第一章のあらすじ

　おさないころに母を亡くし、父のもとで大工の修行に励んでいたシンは八歳ときその父親も事故で亡くしてしまいます。
　シンは、お祖父さんに引きとられ、大工の親方にあずけられて修行にはげみ、やがて一つの現場をまかされるまでに成長してゆきますが、兄弟子のいじめにあい大怪我を負わされてしまいます。
　その後、シンは、お祖父さんの介護のおかげで仕事ができるまでに回復してゆきますが、お祖父さんは、からだが弱くなり亡くなってしまいます。
　シンは生まれた家に戻り、家具職人として独立することを決めて店の準備に取りかかります。
　そんなある日のことでした。見知らぬご婦人がたずねてくると、突然、持っていた袋を投げるように手渡して帰ってしまいます。
　手渡された袋の中身は、その昔、宮司だったご先祖さまが社に祀っていたと伝わる、『神器の鏡』でした。……が、そうとはしらぬシンは、銅鏡をみがいて店の玄関先に飾ることにします。
　それから数年後、シンの家を訪ねてきたのは、今にも事切れそうな老人でした。老人は、玄関先に飾ってあったその銅鏡を指差して、「わたしは、ここへ導かれたのです……」と、その身なりからは想像もできない旅のはなしをかたりはじめます。
「わたしは……、王様でした」と語りはじめたサム老人の国に、ある日、〝マギラ〟と呼ばれる魔法の箱が持ちこまれると、国中に、便利で豊かな生活がもたらされてゆきます。しかし、人びとの生活が便利になる一方、国の中にはそれまで考えられもしなかった悲惨な事故や凄惨な事件が蔓延し、その原因が〝マギラ〟にあると考えたサム老人（王様）は、その〝悪〟を取り去る計画を企てます。が――、逆に、その計画によって国を追われる羽目になり、砂漠の中を歩きつづけること二年半、王という、その権威と権力の足下のもろさに気づいたところで、皮肉にも……、〝マギラ〟を作りだしたその国に辿りつきます。
　そこで、『これはきっと神様のお導きにちがいない』と考えたサム老人は、『自分は、ただの独りの男となり、〝マギラ〟と戦おう！』と決意します。ところが、〝マギラ〟の国に忍び込んですぐに盗賊におそわれ、気を失ってしまい、そこに駆けつけたルイという女性に命を救われます。

　ルイはコボルの町を構成するグループのリーダーで、ルイの祖父は、〝マギラ〟と名付けられたＮＥＯエネルギーの発見者でした。
　しかし、世界征服を目論む人物によってルイの祖父の発見は――、その秘めたる力に〝マギラ〟の名を与えられ、戦略兵器に利用されることになり、ルイの祖父の願いは断たれてしまいます。
　ルイは、その、祖父の願いからかけ離れてしまった〝マギラ〟に依存しない理想の生活を実現しようと、日々の闘いに臨んでいました。
　サムは、そんなルイと仲間たちと生活をともにするうちに、
『〝悪〟は、〝マギラ〟にあるのではなくて、自分自身が作りだしていたのだ！』と気付かされてゆくことになります。



【登場人物一覧】
〖第一章の登場人物（シンの身の回りの人びと）〗

・シン：幼い頃に母を亡くす。父の元で大工の修行に励み、父を亡くしてからは町の棟梁の元で腕に磨きをかけて、やがて好景気に沸く町の建築現場に出て腕を認められて出世をするが……、自分に溺れて自堕落な生活へと落ちて、『お父さんのような立派な大工になりたい』と、誓いを立てたその頃を省みながら葛藤の日々をおくる。

・シンのお祖父さん：シンの父親が事故で亡くなってからはシンを引き取って面倒をみる。

・シンのお父さん：連れ合いを亡くしてからは、シンはいつも仕事場に置き、つねにシンを見守りながら男手一つで育てる。

・シンのお母さん：シンがまだ幼かった頃に不治の病で亡くなる。

・大工の親方：代々続く町一番の大工の棟梁。シンの父親をリスペクトしている。

・兄弟子たち：シンの出世を妬み、虐めをくりかえす。


〖第一章の登場人物（サムを取り巻く人びと）〗
・サム：サムラダッタ王国の王様。〝マギラ〟という魔法の箱と、〝マギラ〟を国に持ち込んだ息子と、〝マギラ〟を国中に広めて行くゼムラと、その葛藤のなかで銅鏡にしるされた秘事に導かれてゆく。
　　　

・ハン：サムの一人息子。家庭教師のゼムラと共に世界中を巡り、〝マギラ〟の必要性を認識し、国の中に持ち込む。

・ナジム：ハンの一人息子。幼い頃、一番の遊び相手だったサム王様が城からいなくなり、父親の苦しむすがたを間近に見ながら、その原因が、ゼムラと〝マギラ〟にあることを幼い頃から知ることになる。

・サラ：ナジムの母。サムとハンの葛藤を間近に見ながら、〝マギラ〟に恐れをいだき、ナジムから遠ざける。

・ヨキ：サムの妻、王妃。国中に〝マギラ〟が蔓延してゆくなか、早くから〝マギラ〟に危機感を抱く。

・ルイ：〝マギラ〟を作りだした国にあるコボル（＝スラム）のグループのリーダー。サムを救出する。
ルイの祖父は〝マギラ〟と呼ばれることになったＮＥＯ(ネオ)エネルギーの発見者で、ルイは、祖父の意志からかけ離れてしまった〝マギラ〟に頼らないライフワークを追い求める実践者。

・キマ：〝マギラ〟の国の階層社会からコボルの町へとこぼれ落ちてきた若い女性。そこでサムと出会う。