5:ちょっとずつ馴染む

文字数 905文字

 今までの中で少し印象的だった始業式の日を終えて数週間。そこまで大きな学校ではないからか、知り合いがほとんどなこのクラスに、私は少しずつだけど馴染めてきていた。
「奏恵ちゃん、次の授業何だったっけ?」
「地理だったと思うよ」
 そう答えると、さわっちは「マジ?!」と急いで教室を出ていった。どうやら、また地理の教科書を忘れたらしい。そういう時、さわっちは隣のクラスの友達に借りに行く。一度、倉井先生に正直に忘れたと申告したところ、居残りで次の授業で使うプリントづくりを手伝わされたそうだ。ちなみに、地理を忘れた回数はこれで4回目になる。
 かなり親しげに話せているけれど、さわっちと同じクラスになったのも、梅崎くん同様初めてだった。なのに、たった数週間でこれだけ仲良くなれたのは、さわっち自身のコミュ力が高いからだと思う。

「沢村圭です!どうぞ、さわっちって呼んでください!女子バレー部です!よろしく!」

 学活での彼女の自己紹介はこれだった。第一印象は、"The・ムードメーカー"。1人いるだけでクラスが一気に明るくなって、団結力が強くなるきっかけになりそうな人だった。
 どちらかといえば目立たないタイプの私は、さわっちみたいな人をカッコイイな、と尊敬する。正直な自分の気持ちを誰にでも言える事がすごいと思う。私だったら、少し遠慮してしまう。
 そんなさわっちを推しのような存在として見ているからか、こんな些細な会話でも、なんとなく嬉しかった。重症かな、これ。
 教科書とノート、地図帳を取り出して机に並べるとちょうどさわっちが息を切らしながら教室に戻ってきた。授業開始時間ギリギリだ。
「まだセーフ?!」
 時計を確認しながら席に着く。
「セーフ!」
「ギリギリじゃん、さわっち」
「どうせなら遅れて登場しても良かったんじゃね?」
 みんなの笑いを含んだツッコミがさわっちを囲む。私だったら頭の中で焦って終わりだけど、当の本人は
「たしかに!」
 と、忘れ物をした事をあまり気にしていないようだった。
 忘れ物を気にしないのは良くないと思うけれど、そんな人でも受け入れられるクラスのこの雰囲気が私は好きだ。
 少しずつでも、馴染んでいこう。
 
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