20:眠れない夜

文字数 1,354文字

「誘えた………」
 よろよろとベッドへ向かい、その勢いでボフンと倒れ込む。シーツに顔がめり込んで息ができなかったけれど、動悸の激しさと込み上げてくる嬉しさで、それどころではなかった。
 誘えた。梅崎くんを、デートに。
 それだけで顔がニヤけてしまうけれど、明日、彼と会える事にもっと幸せを感じる。毎日学校で会えているけれど、明日はその比ではない。明日の事を想像するだけで、今日は眠れそうになかった。
 しばらくベッドの上でジタバタしていたけれど、それでも気分が落ち着きそうになかったので、スマホを取り出し、今日交換したばかりの彼との連絡先の画面を開いた。
【よろしくね!】
【はい、よろしくお願いします】
 お互いに一言ずつの、端的な挨拶。やっぱり、画面にふきだしが2つ表示されているだけでは寂しい印象を受けた。
 チラリと時計を見てみると、時刻は8時を過ぎようとしている。連絡しても大丈夫かな、と一瞬遠慮したが、私の中で彼との会話を増やしたいという欲が勝ってしまい、ついメッセージを打ち込んだ。
【明日、行きたい場所ってある?】
 ボタンをタップし、メッセージに既読がつくのをベッドで寝転びながら待つ。時計を見ると、まだ10秒かそこらしか経っていないのに、もう数分待っているような気分だった。

 ………早く、既読つかないかな。
 スマホに表示された時間が5分ほど進んだ頃、私はベッドの上で忙しなく動いて返信を待っていた。
 こんなの面倒くさいかもしれないし、もしかしたらお風呂に入っているのかもしれないけれど、今、無性に梅崎くんと話したい。どんな些細な事でもいいから、彼と繋がっていたかった。
 未だ既読のつかないメッセージに、今度は寂しさが込み上げてきた。なんで、メッセージ見てくれないのかな。不安と焦りが入り混じった何かが、体の中を駆け巡っているような感覚がする。そしてそのうち、本当は遊びになんて行きたくないんじゃないか、とマイナスな思考が頭に浮かび出てきた。
 多分、そうだ。誘った時もメガネを押し上げて何か考えてたのに、結局「遊べる」と言ってくれた。今思えば、あれは嫌々了解したといった感じだったし、声もどこか面倒くさそうだった気がする。本当は私なんかと遊ぶヒマがあったら、読書か勉強をしたいのかもしれない。
「勝算は薄いかな………」
 既読のつく気配がないメッセージを睨みつけながらはぁ、と大きくため息をついた。教室やリビングとは違って、ここでは周りを気にせず素直になれて気が楽だった。
 そこから更に待ち、待ちくたびれて欠伸が出そうになった時、ようやく返信がきた。が、ほとんどが誤字で何と書いてあるのかが全く分からない。
 相当焦って打ったらしく、ほとんどが誤変換だったり、誤字だったりしていた。
【秋田、本や言ったあとゲーヘン活きたいです】
「おぉっとこれは………」
 一から解読する必要のありそうなこのメッセージはまるで推理小説の暗号か何かだ。そして、このまま送信してきたという事は、おそらくこの状態になっている事に気づいていない。
 でも、すぐに何と書いてあるのか訊いてしまうのも面白くないと思ったので、敢えて伝えず、頑張って解読する事にした。

 解読を初めて数分。今日の私の夜は、このたった1つのメッセージに費やされていく――――。
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