衝動(2024.1.20)

文字数 510文字

いつも穏やかで
大きな声を出すことなんてない夫が
会社に辞表を出してきたそうだ

理由は
部下の不手際を
「お前」と怒鳴り胸倉をつかんだ
役員を突き飛ばし
謝らなかったから

解雇のところを
辞表で許されたと
笑っている

部下を守るとか
そんな格好の良いものではなくて
その昔、高校のサッカー部で
顧問から「お前はそれでも男か」と罵声を浴びせられ
親友が平手打ちされても
何もできなかった自分を許せず
瞬間的に高校時代に戻って
今やらないと一生後悔すると思ったからで
部下のためではなく
自分のためだとまた笑う

彼がサッカー部にいたなんて
聞いたこともなければ
スポーツのニュースには興味がなく
ルールすら知らないと
思っていたから
そちらの方が驚いた

私は夫のことを
知らないのだなと思う

この年になるまで
ひた隠しにしていた
蟠りが消えたのなら
それはそれでいい

もちろん
友人を見捨てたことが許されるわけでもなく
同じようなことがあったら行動しよう
ということが実践できただけだ

夫は可もなく不可もなく
定年まで働くのだろうと
思っていたのだが
辞めてしまったのだから仕方ない

私も働いているし
しばらくはどうにかなるだろう

彼の
意外な行動に
ときめている自分が
おかしい

テーブルに置かれた
離婚届を破り捨てる
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