第14話 文化交流会

文字数 1,612文字

 リーダーらしきリスのローイは、私たちの方に向き直ると、小さな体からは想像できないくらい大きな声を張り上げた。
「お二方、ようこそおいで下さいました。私たち一同、歓迎いたします」
 ローイがぺこりと頭を垂れると、それにならうように周りのリスたちも、慌てて頭を下げた。私たちも、軽く会釈で返す。
「申し訳ありませんが、少々お待ちいただけませんか。どうぞ、あちらの切り株へ。―ほら、リーン、案内して差し上げなさい」
 ローイの言葉で、リーンが私たちについて来るようジェスチャーをする。私たちは、そろそろと隅っこの切り株へと移動した。
「あなたのこと、リーンって呼んでもいい?」
 歩きながら、あおいちゃんがリーンに尋ねる。
「いいよ」
 リーンは短く言葉を返した。けれど、しばらくして、
「……私も呼んでいい、名前」
と、ためらいがちに尋ねてくる。
「もちろん! 私の名前は……」
「あおいと、京子だよね」
 あおいちゃんが自己紹介しようとすると、リーンがさえぎった。まだ名乗っていなかったけれど、私たちがお互いを呼び合うのを覚えていたらしい。頭のいい子だ。
「ねえ、あおい、京子。リーダーがはりきっちゃってごめんね。迷惑じゃなかった?」
 リーンが、心配そうにしているけれど、私はどちらかというと、何が始まるんだろうとワクワクしていた。
「ううん。とっても楽しみだよ」
 そう言うと、リーンはほっとした様子で軽く息をつく。
 やがて、ぞろぞろと他のリスたちがこちらへ集まってきた。少し遅れて、ローイが到着する。ローイは、ロリポップキャンディーを一つ小脇に抱えて持っていた。
 やや興奮したリスたちが、隣同士で、ひそひそと話し合っている。
「えー、オホン」
 わざとらしく一つ、ローイが咳払いをした。そして、抱えていたキャンディーを器用に両手でつかむと、地面に向かって突き立てる。ちょうど、スタンドマイクみたいな感じだ。
「ええ、皆様、お静かに。これより、皆様の練習の成果を発表する舞台を開催します。題して、『リスと人間の文化交流会』。司会を務めますは、わたくしローイです」
 パチパチと拍手が起こる。よくわからないけれど、私たちもリスたちのまねをして、手をたたいた。
「そして、本日の主役のお二人、―ええと」
 ローイが、きまり悪そうに私たちの方を見上げた。
「あおいと京子だよ、しっかりして」
 リーンが横から口をはさむ。
「おお、そうだ、あおい様に京子様。いやはや大変失礼いたしました。お二方は、人間の参加者様でございます」
 パチパチパチ。さっきよりも大きな拍手が響き渡る。中には口笛を吹きだすリスもいた。 
「リスと人間の文化交流会?」
「さようでございます」
 ローイが、うやうやしく頭を垂れる。
「この森に棲む私たちシマリスは、人間の文化をよく勉強しているのです。学問に芸術、遊び、何やら何まで。昔、ある爺さんのシマリスがおりまして」
「その話はいいよ。いつも長くなるから」
 他のシマリスが横やりを入れると、一瞬ローイが不満そうな顔をした。が、すぐに取り直すと、話を続けた。
「スポーツ、勉学、絵画、音楽。いろいろな趣味をみんなが練習して、定期的に仲間内で披露しあっていたのです。ただ、いつか仲間内だけではなく、人間のお客様にも披露したいと夢見ておりまして。常々、連れてきてほしいと、仲間に言っていたところ、リーンがお二方と出会った次第です」
「なるほど」
「そんなわけで、お付き合い願えませんでしょうか」
 ローイが、顔色をうかがうように私たちを見上げる。他のリスたちは、期待のまなざしでこちらを見つめる。
 私はあおいちゃんと顔を見合わせた。断る理由なんてない。とても楽しそうだ。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「やった、うれしいな」
「緊張するなあ」
 再び、リスたちが盛り上がる。ざわめきにかき消されない大きな声で、ローイが高らかに言った。
「それではみなさん。楽しい時間にしましょう」
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