19:考えていた事

文字数 1,259文字

 その後、予定通りテストは進み、あっという間に下校時刻となった。みんな、テストが終わったという開放感からか、朝よりもスッキリした顔をしている。クラスメイトの大半は既に教室を出ていて、教室の中は疎らだった。
 そんな中、私は読書をしている梅崎くんのもとへまっすぐと向かっていった。どうしても、伝えたい事があったからである。
 いつも通り、彼は本と向き合っていた。テストの時ほどではないけれど、真剣そうな顔で本を読む彼に声をかけづらい。しかも、男子にこんな事を言う日が来るとは思ってもみなかったから、心臓がバクバクと音を立てだして、なおさら声がかけづらかった。
「あの、梅崎くん………ちょっと良いかな?」
 その場で数秒深呼吸をし、やっとの思いで声をかける。深呼吸にしては回数が多かった気がしたけれど、読書に夢中で気が付かなかったらしい。「ふぇ?」と変な声を上げて、彼はこっちに顔を向けた。
 これはテスト週間の時から考えていて、密かに計画していたものだった。その時は、友達として彼と接していた頃だったけれど。
 流歌や奏汰に言うならともかく、相手はクラスの男子。しかも、片思いしている梅崎くんに言うと思うと、言葉が上手く出てこなかった。
「えぇっと、その………あのね?」
 モゴモゴと口ごもってしまうのがもどかしくて仕方ない。不思議そうに首を傾け、私を見つめる梅崎くんとパチッと目が合うと、その場の勢いで言葉を紡いだ。
「てっ、テスト終わったし、明日休みだから……良かったら、どこか行かない?」
 この間は彼に落ち着いていて、と指摘したくせに、私も往生際が悪い。初めて話した時の彼のような話し方に、我ながら呆れてしまった。
「明日ですか………」
 そう呟いてから、梅崎くんは考え込むようにメガネの鼻あてを指で押し上げた。可愛らしい寝癖がピョンと跳ねるようにして揺れる。その振動が止まった瞬間、恥ずかしさと不安が込み上げてきた。
 ………やっぱり、ダメだったのかもしれない。遊ぶ予定を前日に伝えられても、その前から別の予定を立てているかもしれない。もし変更が可能な程度の予定だったとしても、なんだか申し訳ないようなタイミングだった。それに、初めて同じクラスになって、ほとんど知らない友達と遊びたいなんて思わないだろう。
 そこまで考えて、はぁ、と心の中でため息をついた。聞く前から答えが分かってしまうって、なんでこんなに落ち込んでしまうのだろう。こんなに落ち込んだのは、大好きなアニメのグッズが当たった抽選券を、知らない誰かに盗まれた時以来かもしれない。
 バレないよう、また心の中で深い深いため息をついていると、「あの、木原さん」と梅崎くんがこちらに向き直った。
 なんだか申し訳なさそうな声に聞こえてしまう。やっぱり断られるかな。
 そう、思っていたのに。
「明日、遊べます」
 どこ行きますか、と訊き返してくれた彼に、心の底に溜まった落ち込みの霧が一気に晴れていった。

 私が一方的に思っているだけだけど………なんとか、梅崎くんをデートに誘えたみたいです。
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