第11話 元気な小鳥

文字数 1,087文字

「キュイ、キュイ」
 ふいに、どこからともなく鳥のさえずりが聞こえた。見ると、黒色の毛をした鳥が、頭の上あたりを飛んでいる。鳥は、私たちの目の前にやってくると、ほうきの前先にちょこんと止まった。
 真っ白なくちばしで高く鳴いて、羽をバタバタさせている。まるで私たちに何かアピールしてるみたいだと思った。
「素敵な羽をした小鳥さん、どうしたの?」
 あおいちゃんが、柔らかな調子で話しかける。返事をするわけないんだけれど、なんて思うよね……? だから、口を、いやくちばしを聞いた小鳥を見て、私は目を疑った。
「あのね」
 小鳥は一言、高い声で喋った。
「あのね、さっきの飛び方、かっこよかったよ!」
 一呼吸おいて、小鳥がうっとりと歌うように言う。幼い感じの、けれども澄んだ綺麗な声だ。
「どうもありがとう」
 あおいちゃんが、楽しそうに返事する。少しも驚いている様子がない。聞き間違いかな、と思って小鳥の方を見たら、小鳥もじっと私たちを見ている。やっぱり、確かに小鳥が喋っていたし、聞き間違いなんかじゃなかった。
「小鳥さん、あなたのお名前はなんていうの?」
「ぼくはみんなにクーって呼ばれてるよ」
「素敵な名前だね。私はあおい、こっちは京子ちゃんだよ。よろしくね」
「よろしく、あおい」
 クーと名乗る小鳥は、あおいちゃんの顔のあたりまで飛び上がって、お辞儀をするみたいに少し体を傾けた。そして、パタパタと羽をはばたかせ、私の真横にやって来る。
「京子もよろしくね」
「……うん、よろしく」
 私は、おずおずとあいさつをした。
 小鳥が喋るなんて、にわかには信じられないけれど、今更って気もする。草むらに花が咲いたり、空を飛べたりするんだから、これくらいのことがあったって不思議じゃない。これもあおいちゃんの力なのかなと思って、後姿をぼんやりと眺めた。
「クーは、一人で何してるの?」
 あおいちゃんが問いかけると、クーはしゅんとして縮こまった。
「することがなくて、困ってるんだ。友だちがみんなして家族で出掛けちゃってさ。今日は学校もお休みだから、いっぱい遊べると思ったのに」
「学校があるの?」
 思わず聞き返してしまった。するとクーは、心外だという風に首を振る。
「人間にもあるように、鳥にも学校はあるさ。素早く飛ぶ方法とか、えさにありつく方法とか勉強するんだよ。ちなみに、ぼくはクラスで一番飛ぶのが早いんだ」
 パタパタと羽を動かして、私たちに向かって飛ぶジェスチャーをして見せる。体育の100メートル走みたいなのがあるのだろうか。たまに、小鳥が一斉に飛び立っているのを見ることがあるけれど、あれがそうだったりして。
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