The fun is mine②

文字数 704文字

 (あの男、一体何者なんだろうなぁ。俺の早抜きに対応出来る人間が存在するとは・・・通常の鍛錬のみで、あの反応を?普通なら有り得んが)

 先程松野と対峙(フェイスオフ)した櫻田はそんなことを思案していた。

 一方松野は、引き続き周囲を警戒しながら食事(ぎしき)を堪能している。
 しかし彼もまた、櫻田の懐にあったモノについて考えを巡らせていたのだった。

(先刻、銃を向けてきた男・・・櫻田だったか。抜きざまに心の臓を正確に狙ってきた。それにあの回転拳銃・・・今時ああいったものを使用するのは”モノ好き”か”準軍(パラミリ)”ぐらいのものだろう・・・)

 準軍(パラミリ)とは準軍事組織の俗称であり、通常政府(クニ)の國家保安隊や國防省國家親衛隊など治安維持を行うものを指す。
 そういった組織は建物の中など閉所での戦闘を考慮し、発砲しても排莢がされない回転拳銃や複数の銃身(4連装のものが多い)を持つ銃を好んで採用していた。

(恐らく官憲か何かなんだろうが・・・技量は相当なものだ。まさか噂に聞く慈安部隊ではないだろうなぁ)

 残念ながら松野の懸念は的中していた。
 この回転拳銃を持つ男、氏は櫻田、名を(ひょう)という。
 精鋭内務省慈安部隊の隊員の一人である。
 当然、近接格闘の技術は相当に高く、拳銃や刀剣の扱いにも長けているのであった。

 思考を続ける両者であったが、共に供された料理はしっかりと味わっている。
 それだけ「サムハラ」の味は段階(ステージ)が高いものなのである。

 そんな中、食事処に訪れた招かれざる客達―。
罪業清浄(ざいごうしょうじょう)ッ!」

 躰にピッタリと張り付いた漆黒のスーツ、そして首元に着いているエボナイト製の徽章。そこに象られているのは頂上の法輪に下向きの三叉の槍。
 まさしく教団”S”の刺客である。

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登場人物紹介

松野隆男《まつのたかお》:本作の主人公。普段は一般的な会社員。この世界では一般的な身体改良は受けておらず、野菜のみならず朒も食べる。勤務態度は良好で真面目な仕事人といった印象があるものの、料理を作ることが趣味など家庭的な一面も。

路地裏で見ず知らずの男を殺害してしまったことからこの物語が始まる。

足利(あしかが):松野が殺害した男が所属する、宗教団体Sの聖師のひとり。

教団の武装トロール船(密輸船)「9アース」の管理を任せられている。

基本的に臆病・自己保身に走る傾向にあるが、信徒の前では教団の役割(ロール)を果たすため、勇猛果敢に振る舞う。

実は元軍人であり、小規模な戦闘であれば参加することもある。

櫻田兵(さくらだひょう):國家治安部隊「慈安部隊」に所属する隊員。

捜査機関と連携しながら松野を追う。

ソマ・リュオン:アルビオ連邦出身。

國に裏切られた男。戦時中、連合軍中枢にいた人間を次々と暗殺する復讐鬼と化している。

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