25:これがブラコン?

文字数 1,059文字

 車に数十分揺られると、私たちの住んでいる阿妻市内では最大の書店、AKIYAMA書店本店へと辿り着いく。本当は駅前にある分店に行く予定だったけれど、今日1日、お兄さんがどこにでも連れて行ってくれるとの事だったので、好意に甘えて本店へ向かった。

「大っきい………」
 車を降りて、ただ一言だけそう呟いた。目の前に広がるのは学校のグラウンドと同じぐらいの広さを持つAKIYAMA書店。これが本当に本屋の大きさなのか、と自分の目を疑った。
 中は想像をはるかに超えた数の本棚と本で埋め尽くされていた。360度どこを見渡しても、本、本、本。お店の広さと相まってか、多分誰かと一緒にいなくては絶対はぐれる気がする。1人で動くのはやめよう、とこっそり決意した。
「それで、奏恵ちゃんは何が欲しいの?漫画?」
 何度か来たことがあるのか、慣れた様子で先頭を歩くお兄さんに不意にそう訊かれる。はい、と答えようとしたけれど、ふとお兄さんの手がポケットに入っている財布に伸びるのが見えた。
 まさか、ここまでしてくれたのに漫画を買ってくれるというのだろうか。送り迎えだけでも大変で面倒だろうし、さすがに申し訳ない。それを感じとったのか、梅崎くんもはっとしたような顔をした。
「………兄さん、まさかまた買ってあげるとか言うんじゃないよね………?」
 お兄さんはキョトンとしている。意味が分からないとでも言いたげな顔だ。
「なんで?別にいいよ。俺お金には困ってないし、蒼衣の友達のために持ってきたお金だし」
 さも当たり前かのように言うけれど、これは梅崎くんの言う通りだ。漫画用のお金は持ってきているし、代わりに払ってもらうつもりも毛頭ない。梅崎くんに友達ができた事がそれだけ嬉しかったのかもしれないけれど、それはダメだ。
「本当に大丈夫ですよ、お金持ってきてますし!お気持ちだけで十分です、ありがとうございます!」
「えぇ~、本当にいいの?遠慮しなくてもいいんだよ?」
 少しキツめに断ってしまった気がしたけれど、お兄さんはまだ食い下がってくる。正直言って面倒くさいが、これ以上断るのも少し気が引ける。………どうしたら良いだろうか。
「兄さん、その………木原さんも困ってるし。僕に友達ができる度に何でも奢ろうとする癖やめてよ………」
 呆れた声で止めてくれた梅崎くんは、どこかうんざりしているようだ。
 なるほど、兄弟思いなのはお互いにそうだけど、それを通り越してブラコンっぽくなっているのがお兄さんなのか。
 私の前で未だ話し続ける梅崎兄弟を見て、苦笑しながらそう思った。
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