって、あおいちゃんと一緒にお店をして、あれ、それから、どうだったかな……。
「んんっ」
 あおいちゃんも目を覚ましたらしく、隣で小さく伸びを始めた。ちょっと寝ぼけた顔。いつもよりちょっと、あどけない。
「おはよ。あおいちゃん」
「おはよう」
「なんか、すっごく楽しい夢見たのに、内容忘れちゃった。悔しい」
 そういうと、あおいちゃんはあはは、と笑いながら言った。
「私も」





 着替えをして、一階へ降りて、洗面所で顔を洗う。
「お父さん、お母さん、おはよう」
「おはようございます」
「おはよう、ももか、あおいちゃん」
 両親はもう起きていて、二人ともリビングにいた。
「あおいちゃん、朝ごはんも食べて行ってね」
「いいんですか」
「もちろん、いつもより賑やかで、楽しいよ」
 お父さんは、そう言ってにっこり笑った。
 いつもと違う朝の風景。日常なんだけど、なんとなく非日常的な。新しい友達と仲良くなれるって、すごくうれしいことだ。
 朝ごはんを食べた後、あおいちゃんは何度もお礼を言って、自分の家へと帰っていった。
 夏休み。学校がない分、毎日が単調になりがちだ。今日は、何をしようかな。京子ちゃんが帰ってくるのは夕方って言ってたし。一人でお菓子作りをしようかな。
 久しぶりに、ただ何となく、誰かのためにお菓子を作りたいって気持ちが、ふっとわき起こった。京子ちゃん、マドレーヌが好きだし、作ろう。記念日とかじゃないけど。
 友達にお菓子を作ったのは、私の人生で、京子ちゃんがはじめてだった。
リビングの戸棚から、アルバムを引っ張り出す。パラパラとめくって、一枚の写真を見つけ出す。
 四年前、京子ちゃんが七歳になった誕生日だ。私と、京子ちゃんが並んで写っている。今よりあどけない笑顔がかわいらしい。
 これは、京子ちゃんと一緒に撮った、はじめての写真だ。そして、大切な、思い出の写真でもある。
 あの頃は、京子ちゃんと友達になれたばかりの頃だった。もっと京子ちゃんと仲良くなりたかった私は、誕生日に、サプライズでマドレーヌを作った。そして、京子ちゃんに食べてもらった。
 その時、誰かのためにお菓子をつくるって楽しいなって、初めて気がついたんだ。
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