『開戦』

文字数 3,145文字


さて、ところ変わって、というか開戦の少し前。

時が変わってここはメメント・モリのメインステージ。

尾方を他所にメメント・モリの決起集会は着々と進行されていた。

現組織員。っと言っても様々な組織の残党の寄せ合わせだが、

彼らはステージに設置された巨大なモニターを食い入るように観ていた。

そこには確かに『ボス』の姿があった。

...どう観ても年端も行かない少女だが。

会場がざわついている。

当然である。自分の組織のボスを紹介すると言われモニターに目を移すとそこには小さな少女の姿があるのだから。

まぁ、しかし、幹部連中には当然予測の範疇の事態であり、余裕綽綽でこの光景を観て...

「なんで映像が繋がっとる!?」
「え? 替々おじ様? 姫子ちゃん映ってるけど? 話と違うくない?」
「あれ? おかしいな!? 予定と違う? 葉加瀬クン?」
「わたしさんは別になにもしてないッスよ? 言われたとおり差し替えの映像を...」

すごい慌ててる...

さては『メメント・モリ決起集会:総統の挨拶』を、替え玉映像で流すつもりだったのだろう。

ところが、どういうわけか映像はここに繋がってしまっている。

幹部面子は顔を見合わせる。

「こ、こんな事もあろうかと...」

替々がポケットを漁る。

「なにか手があるんか替々の爺!」

國門の反応にウィンクで応える替々。

「じゃじゃーん! 蝶ネクタイ型変声機~!」

「色々アウトだろ? あとコ○ン君って歳じゃないだろ?」

「ついでに腕時計も作ったんだよネ。睡眠針も完備」

シュパ!

「ぐう...」

なんの罪もない國門は深い眠りに落ちる。

「でかしたわ替々おじ様! それで姫子ちゃんの声を偽装してあの場を乗り切るのよ!」

「いや、まぁ、現在科学で阿笠博士に勝てる訳もなく。変声出来るの私の声と尾方の声だけなんだよね」

「この役立たず! なんちゃって黒幕面おじさん!」

シュパ!

「ぐう...」

なんの罪もない搦手も深い眠りに誘われる。

未曾有のトラブルを前にしてメメント・モリの幹部は勝手に瓦解した。

葉加瀬は姫子を止めようと動いたが、今姫子の部屋に行くと否応なしに自分がモニターに移ることに気づき。

人前苦手属性が爆発し、グロッキー状態になってしまった。

結果会場は混沌を極めていた。

もはや事態の収拾などとてもとても―――

  パンッ!

会場に響く破裂音一つ。

反射、一瞬会場に静寂が広がる。

その一瞬に差し込まれる良く通る声。

「狼狽えるな」

声色は少女のそれに違いないが、しかし何故かどうして、その声には逆らい難い『芯』が通っていた。

「言いたい事はわかる。分かるぞ。だが」

浅はかである。

少女が言葉続ける度、連なるように皆が液晶を見上げる。

「我こそは前メメント・モリが総統の孫娘。悪道姫子である」

もはや言葉を遮る騒音はなく。集まった皆は黙して耳を傾ける。

「囚われるな。ボスが小娘でも。前組織に興味がなくとも。周り皆信頼におけなくとも」

その眼差しに吸い込まれる。

「悪魔であろう? 全てを信用せよ。隣人を使え。上司を使え。組織を使え。自分以外の全てを利用して高らかに笑ってみせよ」

その言葉に引き寄せられる。

「さぁはじめよう、夢を語れ、欲を明かせ。保身を満たせ」

その少女に―――


「着いて来い皆の衆。全てを利用して、お主の夢を叶えてみせよ」


分かる事がある。


悪魔なんかやってるんだ、分からず屋を地で行く俺らでも。

分かる事がある。

自分の指針。

着いて行くべき人ぐらいは分かる。

悪魔でも分かる。

彼女は言ったのだ。

夢を。叶えて良いと。

目指し方すら忘れた。

頭の片隅の彼方に打ち捨てられた。

確かにあったもの。

目指せと言ったんだ。

自分勝手に目指して良いと。

自分の人生が、再度自分の手元に戻って来たかのような高揚感。

皆が皆、拳を握り締め、息を呑む。

人生の焦点が合う。

その時、人は。

「以上、ご静聴ありがとうございました」

 ズルッ!
 
悪の組織の長とは思えぬ礼儀正しい挨拶の〆に悪魔一同は少し足を滑らせる。

しかし、皆が皆、心に抱えた物は落とさなかった様だ。

少女を見るその目は、もう、懐疑のそれではない。

そしてまた、違った眼差しで少女を見る影が一つ。

「ふぅむ...ここまでとは、多少危険域かな?」

会場ステージ脇に佇んだ老紳士が一人。

「ジジイ...お前存在が怪しいからあんまり黒幕ムーヴしなや? 仕舞には刺すぞ」

「おっと、もう起きたのかね國門君。いやいやなにね。爺なりの気遣いだよ。獅子身中の虫の一匹や二匹いないと組織の長として成長出来ないからねぇ」

「お言葉ですけどお爺ちゃん? この組織に限っては、というかこの幹部面子に関しては皆が皆裏切りそうだから効果ないと思うわよ」

「おはよう搦手クン。ごもっともなアドバイスありがとう」

半壊していた幹部面子がこれまた勝手に集合する。

「しかしまた夢と来たかね」

ゆらりとパイプを傾けて替々が口を開く。

すると隠す事無く笑みを浮かべた國門が応える。

「おう、あのお嬢ちゃん。言うてくれたぞ。人心掌握の才があるとしか思えん」

搦手は一際嬉しそうに手を叩く。

「彼女は本物よ。きっとこの組織は大きくなるわ」


その為にも。


モニターが暗転する。

全員の心が一つになる。

決起集会。

その次のプログラム。

『副総統あいさつ』

ここを穏便に済まさなくてはならない。

姫子のスピーチが大成功に終わった今。

懸念があるのはむしろこっち。

人前を毛嫌いし続けたどうしようもない三十路。

悪い意味で彼は期待を裏切らないだろう。

嫌がったとおりに、嫌がるままにやらかす筈だ。

姫子の件で手一杯だっただけに尾方の方は手付かず。

今となっては後悔しかない。

もういっそ不意の敵襲でもあって戦う姿を見せた方がずっと―――


ドゥガガガガガガシャアアアアン!!

地下からスタジアムへの扉が瞬時にひしゃげ、瞬間轟音と共に三つの影が煙を纏って出てくる。

して三つの影は空中で幾たびぶつかると、スタジアムのステージにそれぞれ着地した。

一つ、白い羽を舞わせた悪魔。

二つ、煙避ける偶像。

三つ、血反吐吐く天使。

影の一つが、会場に目を流す。

意気良し、指揮良し、統率悪し

長がなにを成し得たか。

一瞥すれば分かる。

ならば自分がすべき事も、自然と分かった。

もう人前とか副総統とか関係ない。

ここは既に戦場である。

故に白羽根の悪魔が声を響かせる。

「敵襲ッ!!! 俺に続けッ!!!!」

雷電の如く声が轟く。

同時に、ドームの天井が破られ、輝く影が複数顕現する。

開戦の合図は、それに相応しい者の死によって彩られる。

蹴り出した尾方の一歩の間合いに差し込まれる閃光の一閃。

「失礼、尾方さん。峰打ちです」

聞きお覚えのある声に身に覚えのない謎の衝撃。

感覚のない半身を憂いながら、尾方はそれでも空を睨みつける。

もうここは戦場。

尾方にとって戦場は負けるまで終わらない自己の極地点。

彼が諦めるまで、終わる事はないのだから。

もう後戻りもなく、後悔も出来ない。

これより始まるは間違いなく。

世界のターニングポイント。

戦争である。




第五章「白星ルーザーと急襲アンダーグラウンド」END

「「次回予告!!!」」

「ついに六章じゃぞ尾方!目出度いのう目出度い!!」

「いや、おじさん例によって峰打ちで半身欠損してるんで騒げないっていうか...」

「峰打ちの概念壊れるの」

「残念ヒメ、その概念は既に幕末のるろうな浪人さんが崩しているよ」

「刃がなくても鉄の塊で叩かれたらそりゃ痛いからの」

「刃とは振るう人の心にこそ宿るのかも知れないなぁ」

「おお、空気マシマシ中身カラカラ名言じゃ」

「心の刃が鋭いですね...」

「「次回!!!」」

【第六章「当て馬リベンジャーと結び目ワールド」】

「半分になった尾方は二人になって復活するのか! まて次回!!」

「どうも、プラナリア尾方です」

「変に悪ノリするな尾方ァ!!」
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