官憲 対 教団”S”⑤

文字数 757文字

「9アース」乗員は危機が迫っている事を確信した。

すぐさま鮫島(シエラ)は配下の一人に指示を出した。
電子妨害装置(ECM)は既に行っているな!電波欺瞞紙(チャフ)投射ァ!同時に回避行動を取る、取り舵いっぱ~い、ヴィンペル(連装機関砲)起動!」

船上のコンテナに偽装されていた速射砲・機関砲がベェルを脱ぐ。
艦に搭載されたそれらが火を噴く。と同時に、船体は急速な傾きを見せた。
旋回はほぼ間に合うことは無いだろう。
しかし乗員は皆、生きることを諦めていなかった。
2発の対艦誘導弾のうちの片割れが弾丸を浴びせられ、その役目を果たさぬまま海中に消える。

残り1発・・・。

全員が一丸となる中、聖師(しょうにん):足利は教主に祈りを捧げていた。
もはや、海戦の素人にできることはそれしか無いことを知っていたからだ。

その瞬間、それまで教団の教典の一節を映していた通信用画面(テレビジョン)に乱れが生じた。

雑音も生じたために信徒は皆画面に釘付けになる。(官憲による通信妨害の可能性が大であったから)

黒い画像が示されたあとに、”それ”が正体を現す-。
まさしくそこに映し出されているのは、教主:斎藤の姿であった。

唐突に艦内全体に彼の者の声がこだまする。
「どうだね読者の諸君?こちらが一方的に敗北を喫する・・・そんな結末、つまらないとは思わないか?」
足利・鮫島が同時に「彼は何を言っているのだ?」と発言したのも束の間。

もう一発の誘導弾が緩やかな螺旋を描きながら、海面に接触する。

哨戒艦「さくら」艦長の石崎は困惑した。
「何が起こったのだ?」

彼がそう考えるのも無理はない。
突如として、誘導弾の反応が消失したのだ。
念のため2発発射した誘導弾が「9アース」に突入することはなかった。

教団内では騒めきが広がっていた。
「奇跡だ・・・」
足利が一人、孤独に呟いた。

同様に「9アース」の戦闘指揮所(CIC)では歓喜の声が挙がっていた。
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登場人物紹介

松野隆男《まつのたかお》:本作の主人公。普段は一般的な会社員。この世界では一般的な身体改良は受けておらず、野菜のみならず朒も食べる。勤務態度は良好で真面目な仕事人といった印象があるものの、料理を作ることが趣味など家庭的な一面も。

路地裏で見ず知らずの男を殺害してしまったことからこの物語が始まる。

足利(あしかが):松野が殺害した男が所属する、宗教団体Sの聖師のひとり。

教団の武装トロール船(密輸船)「9アース」の管理を任せられている。

基本的に臆病・自己保身に走る傾向にあるが、信徒の前では教団の役割(ロール)を果たすため、勇猛果敢に振る舞う。

実は元軍人であり、小規模な戦闘であれば参加することもある。

櫻田兵(さくらだひょう):國家治安部隊「慈安部隊」に所属する隊員。

捜査機関と連携しながら松野を追う。

ソマ・リュオン:アルビオ連邦出身。

國に裏切られた男。戦時中、連合軍中枢にいた人間を次々と暗殺する復讐鬼と化している。

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