2:どうぞよろしく

文字数 1,179文字

 教室に入れば、既に何グループかができていた。どのグループも男女関係なく楽しそうで、おまけにオシャレだ。
 大してファッションやコスメに興味のない私は、きっとあの女子たちの話にはついていけないだろう。自分で言うのも恥ずかしいが、基本的には日焼け止めを塗る、ぐらいの事にしかしていない。そのせいか、テレビなどのオススメのコスメなどを紹介されても頭の中がクエスチョンマークで埋まってしまうのだ。
「さすがに流行ぐらいは把握しておこうかな……」
 新学期早々から己の女子力のなさを痛感しつつ、黒板に貼られた席順の書かれた表を見て席に着いた。
 3年3組8番、木原 奏恵。今年の出席番号は、去年と一緒。しかも、クラスメイトのほとんどは今まで同じクラスになった事があるからか、あまり進級した気がしない。まるで2年生をもう一度やっているような感じだ。
 でも、去年まで一緒だった流歌がいないからか、どこか別の教室にも思える。このちょっと不思議な感じが、私は好きだ。クラス替えの醍醐味って、多分これじゃないかな。

 しばらくすると、クラスメイトはほぼ全員教室に入り、近くの知り合いと楽しく話をしていた。私もこのクラスに知り合いはいるし、話したいけれど、生憎席がここから離れている。立ち上がって話しにいけるかもしれないけれど、後で怒られる気がするからそれはできない。その場に留まって、担任の先生が誰になるかを予想する事にした。
 個人的には、社会担当の倉井先生がいいな。優しくて、歳も近くて、ノリも良い。1年生の頃から私たちの社会担当は倉井先生だった。この1年で良い思い出ができなくても、担任が倉井先生なだけでかなり嬉しい。でも、さすがに3年間同じ先生と授業できる可能性は低い気がする。望みは薄いかな。
「あ、あの……」
「ん?」
 どこか控えめな声がした。
 声がしたのは右隣から。振り向くと、ちょっと寝癖がついたボサッとした黒髪に、紺色のフレームのメガネをした男子だった。嫌かもしれないけれど、跳ねた毛先が可愛らしい。読書をしていたのか、机には厚めの小説が置かれていた。
「えっと……どうしました?」
 言ってから気づいた。何で敬語で訊いた!今日から1年間、それも中学校生活最後のクラスメイトなのだから、敬語なんて使わなくていいのに!
 そう思った時には既に遅かった。案の定、男子はアワアワとしながら言葉を紡いでいた。
「あ、え、えっと、その……さっきはっ…!」
「お、落ち着こう?ちゃんと聞くから!」
 咄嗟にそう言えば、少し落ちついたのか、「は、はい」とさっきよりしっかりした声で話し出した。私も軽い深呼吸をする。
 お互いに落ちついたところで、彼は改めて初めから話し出した。
「あの…さっきは、その……ありがとうございました」
「……さっき?」
 覚えのない事に感謝された。
 私、この人に何かしたっけ……?
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