官憲 対 教団”S”②

文字数 595文字

扉を開けて飛び込んできたのは、足利の配下の一人である鮫島であった。

「どうしたのだシエラ?(鮫島の洗礼名)」
足利はそう鮫島に問うと、教団の僕である彼は即座に応じた。

「ハッ!!アルファ聖師(しょうにん)に従僕たるシエラめが申し上げますッ!!
 電探(レーダー)に複数反応がございまして・・・端的に申し上げますと・・・恐らく北部軍管区所属の哨戒艦が4隻迫っております」

足利は(まばた)きほどの間、驚愕の色を顔に浮かべたものの”正常”を取り戻した。
得物を取り出すため、懐に手を突っ込んだままの客人(シェンション)に向き直ると
()此処(ここ)を立ち去られよ、これは取引どころではないッ」
と言い放った。

先程まで薬物で重火器を密輸しようとしていた人間から出たとは思えぬ正論に、先生(シェンション)は動揺したものの、「失礼・・・」とだけ伝えて部屋をあとにした。

足利は、彼の影が見えなくなるのを確認すると吸息し、怒声を飛ばした。
「なんでここに官憲来てんだよッ!嗚呼ッ!物買うって段階(ステージ)じゃねえぞ、オイッ!」
「”隠密機能停止”《ステルスアセット・レリィヴ》!!折伏(しゃくぶく)を開始するッ!」
「官憲はこの國の穢れッ!!清浄あるのみ!」
と矢継ぎ早に言うと、騒ぎによって部屋に駆けつけていた信徒たちは、尻に火のついた牛のように興奮を発露させた。

聖師(しょうにん)仰言(おおせごと)のままにッ!」
信徒たちはそう口々に言うと、それぞれの持ち場に駆けていった。

ぽつん、と一人残った足利は頭を抱え、
「どうしよっかなぁ・・・」
と呟いた。
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登場人物紹介

松野隆男《まつのたかお》:本作の主人公。普段は一般的な会社員。この世界では一般的な身体改良は受けておらず、野菜のみならず朒も食べる。勤務態度は良好で真面目な仕事人といった印象があるものの、料理を作ることが趣味など家庭的な一面も。

路地裏で見ず知らずの男を殺害してしまったことからこの物語が始まる。

足利(あしかが):松野が殺害した男が所属する、宗教団体Sの聖師のひとり。

教団の武装トロール船(密輸船)「9アース」の管理を任せられている。

基本的に臆病・自己保身に走る傾向にあるが、信徒の前では教団の役割(ロール)を果たすため、勇猛果敢に振る舞う。

実は元軍人であり、小規模な戦闘であれば参加することもある。

櫻田兵(さくらだひょう):國家治安部隊「慈安部隊」に所属する隊員。

捜査機関と連携しながら松野を追う。

ソマ・リュオン:アルビオ連邦出身。

國に裏切られた男。戦時中、連合軍中枢にいた人間を次々と暗殺する復讐鬼と化している。

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