38:お決まりのやつ

文字数 1,717文字

 その後、何とか班は決まり、残りの時間は各班で見学する場所を話し合う事となった。
 私の班は6班で、メンバーは私と梅崎くん、西川くん、佐伯くん、さわっちだ。梅崎くんと一緒の班になれた事は嬉しかったけれど、またさわっちが同じ班だという事に驚きを隠せなかった。
 別に、さわっちが苦手だとか、嫌いだという訳ではない。クラスの中心でもあるさわっちは私も好きだし、むしろ推しのような存在だと思っている。
 でも、やっぱり何か意図があって私と同じ班にしているのではないか。根拠のないただの勘だけど、そう考えずにはいられないほど、さっきからさわっちは私と一緒にいるのだった。
「おっし、取り敢えず班長決めようぜ」
 佐伯くんの一言で、班活動お決まりの班長決め(押し付け合い)が始まる。班長は、班員の体調を確認したり、集合した時に人数確認をしたりと仕事が多い。人気がないのは当然だった。
 やりたい人ー、と募集するが、やはり誰も手を挙げない。そのまま数分が経過し、だんだん推薦するような流れとなっていく。
「やっぱ、こういうのはさわっちだろー。さわっち、班長やったらどう?」
「え、めんどくさいからヤダ………」
 実行委員だから仕事するし、ともっともらしい理由でさわっちは逃げる。でも、私だってやりたくはないので、さわっちが少しズルく思えた。
「そういう西川こそ班長やれば?」
「いやどうみても俺は班長って感じじゃないだろ!」
 また押し付け合いが再開されるが、あまり会話に入っていない私と梅崎くんは3人のやり取りをただぼうっと見ているだけだった。3人も、私たちがいる事を忘れていそうなぐらい班長決めに夢中だった。
「………よし、もうじゃん負けで決めようぜ」
 覚悟を決めたかのような表情をし、西川くんは拳を握りしめる。「乗った」とさわっちも握り拳をつくった。佐伯くんは呆れたようにため息をつき、私たちも3人に近寄った。
『最初はグー、じゃんけんぽい!』
 チョキが2つ、パーが3つに分かれた。私が出したのはチョキだったので、何とか班長にはならなくて済んだらしい。同じチョキを出したさわっちも「っしゃー!!」とその場で飛び跳ねた。
「げー、マジか! 男同士の決戦じゃん!」
「まぁ、パーを出したのが悪いもんな」
「………………」
 あちゃー、と頭を抱える西川くんと、苦笑する佐伯くん。梅崎くんに至っては顔面蒼白で絶望していた。みんなそんなに班長やりたくないんだな、と思えた瞬間だった。
「見てて面白いよね、ああいうのって」
 クスクス笑いながら、さわっちは3人を指さす。
「うん、そうだね」
 3人のそれぞれのリアクションが面白くて、思わず私も笑ってしまった。
 気を取り直して、班長決め第2回戦が始まる。さっきより真剣な顔をして、3人はグーをつくった。
『最初はグー、じゃんけんぽい!!』
 今度はグー1つとチョキ2つ。佐伯くんの一人勝ちだった。
「あぁぁぁー!!」
「お、ラッキー」
「………………………………………………」
 さっきより顔を蒼白くする梅崎くんが少し心配になったけれど、周りに闇色のオーラが漂っていて、なんだか近寄り難い雰囲気だった。
 そして、班長決めの最終決戦が始まる。掛け声の後、気の合う2人だったのか、あいこが続いてなかなか決着がつかなかった。
「あいこでしょ、あいこでしょ、あいこでしょ………」
 機械のように、西川くんが同じ言葉を繰り返す。梅崎くんは何も言わないけれど、掛け声に合わせて何度も手を出す。
 もはや西川くんから出てくる言葉が呪文か何かにも思えてきた頃、ようやく勝負がついた。
「あっ………」
「………………………!!」
 出されたのはパーとグー。パーを出したのは梅崎くんだった。
「嘘だろー?!?!」
 膝から勢いよく崩れ落ちた西川くんを横目に、佐伯くんは班のスケジュールを書くプリントに【班長・西川透】と無情にも名前を書いた。それも、気持ち良いぐらいの爽やかな笑顔で。
 梅崎くんはというと、また魂が宿ったかのように心底ホッとしていた。あの闇色のオーラも消えていて、代わりにふわふわしたお花が咲いていた。

 ………まぁなにはともあれ、激しい班長決めはこのようにして幕を閉じたのだった。
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