第72話 第三章/銅鏡の秘密 道のり -1
文字数 2,183文字
――そして、
その日のおとずれをしらせる号砲が、夜明けとともに国中の空に轟き渡りました。
鳴りわたる花火の音は、街なかに犇 めきあう群衆や出店にならべられた縁起のしなじなを瞼の裏に甦らせながら、人びとを、年に一度の大祭へと誘 ってゆきました。
祭りはまた、新型〝マギラ〟の見本市もかねていて、
とくに今回は、
大火災で犠牲になった人びとを弔 おうとの気運もたかまり、
国内ばかりか国外からも大勢の人びとを集めました。
この年の〝マギラ〟製造各社の競いあう最新モデルは、
競いあいを強化する従来の機能に、あたえられたダメージを緩和するあらたな機能が加えられ……と、
年々、人びとの要求に応えて追加されるあらたな機能は、
他の機能を併せもつ複雑怪奇な機種へと更新進化を遂げながら、
……しかし、
あんしんもしあわせも掴むことのない、堂々巡りを繰りかえしておりました。
この、
ゼムラの復活させた一族の神様を祀る大祭は、
一年に溜まった悪を祓 い、一年の福を呼びよせる節目とされ、
〝マギラ〟は、
祭りのあいだの人間模様を、彩り鮮やかに演出して見せました。
罪人の刑の執行はこの日にあわせられ、
祭りに集まった人びとの一年にためこんだ不満の捌 け口 に利用されました。
箱車に乗せられた罪人たちは、街から離れた処刑場までの道のりを、罵声を浴びせられ、石を投げられ棒で突かれながら運ばれてゆきました。
この、猛獣の力をもってしても破ることのできないほど頑丈につくられた鉄格子の檻は、
見せしめを目的とするほか、刑場につくまでのあいだ、中の罪人を暴徒の無謀な行為から守る役目も果たしました。
が、なかには、
怒りを露 わに罪人に怪我を負わせる者もいて、
しかし、罪人の命にかかわらないかぎり、大概のことは見逃されました。
――この
魘 されつづけた悪夢を取り払うために、
ゼムラが幼いころより思いえがいてきた復讐のかたちでありました。
サムをはじめとするナジムとヨキ、
ヨーマたち七人の男たちとヤモイと仲間たち、
そして村の猛者を乗せた五台の箱車は、
他の罪人を乗せた箱車とともにそれぞれが十人ほどの警護に誘導されながら、
街なかを、見世物になって引かれてゆきました。
例年であれば、人集りの隙間をとおして箱車の中の様子をうかがうこともできましたが、
今回ばかりは、取りまく人垣にかくれて、中の様子はなにも見えない状態でした。
ゼムラは、処刑場内の建物の中に居て、
生き残った一族の面面とともに先祖の祀られた祭壇のまえに座り、
スクリーンに映しだされる民衆のすがたと、
箱車の中の様子を交互に見くらべながら、
……酒に酔い、
幼いころより味わいつづけた、
情念によって掻 き毟 りつづけた傷痕を、
弄 んでおりました。
こうして箱車は、〝マギラ〟社会のかかえるストレスを、入れ替わり立ち替わりに来て吐きだす人びとの異様な空気に包まれながら、
魔除ストリートと名付けられた処刑場までの道のりを、
ゆっくりと進み、
そしていよいよ処刑場の入口へと到着しました。
刑場の入口にはかつての城の門が移設され、
ここからの警護は入口で待つ兵士へと引き継がれてゆきました。
――引きついだ兵士は、
箱車を取り囲んだ人びとの前までやってくると、
両手を広げて、
「おいおい、おまえたちはここまでだ!
ここから先は立ち入りならぬ。
とっとと祭りへもどりなさい!」
と、塵でも払うように手首を動かして見せました。
と、
「囚人のとうちゃくである。
門をひらけ!」の声とともに、
開門のラッパが鳴り渡った・・そのとき、
中に待ちかまえていた門番の手が差し渡しの閂 を掴むより早く、
箱車を取り囲んでいた半分が門に走り、
半分は、
隠し持っていた道具を取り出して鉄格子を目掛けていっせいに打ち下ろしはじめました。
「おいっ!
おまえたち、なにをする!」
まわりの兵士が止める間もなく、
箱車から飛び出した猛者たちは取りまきの百人を越える人びとと一緒に、兵士と警護兵に襲いかかり、
門に走った人びとは、
かけ声とどうじに、
開こうとする門を一気に押さえつけました。
――それはナジムの企てでした。
ナジムは、内開きであった城門が移設のさい、ゼムラによって外開きに取りつけられていたこと。
そして、通用口の通路が狭くなっていることに目をつけると、
サム奪還に失敗したときの最悪の事態にそなえた戦術に練りあげて、武術の修練者たちに伝えておりました。
村に待機していた武術家たちは、
ナジムと一行がゼムラ軍に捕らわれたと知るや、
すぐに街に忍び入り、
鉄格子を切断するための金切り鋸や牢を打ち破るさまざまな道具を揃えて、この日のために控えておりました。
忍びのなかには女もいて、
ある者たちは恋人を装い、
またある者たちは外国人に扮して、
祭り気分に浮かれた雑踏のなかに紛れこむと、
サムたち一行に近づき、
計画どおりに野次を飛ばす者と檻を破る者との二手に分かれて、
檻を破る者は、
罵声を発しながら檻を叩く者や罪人を突こうと暴れる者の陰に隠れて……、
金切り鋸を挽きつづけました。
門の中では、
逆に押されてあたふたする門番たちに業を煮やした兵士たちが、狭い通用口へと走り、
押しあい圧しあい塀の外へと飛びだしてゆきました。
するとそこに、
腹やあたまを抱えてころがる兵士と護衛兵の山ができていて、
そのまえに、
サムとナジムが仁王立ちに立っていました。
その日のおとずれをしらせる号砲が、夜明けとともに国中の空に轟き渡りました。
鳴りわたる花火の音は、街なかに
祭りはまた、新型〝マギラ〟の見本市もかねていて、
とくに今回は、
大火災で犠牲になった人びとを
国内ばかりか国外からも大勢の人びとを集めました。
この年の〝マギラ〟製造各社の競いあう最新モデルは、
競いあいを強化する従来の機能に、あたえられたダメージを緩和するあらたな機能が加えられ……と、
年々、人びとの要求に応えて追加されるあらたな機能は、
他の機能を併せもつ複雑怪奇な機種へと更新進化を遂げながら、
……しかし、
あんしんもしあわせも掴むことのない、堂々巡りを繰りかえしておりました。
この、
ゼムラの復活させた一族の神様を祀る大祭は、
一年に溜まった悪を
〝マギラ〟は、
祭りのあいだの人間模様を、彩り鮮やかに演出して見せました。
罪人の刑の執行はこの日にあわせられ、
祭りに集まった人びとの一年にためこんだ不満の
箱車に乗せられた罪人たちは、街から離れた処刑場までの道のりを、罵声を浴びせられ、石を投げられ棒で突かれながら運ばれてゆきました。
この、猛獣の力をもってしても破ることのできないほど頑丈につくられた鉄格子の檻は、
見せしめを目的とするほか、刑場につくまでのあいだ、中の罪人を暴徒の無謀な行為から守る役目も果たしました。
が、なかには、
怒りを
しかし、罪人の命にかかわらないかぎり、大概のことは見逃されました。
――この
引き回し
こそが、ゼムラが幼いころより思いえがいてきた復讐のかたちでありました。
サムをはじめとするナジムとヨキ、
ヨーマたち七人の男たちとヤモイと仲間たち、
そして村の猛者を乗せた五台の箱車は、
他の罪人を乗せた箱車とともにそれぞれが十人ほどの警護に誘導されながら、
街なかを、見世物になって引かれてゆきました。
例年であれば、人集りの隙間をとおして箱車の中の様子をうかがうこともできましたが、
今回ばかりは、取りまく人垣にかくれて、中の様子はなにも見えない状態でした。
ゼムラは、処刑場内の建物の中に居て、
生き残った一族の面面とともに先祖の祀られた祭壇のまえに座り、
スクリーンに映しだされる民衆のすがたと、
箱車の中の様子を交互に見くらべながら、
……酒に酔い、
幼いころより味わいつづけた、
情念によって
こうして箱車は、〝マギラ〟社会のかかえるストレスを、入れ替わり立ち替わりに来て吐きだす人びとの異様な空気に包まれながら、
魔除ストリートと名付けられた処刑場までの道のりを、
ゆっくりと進み、
そしていよいよ処刑場の入口へと到着しました。
刑場の入口にはかつての城の門が移設され、
ここからの警護は入口で待つ兵士へと引き継がれてゆきました。
――引きついだ兵士は、
箱車を取り囲んだ人びとの前までやってくると、
両手を広げて、
「おいおい、おまえたちはここまでだ!
ここから先は立ち入りならぬ。
とっとと祭りへもどりなさい!」
と、塵でも払うように手首を動かして見せました。
と、
「囚人のとうちゃくである。
門をひらけ!」の声とともに、
開門のラッパが鳴り渡った・・そのとき、
中に待ちかまえていた門番の手が差し渡しの
箱車を取り囲んでいた半分が門に走り、
半分は、
隠し持っていた道具を取り出して鉄格子を目掛けていっせいに打ち下ろしはじめました。
「おいっ!
おまえたち、なにをする!」
まわりの兵士が止める間もなく、
箱車から飛び出した猛者たちは取りまきの百人を越える人びとと一緒に、兵士と警護兵に襲いかかり、
門に走った人びとは、
かけ声とどうじに、
開こうとする門を一気に押さえつけました。
――それはナジムの企てでした。
ナジムは、内開きであった城門が移設のさい、ゼムラによって外開きに取りつけられていたこと。
そして、通用口の通路が狭くなっていることに目をつけると、
サム奪還に失敗したときの最悪の事態にそなえた戦術に練りあげて、武術の修練者たちに伝えておりました。
村に待機していた武術家たちは、
ナジムと一行がゼムラ軍に捕らわれたと知るや、
すぐに街に忍び入り、
鉄格子を切断するための金切り鋸や牢を打ち破るさまざまな道具を揃えて、この日のために控えておりました。
忍びのなかには女もいて、
ある者たちは恋人を装い、
またある者たちは外国人に扮して、
祭り気分に浮かれた雑踏のなかに紛れこむと、
サムたち一行に近づき、
計画どおりに野次を飛ばす者と檻を破る者との二手に分かれて、
檻を破る者は、
罵声を発しながら檻を叩く者や罪人を突こうと暴れる者の陰に隠れて……、
金切り鋸を挽きつづけました。
門の中では、
逆に押されてあたふたする門番たちに業を煮やした兵士たちが、狭い通用口へと走り、
押しあい圧しあい塀の外へと飛びだしてゆきました。
するとそこに、
腹やあたまを抱えてころがる兵士と護衛兵の山ができていて、
そのまえに、
サムとナジムが仁王立ちに立っていました。