16:どうしようもなく

文字数 1,067文字

 早朝5時。梅崎くんへの気持ちを自覚すると、次の日は朝から落ち着かなかった。
「……好き………好きかぁ………」
 改めてそう言葉にすると、部屋に1人だと分かっていてもなんとなく恥ずかしい。頬に熱が集まるのを感じて、掛け布団の中に潜り込んだ。
 なんとなく、分かってはいた。自分の視線や態度が、ただの友達に向けるものではないと。でも、いざ自覚してしまえば恥ずかしさと同時にモヤモヤも晴れていき、昨日よりずっと気が楽だった。
 そっか、この間から感じていたモヤモヤって、さわっちに対する嫉妬だったんだ。
 分かってしまえば、この気持ちは案外割り切れるものらしい。私は梅崎くんが好きで、多分さわっちも梅崎くんの事が好き。それでさわっちが梅崎くんにアピールを始めて、私が嫉妬した。
「……梅崎くん、ちょっとは私の事も見てくれるかな」
 ハジメテの恋心にドキドキしたけれど、はっとして少し不安になってきた。
 梅崎くんって、どんな人に傍にいてほしいんだろう。こればかりは分からない。
 最初は私とよく話してくれていたけれど、ここ数日はずっとさわっちと話しているし、もしかしたら、さわっちみたいな元気で明るい子が好きなのかもしれない。そうだとしたら、あまり目立たない方の私にとって、かなり難しい恋になりそうだ。
 そして、もう1つ不安要素がある。これは私が掘ってしまった墓穴なのだけど、以前、勉強を教え合う時に言ってしまった言葉だった。
 ―――私、梅崎くんの事、友達だと思ってるから。
 そう、あの時梅崎くんに対して「あなたは友達だ」と言ってしまったのだ。思い出してみると、あの時の梅崎くんはかなり嬉しそうだった気がする。これは、もしかしたら、ずっと"友達"として接してくれるかもしれない。彼が好きな私からすれば、それはちょっと嫌だった。
「………気づいてもらえなかったら、どうしよう」
 機会があれば、いつかちゃんと告白したい。でも、私にそんな勇気があるだろうか。ましてや、初恋だ。今の関係が私の告白のせいで壊れて、今みたいに仲良くい続けられる自信がない。そう思うと、告白の勇気がどんどんなくなっていく気がした。
 ……どうしよう。自覚した以上、いつかこの想いを伝えたい。でも、フラレて立ち直れるかも不安だ。
 マイナスな思考が一瞬頭を支配するけれど、楽しそうに勉強する梅崎くんの姿を想像すると、だんだんとそれも薄れていった。
 布団から出しかけた頭をかたつむりのようにしてまた引っ込める。それだけ彼が好きだと分かってしまったからだ。

 そう。どうしようもなく、君が好き―――。
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