ソマの左手①

文字数 772文字

ソマ=リュオンはアルビオ連邦、リヴァプールに生を受けた。
父はにて湾岸の軍事基地に勤務、母は紡績工場に勤め彼を養った。

「坊や、サッシュメルツ(穀物を堅く焼いた菓子)食べるかい?」
「おばちゃん、いいのかい。それ売り物だろう?」

「ん~、勿論 金はもらうよ!」
「ケッ!このケチンボ!あまり業突張(ごうつくば)りだと煉獄落ちちまうぜ~」
「こんのクソガキャァァ!」

・・・このように初等学校の講義が終わった後は、港近くの店で父を待ちながら暇をつぶすのが彼の日課であった。


特段不自由もなく育ったソマであったが、ある時転機が訪れる。
ある日、地区に一台しかない電映機(テレビジョン)の周囲には港湾労働者たちが群がっていた。
中央の椅子に座るソマは、少し冷えた菓子を頬張りながら男衆と談笑していた。

(始まるぞ・・・ナイスハロルド放送・・・)

””みなさん・・・本日は予定を変更いたしまして・・政府・・軍作戦本部より臨時速報を御送りします・・・””

「あれ、ナイスハロルド放送!ナイスハロルド放送じゃないよ!」
「坊主、ちぃと静かにしときな・・・」

普段流れてくる娯楽番組が流れないことにソマ少年はイラつきを覚える。

””我が國は、長年欧州一円の安定を支えるべく不断の努力を続けてまいりました・・・フルグ共和國・エーステライヒ帝國間のエルヌス=ローレンスを巡る係争において我々の果たした役割、そして成果についても、異議を唱えるものはいないでしょう・・・””

「お話が長いよお~」
少年には國の(まつりごと)を理解することができなかった。
しかし、次の一文が読み上げられたとき”それ”が好ましくないことであることは、大人たちの動揺から察することができたのだった。

”我がアルビオ連邦は、数々の挑発的な行為に対し、ここに本邦及びエーステライヒ帝國との間に紛争状態があることを宣言いたします””

ソマ=リュオン 齢9の夏の出来事であった。










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登場人物紹介

松野隆男《まつのたかお》:本作の主人公。普段は一般的な会社員。この世界では一般的な身体改良は受けておらず、野菜のみならず朒も食べる。勤務態度は良好で真面目な仕事人といった印象があるものの、料理を作ることが趣味など家庭的な一面も。

路地裏で見ず知らずの男を殺害してしまったことからこの物語が始まる。

足利(あしかが):松野が殺害した男が所属する、宗教団体Sの聖師のひとり。

教団の武装トロール船(密輸船)「9アース」の管理を任せられている。

基本的に臆病・自己保身に走る傾向にあるが、信徒の前では教団の役割(ロール)を果たすため、勇猛果敢に振る舞う。

実は元軍人であり、小規模な戦闘であれば参加することもある。

櫻田兵(さくらだひょう):國家治安部隊「慈安部隊」に所属する隊員。

捜査機関と連携しながら松野を追う。

ソマ・リュオン:アルビオ連邦出身。

國に裏切られた男。戦時中、連合軍中枢にいた人間を次々と暗殺する復讐鬼と化している。

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