サムハラ③

文字数 743文字

松野、目的地に到着ーー。
その場所の名は「食事処 サムハラ」

一流料理人 立向居尚人(たちむかい なおと)氏が営む小料理屋だ。

「いらっしゃい、松野さん。今日は仕事帰りで肩が疲れてらっしゃるのでは?特に
左側・・・」

立向居氏の第一声、ずばり図星である。
拳銃を肩から吊り下げているため、左肩が下がってしまっているのだ。

「ええ・・・まぁそうですね。流石、鋭いなぁ~」
松野はひとまず”とぼけて”見せた。

突出(おとお)しです。試しにつくってみたんですが、お口に合うかどうか・・・」

食前の肴”突出(おとお)し”現代においては廃れてしまった文化伝統の一つである。
頼んでもいないものが出るのであるが、此処サムハラのものは非常に美味で工夫を凝らしたものが多い。
そのため、松野は”偉丈夫”立向居の料理は何であれ食してみることにしていた。
彼にとって、この料理人は”料理の師匠”と仰いでさえいたのである。
本日の昼食に登場した鶏と根菜の煮物も師から学んだものを実践してみた”成果”であった。

コトリ、 皿がゆっくりと置かれる。
なんと目の前に出てきたのは青菜や根菜・魚介類・・・ではなく、拳大の滑らかな白い塊であった。
(なんだこれは・・・薄い汁の中に団子が浮いている・・・?)

「いただきます・・・」
松野は恐る恐るソレを口に含んだ。
もっちりとした皮、その中から溢れる肉汁ー。

「これは包子(パオズ)でしょうか、なんとも・・・美味しゅうございます・・・!」
彼は思わず目前の料理人に賛辞を贈った。

「ありがとうございます・・・そう、それは包子(パオズ)の一種です。羊朒と数種の香味野菜を、馬鈴薯(ばれいしょ)澱粉(でんぷん)を練ったもので包みました。あとは洋風出汁(フォン)で軽く煮込んで仕上げました。」

「なるほど・・・皮のとろみは馬鈴薯によるものでしたか・・・」

松野は感嘆し、残った包子(パオズ)と汁を一匙ずつ噛みしめながら嚥下した。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

松野隆男《まつのたかお》:本作の主人公。普段は一般的な会社員。この世界では一般的な身体改良は受けておらず、野菜のみならず朒も食べる。勤務態度は良好で真面目な仕事人といった印象があるものの、料理を作ることが趣味など家庭的な一面も。

路地裏で見ず知らずの男を殺害してしまったことからこの物語が始まる。

足利(あしかが):松野が殺害した男が所属する、宗教団体Sの聖師のひとり。

教団の武装トロール船(密輸船)「9アース」の管理を任せられている。

基本的に臆病・自己保身に走る傾向にあるが、信徒の前では教団の役割(ロール)を果たすため、勇猛果敢に振る舞う。

実は元軍人であり、小規模な戦闘であれば参加することもある。

櫻田兵(さくらだひょう):國家治安部隊「慈安部隊」に所属する隊員。

捜査機関と連携しながら松野を追う。

ソマ・リュオン:アルビオ連邦出身。

國に裏切られた男。戦時中、連合軍中枢にいた人間を次々と暗殺する復讐鬼と化している。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み