サムハラ②

文字数 993文字

「おじさん、後片付け終わったって~」

小娘がそう言うと、松野は
「おお・・・それは有難い」と応じた。
外注とはいえ、「川中島」の囲っている”業者”は粒揃い、丁寧で迅速な仕事に定評がある。
彼は、最優先課題の解決を確信し、次の過程に移ることにした。

「そう言えば・・・貸金庫を開けてもらうことは可能かな」
という言の後、(てのひら)ほどの大きさがある緑色の四角柱を背広の内側から取り出した。

「ん~、承知の助、それじゃぁ符号言ってもらってもいいですかぁ?」
平千佳はそういうと、店内奥にある引き戸を開ける。
ズラリと並んだ縦長の金庫達。
高さは丁度男性の平均的身長ほどであり、松野が爪先立ちしたくらいのものである。
中ほどに取手(ハンドル)と四角の穴凹、12個の(ボタン)(”いろはに~ぬるを”)、そして回転錠(ダイヤル)がついていた。

◇◆◇―---------◇◆◇

別図1:(ボタン)の配置
㋑ ㋺ ㋩ ㋥
㋭ ㋬ ㋣ ㋠
㋷ ㋦ ㋸ ㋾

◇◆◇―---------◇◆◇

「い・り・に、回転(ダイヤル)は右に13を2回、左に28、右に55」
松野の声に合わせ、小娘は軽妙に(ボタン)回転錠(ダイヤル)を扱っていく。

「ほ~い、あとはそれ頂戴~」
平の間延びした声が店内に響く。
「ほいさ」
それに応えて四角柱が彼女に投げ渡される。

数秒後、キィ という音がした後、
「開いたよぉ~」
との声に続いて松野は金庫の前へと移動する。

「げっ、何コレ?おじさん官憲じゃないよね・・・?それとも”S”とか王統過激派?」
(小娘が・・・余計な詮索をするでないわぁっ!!)
彼女の問いかけに、またもや己の沸点の低さを自覚しつつも松野は特に応えることもなく、金庫内を見回した。

(15式連発銃:1(ちょう)、12式半自動拳銃2(ちょう)、8式回転拳銃1(ちょう)全茎式(フルタング)の刀剣2振、15式銃剣1振、その他弾薬多数・・・)
萬屋の店員である小娘が狼狽するほどの備蓄・・・。(特に弾薬の量が尋常ではない)
そう、此処はそもそも松野がいくつか所有する拠点の一つであったのだ。
「隣の金庫(ガンロッカー)にも、弾がいくらか入ってるよ」
そう言って、松野は右隣のソレを指さした。

「本当に?弾々持ちすぎでしょぉ”おじさん”」
小娘はまたも困惑した。

正体不明の小男に狼狽える平を尻目(しりめ)に、松野は台の上に銃火器を置いて、分解整備や清掃(クリーニング)、油を注したりした。
「これでよし」
そういうと彼は12式自動拳銃と8式回転拳銃を1挺ずつと15式銃剣を(ベルト)に差したり懐に入れると、平千佳に別れを告げ、次の目的地へと向かった。
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登場人物紹介

松野隆男《まつのたかお》:本作の主人公。普段は一般的な会社員。この世界では一般的な身体改良は受けておらず、野菜のみならず朒も食べる。勤務態度は良好で真面目な仕事人といった印象があるものの、料理を作ることが趣味など家庭的な一面も。

路地裏で見ず知らずの男を殺害してしまったことからこの物語が始まる。

足利(あしかが):松野が殺害した男が所属する、宗教団体Sの聖師のひとり。

教団の武装トロール船(密輸船)「9アース」の管理を任せられている。

基本的に臆病・自己保身に走る傾向にあるが、信徒の前では教団の役割(ロール)を果たすため、勇猛果敢に振る舞う。

実は元軍人であり、小規模な戦闘であれば参加することもある。

櫻田兵(さくらだひょう):國家治安部隊「慈安部隊」に所属する隊員。

捜査機関と連携しながら松野を追う。

ソマ・リュオン:アルビオ連邦出身。

國に裏切られた男。戦時中、連合軍中枢にいた人間を次々と暗殺する復讐鬼と化している。

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