33:濃い1日
文字数 1,228文字
「今日楽しかったですか?」
「うん、ありがとう!でもごめんね、私が遊ぼうって誘ったのに………」
「いえ、誘ってくれた分を今日返そうと思ってたので大丈夫です」
「そっか」
気がつけば夕日が傾いていたので、そろそろ帰ろうか、と私たちは駐車場に向かっていた。AKIYAMA書店と同じようにお兄さんを先頭にして歩く。梅崎くんととりとめのない話をしながら歩ける事に嬉しさと緊張感を感じているのは内緒だ。
今日1日を振り返ってみると、本当に濃い1日だった気がする。まず、梅崎くんの大変身。そこから向かったAKIYAMA書店で偶然本が落ちてきて、事故とはいえ壁ドンをしてもらったり、梅崎くんのゲームの腕を見せてもらえたり、天王寺くんというファンに出会ったり――――。
………本当に、漫画なんじゃないかと思えるような1日だった。こんな1日は滅多に経験できないのではないだろうか。そんな特別な日だったからか、車に乗った瞬間、どっと疲れが押し寄せてきた。
「それじゃ、奏恵ちゃんを家まで送ろうか」
「当たり前でしょ、兄さん。これで学校までとか言い出したら殴るよ、本気で」
握りこぶしを見せながらそう言う梅崎くんに、天王寺くんの言っていた事は本当なんだなと思い知る。まさか人を殴るような人とは思っていなかったけれど、きっと何か許せない訳があったんだろう。まぁ、私の前でそんな事をしようものなら頑張って止めるつもりでいるけれど。
「分かってるって!とりあえずその拳はしまってしまって。蒼衣に構ってもらえるのは嬉しいけど、それ以外の方法がいいな、兄ちゃんは!」
「出た、気持ち悪いとこ………」
割りと本当に気味悪がるように距離を置くと、お兄さんは軽くショックを受ける。最初は私を笑わせるための演技かと思っていたけれど、どうやらそういう訳ではなく、本当にブラコンらしい。敬語を外したいつもなら見られない梅崎くんを見れて、実はこっそりと喜びを感じている。
そのやり取りを横目に、私は睡魔と戦っていた。
………眠い。冗談抜きで、気を抜いたら本当に寝てしまいそうだ。
送り迎えをしてもらってるんだから、これ以上迷惑はかけられない。その申し訳なさと梅崎兄弟の会話でなんとか意識を保っているけれど、それも限界に近かった。
「………木原さん、眠いですか………………?」
「ふぇ………?あぁ、うん、ちょっとだけ………」
どうやらバレてしまったらしい。顔を覗き込まれて瞼が落ちそうなのが見えたようだ。
「ちょっと遠出でしたもんね、どうぞ寝てください。学校が近くなったら起こしますから」
「え、いいの………?」
梅崎くんの言葉と声が優しすぎて睡魔に負けてしまいそうになる。なんとか言葉を絞り出して返事をしたけれど、それが最後だった。
「おやすみなさい………」
意識が完全に落ちる直前、頭に大きな手を置いて、梅崎くんの声が聞こえた。
うん、おやすみなさい。
その言葉を言える事なく、私はゆっくり、夢の世界へと墜ちていく――――。
「うん、ありがとう!でもごめんね、私が遊ぼうって誘ったのに………」
「いえ、誘ってくれた分を今日返そうと思ってたので大丈夫です」
「そっか」
気がつけば夕日が傾いていたので、そろそろ帰ろうか、と私たちは駐車場に向かっていた。AKIYAMA書店と同じようにお兄さんを先頭にして歩く。梅崎くんととりとめのない話をしながら歩ける事に嬉しさと緊張感を感じているのは内緒だ。
今日1日を振り返ってみると、本当に濃い1日だった気がする。まず、梅崎くんの大変身。そこから向かったAKIYAMA書店で偶然本が落ちてきて、事故とはいえ壁ドンをしてもらったり、梅崎くんのゲームの腕を見せてもらえたり、天王寺くんというファンに出会ったり――――。
………本当に、漫画なんじゃないかと思えるような1日だった。こんな1日は滅多に経験できないのではないだろうか。そんな特別な日だったからか、車に乗った瞬間、どっと疲れが押し寄せてきた。
「それじゃ、奏恵ちゃんを家まで送ろうか」
「当たり前でしょ、兄さん。これで学校までとか言い出したら殴るよ、本気で」
握りこぶしを見せながらそう言う梅崎くんに、天王寺くんの言っていた事は本当なんだなと思い知る。まさか人を殴るような人とは思っていなかったけれど、きっと何か許せない訳があったんだろう。まぁ、私の前でそんな事をしようものなら頑張って止めるつもりでいるけれど。
「分かってるって!とりあえずその拳はしまってしまって。蒼衣に構ってもらえるのは嬉しいけど、それ以外の方法がいいな、兄ちゃんは!」
「出た、気持ち悪いとこ………」
割りと本当に気味悪がるように距離を置くと、お兄さんは軽くショックを受ける。最初は私を笑わせるための演技かと思っていたけれど、どうやらそういう訳ではなく、本当にブラコンらしい。敬語を外したいつもなら見られない梅崎くんを見れて、実はこっそりと喜びを感じている。
そのやり取りを横目に、私は睡魔と戦っていた。
………眠い。冗談抜きで、気を抜いたら本当に寝てしまいそうだ。
送り迎えをしてもらってるんだから、これ以上迷惑はかけられない。その申し訳なさと梅崎兄弟の会話でなんとか意識を保っているけれど、それも限界に近かった。
「………木原さん、眠いですか………………?」
「ふぇ………?あぁ、うん、ちょっとだけ………」
どうやらバレてしまったらしい。顔を覗き込まれて瞼が落ちそうなのが見えたようだ。
「ちょっと遠出でしたもんね、どうぞ寝てください。学校が近くなったら起こしますから」
「え、いいの………?」
梅崎くんの言葉と声が優しすぎて睡魔に負けてしまいそうになる。なんとか言葉を絞り出して返事をしたけれど、それが最後だった。
「おやすみなさい………」
意識が完全に落ちる直前、頭に大きな手を置いて、梅崎くんの声が聞こえた。
うん、おやすみなさい。
その言葉を言える事なく、私はゆっくり、夢の世界へと墜ちていく――――。