第8話

文字数 984文字

デートの2日目は再び藤沢さんごのリクエストで隣町のショッピングセンターに行った。

この日も藤沢さんごはたいそうはしゃいでいた。



もちろんヨシツネとて本来の目的を忘れたわけではない。

だが昨日と今日で、妖魔が藤沢さんごを襲う気配は全くなかった。

それどころか、この2日間ほどは昏睡事件さえ起きていなかった。



ヨシツネが藤沢さんごと3日目の約束を取り付けて来た時、死神ジュンはヨシツネに指示を与えた。



それは

『明日自分は独自に調べたいことがあるから上空監視はしない』

ということと

『明日のデートが終わったら、藤沢さんごを所定の場所に連れて来るように』

という二つの指示だった。





3日目は水族館に行った。

そこで藤沢さんごは自分の名前の由来について語った。



「ねぇ、ヨシツネくん? 私の名前の『さんご』なんだけど、どうして私の本当の両親は、私にこの名前を付けたんだと思う?」



「さぁな? 3月5日にでも生まれたからじゃねーの?」



「違うよー! だいたい私の誕生日3月5日じゃないし!」



ヨシツネに茶化されて藤沢さんごは少しむくれてみせる。



「私も詳しくは聞いてないんだけどね、私のお父さんとお母さんは海で出会ったらしいんだ~ だから子供には海っぽい名前を付けたかったらしいんだけど、それにしても『さんご』って、なんだそりゃーっ!?って感じでしょ?」



多分それは藤沢さんごが幸せな時を過ごしていた頃の話…

数少ない実の両親との思い出…



『熱帯の海』と題された水槽には色とりどりの魚が泳いでいたが、魚たちの隠れ家として用意されていたのは、樹脂でできた作り物の珊瑚だった。



「ありゃ~、本物の珊瑚が見たかったね…」



苦笑いしながら藤沢さんごは言った。



「じゃあ今度は海にでも行くか?」



そうヨシツネが言うと、藤沢さんごはヨシツネの手を握りながら『うん…』と小さく答えた。





夕刻になりヨシツネと藤沢さんごは、死神ジュンに指定された場所へとやって来た。

そこは河川敷に作られた広場だった。



その広場の真ん中に死神ジュンはいた。

しかも不可視化の魔法はかけていない…



「誰? 知り合い?」



不安げに訊ねる藤沢さんごを『ちょっと待って』といった身振りで制して、ヨシツネは死神ジュンの前まで歩を進めた…



「ヨシツネ! そいつから離れなさい!」



出し抜けに死神ジュンが叫んだ。



「はぁ!? 姐さん何言って……」



「まだ判りませんの!? そいつは妖魔よ!!」




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