第4話

文字数 1,231文字

ヨシツネが女生徒と話しをした。
幸い女生徒は素直な性格らしく、こちらを怪しむこともなく聞き取りに応じてくれた。

それによると女生徒は、学校に忘れ物を取りに来たものの、校舎に入った途端記憶があやふやになったのだと言う。



どうやら妖魔につけ入られて魂を狙われたようだ。

妖魔は人の心の隙に入り込み、その者を自殺に追い込むことによって強引に魂を奪い取る。それは妖魔の常套手段とも言えるものだった。



もちろん本当のことを言うわけにはいかないので、女生徒には今回の件は、単なる体調不良でのトラブルということで説明した。

女生徒が貧血で倒れているところに『たまたま』ヨシツネが通りかかり、介抱している間に女生徒の意識が戻った…という具合だ。



女生徒はそのまま自宅に帰すことにした。

だが女生徒は一度妖魔に狙われている。
いつまた妖魔に狙われるかわからないので、女生徒の家まではヨシツネが付き添うことにした。



「あの~? 私もう大丈夫ですよ」



女生徒はヨシツネの顔を下からまじまじと覗きこんでいる。どうやらヨシツネに興味津々といった感じだ。



「いや、気にするな。また倒れられたりしたら俺の寝覚めが悪い。家の近くまでは送る」



ヨシツネは前を向いて、わざと女生徒と視線を合わさないようにして歩いている。



「はぁ…お気遣いありがとうございます~ お兄さんは優しいんですね~?」



「お兄さんはやめろ。俺はお前の兄ではない」



「いや、そういう意味の『お兄さん』じゃないし… じゃあ、なんて呼べばいいんですかぁ?」



「…………ヨシツネだ」



「ヨシツネさん!? これまた古風なお名前ですね~ ! ひょっとして家来の名前は弁慶とか言います?」



「家来? 俺は家来なんて持ったことはないぞ! どちらかと言うと俺が家来のようなもんだからな… いてっ! 何すんだよ!?」

女生徒には見えてないが、死神ジュンのツッコミがヨシツネに炸裂したようだ。



「ほぇ? 私何もしてないよ!?」



「あぁいや、気にするな!こちらの事だ……」



「うふふ、変な人〜 そういえばヨシツネさんはどうして学校にいたの? ウチの生徒………じゃないよねぇ?」



それは実に的を射た質問だった。

返答如何では、一気にヨシツネが学校に忍び込んでいた変質者ということになりかねない!

死神ジュンはハラハラしながらヨシツネの返答を待った。



「ああッ! お、俺転校生なんだよ! 本当は今週から登校するはずだったんだが、学校がこんな事になっちまってさ… ひ、暇だから下見に来てたってわけ!」



『ヨシツネ、グッジョブ!!』

死神ジュンはそう呟いた。
不可視化で見えないが、多分親指を立てていたに違いない。



「えーっ! 転校生だったの!? じゃあ色々と大変だったね?」



「うん… まぁ…そうだな………」



女生徒はヨシツネの作り話をあっさりと信じたようだ。



「早く学校再開すれば良いね? 私、藤沢さんご。さんごって呼んでくれていいよ~! 学校で会った時はよろしくね?」



そう言って藤沢さんごはニカッと満面の笑みを見せた。



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