37:お誘い

文字数 1,416文字

 気がつけば生活班をさわっちに組まれていて驚いていると、男子の方も班が決まったらしく、学習班決めに移っていた。
 これは人数が多いからか、なかなか班が決まらない。その間、私は何故さわっちが私と班を組んだのかを考えていた。
 単純に、私と同じように余っていたから? でも、さわっちは学校中の人気者でもあるし、そんな彼女がクラスで嫌われているはずはない。前に彼女がクラスメイトたちに班を同じにしようと誘われているのを見た事もあった。
 じゃあ、その誘いを断ってまで私と組んだという事だろうか。でも、その場合のメリットは何だというのだろう。たまに話す事はあっても、特別仲が良いだとか、話が合う相手という訳でもない。ただのクラスメイトである私と組む理由が、さわっちにはあるはずがなかった。
 そのまま考え続けて、もしかしたらーーーーというある結論に至った。でも、確証はない。それに、もし本人に確認しても、間違っていれば私の気持ちをさわっちに暴露する事になる。今確認する事でもないか、と話し合いに加わった。

 ………なかなか決まらない。
 1時間目が終わり、今は休憩時間。1時間目の間に決める事ができたのは1班だけで、ほかは人数が多かったり、足りなかったりと難航していた。
 男女関係なく仲が良いのが、このクラスの長所だ。でも、仲が良すぎるあまり、こういった人数制限のある班決めはいつも時間がかかるのだ。
 授業や校外学習ならともかく、これは"修学旅行"の学習班。一度しかないこの一大行事で、みんな特に仲の良い友達や好きな人と班を同じにしたいのだろう。私だってそうだ。
「………同じ班、なれるかな………………」
 机に肘をつき、頬を片手に乗せてそう呟くと、「誰とですか?!」と声が聞こえた。
「誰って、そりゃあ………」
 梅崎くんだよーーーーそう言おうとした言葉を慌てて飲み込んだ。声が彼のものだったからだ。首をぎこちなく右に向けると、思ったより目の前に梅崎くんの顔があった。
 私の机に右手を置いて、顔をずいっと近づけている。顔が赤くなりそうになるのを必死に抑えた。
「………な、内緒っ………!」
 恥ずかしさからか、緊張からか。ほとんど無意識にそう答えると、「そうですか………」と彼は俯きがちに自分の席へ戻っていった。
 彼の顔が遠ざかった事に安堵する。もしあのまま会話が続いていたら、私の頬は絶対赤くなっていたと思う。そんなみっともない顔、梅崎くんに見せられる訳がない。
「………学習班、もう誰と組むって決まってますか」
「え? あ、まだ、だけど………」
 突然の質問に戸惑いつつ、正直に答えると、梅崎くんは言いにくそうに目を逸らした。
 その様子に、もしかして、と期待してしまう。でもそれを確かめる勇気はなく、彼の次の言葉をそのまま待っていた。
 しばらく口をパクパクさせていた梅崎くんをじっと見つめていると、決心がついたのか、気を引き締めた様子で言葉を紡いだ。
「学習班、良かったら僕と組みませんか………!」
 周りのざわつきや、廊下での話し声でかき消されてしまいそうな小さな声。でも、梅崎くんに集中していた私には、その言葉がはっきり聞こえた。
「………はい。よろしくお願いします」
 嬉しさで思わずこぼれた笑顔でそう言うと、梅崎くんは大きくため息をついた。私がいうのもなんだけど、きっと緊張したんだろうな。
 後ろからさわっちが見つめていた事も知らずに、呑気な私は彼を見つめていた。
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