官憲 対 教団”S”①

文字数 883文字

松野と謎の男が激突した数時間後----

北方、能代(のしろ)港沖にて近海漁を行うには似つかわしくない船影が一つ・・・

很高兴认识你(ヘンカオシンレンシィニイ) 先生(シェンション)・・・」
灰色の背広を着た恰幅の良い男はそう言って、左手をふんわりと添えながら、目の前に立つ異邦人と手を握った。

认识你我也很高兴(レンシィニイウォイエヘンカオシン)足利(あしかが)さん、私こちらの言葉大丈夫よ・・・続けてねぇ話」

足利と呼ばれた男は、ドライな態度を取られたために刹那渋い顔をしたが、商談を穏便に済ませるため怒気を胸の奥深くに押し込んだ。

「先生、先日融通してもらった春節(チュンチエ)・・・とても良かったですよぉ~官憲どもは6匹ほど”おっちんだ”ようでしてねぇ。まぁこちらは”倍”殉教者を出しましたが・・・」
「足利さん・・私はうるさいの嫌いね。そちらの人どうなたかは関係ないよ、幾ら出す?私いつまでに届ける?ただそれだけの話」

足利は、またも渋い顔をした。

春節(チュンチエ)とは尖箭(チェンジャン)-5対戦車誘導噴進弾の隠語である。
教団では政府の治安維持部隊と衝突するにあたり、大陸から大量の兵器を購入、軍事顧問を招いての練兵なども各地の(ネスト)にて行っていた。

足利は屈辱を発散するため体の前で組んだ両手の手首を回しながら上に重ねた左手で右手の甲をつねった。

しかし、これはビジネスである。話がまとまれば良いのだ。
四方山話をする気のない異邦人に苛立ちを抱きながら話を続ける。

「では実のある話をしましょう、今回はこちらで」
そう言って足利は指をパチンッと鳴らし、ブリーフケースを持った配下を呼んだ。

配下はブリーフケースの被せを外し、その中身をのぞかせる。

「哦・・・足利さんこれはどいうこと?え?コレ」
先生(シェンション)”は中身がマンギラート紙幣の束でないことに狼狽える。

「足利さん・・・これは契約違反ヨ?春節(チュンチエ)1本につき15,000マンギラート、簪子(ヅァンヅゥ)1基は30,000マンギラートの約束でショ?」
「うーんコレは貴重な永活剤(メタンフェタミン)なんですけどねぇ・・・末端価格で言えば、6,000,000マンギラートはくだりませんよぉ」

とぼける足利に対し”先生(シェンション)”が激昂する。

(オゥ)别傻了(ビェシャリャオ) 足利ッ!!!」

先生(シェンション)”の懐から得物が飛び出そうという時、操舵室の扉を叩くものがいた。
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登場人物紹介

松野隆男《まつのたかお》:本作の主人公。普段は一般的な会社員。この世界では一般的な身体改良は受けておらず、野菜のみならず朒も食べる。勤務態度は良好で真面目な仕事人といった印象があるものの、料理を作ることが趣味など家庭的な一面も。

路地裏で見ず知らずの男を殺害してしまったことからこの物語が始まる。

足利(あしかが):松野が殺害した男が所属する、宗教団体Sの聖師のひとり。

教団の武装トロール船(密輸船)「9アース」の管理を任せられている。

基本的に臆病・自己保身に走る傾向にあるが、信徒の前では教団の役割(ロール)を果たすため、勇猛果敢に振る舞う。

実は元軍人であり、小規模な戦闘であれば参加することもある。

櫻田兵(さくらだひょう):國家治安部隊「慈安部隊」に所属する隊員。

捜査機関と連携しながら松野を追う。

ソマ・リュオン:アルビオ連邦出身。

國に裏切られた男。戦時中、連合軍中枢にいた人間を次々と暗殺する復讐鬼と化している。

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