28:初めて見るゲーム

文字数 1,637文字

「で?今日は何のゲームするの?」
 ゲーセンの中をうろつきながらお兄さんが訊く。梅崎くんは何故か私を一瞥してから「う〜ん………」と唸った。ふと、その仕草にどこか違和感を感じた。
 もしかして、私がいるからやりづらいようなゲームがあるのだろうか。私を気にかけてくれるのは嬉しいけれど、それでもし、梅崎くんのやりたいゲームができないなら、それは申し訳ない。
「私の事は気にせずに選んでよ。私、ゲームはよく分からないから、適当にUFOキャッチャーでも見てるからさ!」
「え………」
 できるだけ笑顔でそう言うと、梅崎くんは驚いたような顔をした。そして「いや、その………」と何やら口ごもる。なんだろう、何か違ったのだろうか。
「そのっ、良かったら………一緒のゲームやりませんか………」
「え………」
 今度は私が驚いた顔をする番になった。梅崎くんと同じゲームをする、という事だろうか。それはつまり、大袈裟に言うと傍にいてもいいという事だろうか。そう考えると、胸が熱くなった。
「おぉ~、良いじゃん。蒼衣だけ楽しんでも意味ないし、せっかくなら一緒にやりなよ。俺は適当に買い物してくるからさ」
 仲良くね、と言い残して、お兄さんは宣言通り、ゲーセンを出ていった。
「………何のゲームする?」
 沈黙が数秒流れた頃、とって付けたように訊いてみると、「そうですね………」と言いながら梅崎くんは歩き出した。私も数歩後ろに着いていく。混雑していないとはいえ、それなりに人がいるゲーセンの中では、1人で動ける気がしなかった。

「これって………シューティングゲーム?」
 ゲーセンの中でも一際広いコーナーへ出たと思えば、銃が置かれたゲームがたくさん並んでいた。射的のようなものからアクション映画にありそうなものまで、よりどりみどりだ。
 その中で梅崎くんが選んだらしいゲームは『BASTARD・MONSTER』という、いかにもモンスターを倒すような感じのゲームだった。
「どういうゲームなの、これ?」
 メダルを5枚入れている梅崎くんに訊いてみると、銃を握りながら彼は淡々と答えた。銃を構える様がとてもかっこいい。
「この銃を使って、上下左右からランダムに出てくるモンスターを撃って倒すんです。レベルが高いほどHPが多いし、出てくるスピードも速くなるんですよ」
 大まかな説明が終わると、タイミング良く音声と数字が表示された。カウントダウンが始まり、ゼロになると同時に『スタート!』という大きな文字が画面いっぱいに広がった。
 ゆるキャラのようなモンスターたちが、私でも追いつけるぐらいの速さで1体ずつ出てくる。それを一発も外す事なく、梅崎くんはモンスターを撃ち倒していった。
 へぇ、こんな感じなんだ。これなら私でもできそうだな。
 思ったより簡単そうだし、キャラもゆるキャラに近かったからか、余裕が出てきてついそう思ってしまった。梅崎くんも、簡単だからこのゲームを選んだんだろうな。
 1人余裕を醸し出して、どんどんモンスターを倒されていく画面をぼうっと見つめる。だが、次のモンスターたちの動きを見た瞬間、梅崎くんがこのゲームを選んだのは、もちろんそんな理由ではないからだと思い知った。
「え、はやっ………?!」
 今まで1体ずつしか出てこなかったモンスターたちが、残り時間1分を切った瞬間、信じられないほどの速さで画面に登場してきた。左右から同時に出てきたり、出てきた瞬間くるくる回って狙いを定めにくくしたり――――。決して目で追えない速さではないけれど、私が目を細めてギリギリ見えるほどで、銃を撃つ時間がないし、こんなの絶対ミスしてしまう。全然簡単じゃない、とその場で青ざめた。
 どこが簡単なの、あんなの絶対できるわけない。画面に何体もいるし、絶対に外す自信がある。こんなの、ゲーマーの梅崎くんでも何回かはミスするはず………。そう、思っていたのに。
「え、すごっ………」

 ふと視線を彼に向けると、問題を解く時と全く同じキラキラした顔が見えた。
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