渡良瀬   佐伯一麦

文字数 2,458文字

昭和の終焉も間近な夏の終わり,二八歳の南條拓は茨城県西部の町の配電盤製造工場で働き始めた…….


(「岩波書店」より)

https://www.iwanami.co.jp/book/b263815.html

この作品の舞台は先日の魅力度ランキングでワースト1位に輝いた茨城県。
今回のランキングの発表は、茨城県知事の発言よりも群馬県知事が吠えていたことのほうが印象に残ってる。

まあ、あの発言は大人げないと思いつつも、ぼくもあのランキングは謎だと常々思ってる。そもそも千葉があの位置にいる理由がわからない。

東京に近いから?
というイメージだけでしょ? 実際に東京に近いのは千葉の一部で、現実にはそうでもないんだよ。「近いくせに」が枕詞のように付くのが残念なことに千葉の実態だと思う。
茨城が本気出したら、千葉の魅力って割と本気で霞むよね。

観光地としてのポテンシャル、農産物の品質、あるいは都市化(今後の発展)の余地。どれをとっても実は負けてる。

千葉は「新幹線が走る余地がない」時点でいろいろ行き詰っているんだよね。

……まあ、それはともあれ、いってみようか『渡良瀬』。

単 調 !
どこから切り崩していくべきかに悩む作品だった。
配線の話はとにかくどうでもいい。
しかし、ここを描かないことには始まらない部分もある。
とはいえ、R相とかT相とか、初っ端から専門用語をなんの説明もなくぶちかまされて、電気関係にど素人なこっちは「なんのこっちゃ」状態だったよ。
まあ、そのあたりの専門的な語句は読み飛ばしても結果的になんら問題はなかった、わけなのだが。
中身をもう少しひも解くと、時代は昭和63年。
昭和天皇の病状を伝える記述が随所に入る。昭和が終わり、平成が始まろうというその瞬間に社会の第一線で働いていた人たちにとっては、いろいろと感慨深いものが多いらしいよ。聞くところによってはね。
ほう? どんな?

たとえばぼくの上司だった人。

彼は酒が入ると決まって「大喪の礼」の日を話題にしたものさ。

大喪の礼?
天皇の葬儀(国葬)のことだね。まあ、上司の語りは「カーテン閉めて電気付けずに仕事した」って感じでブラック勤務の暴露だったけど。
ええと、どこから突っ込んでいいのか。その日は働いたらいけなかったの?
公休日になったらしいが、「働くな」があったかどうかは、なんとも。
この小説も、働き方だけを見るとかなりのブラックだと思った。
従業員が残業すればするほど会社の利益になるというのも時代だよね。

(大手は変わりつつある、ということをにおわせているのも作品の特徴の一つだ)

うん。「働き方」に関しては、今の時代は格段に良くなってきたんじゃない?
そう、だねえ……。(遠い目)
ああ、圭さんも今の今、よく生きてると言ってあげたいけどさ。

一週間分の着替えをもって月曜日に会社に行って、3時くらいまで働いてシャワーを浴びて、仮眠してから6時に仕事を始める、そして土曜日にのっそりと家に帰る。あれを数ヶ月続けたことを今にして思うと、気が狂っていたんだろうなとしか思えない。

今の時代にあれを社員にやらせたら炎上案件だろう。

とはいえ、今でもブラックな企業がないわけではない、ってところは残念。
そういう会社は社会的にサスティナブルじゃないから、最終的には消えるはずだよ。
もう! そうやって流行りのワードをわざとらしく持ってこない!
今年の流行語として選ばれる言葉だと思うんだけど、どうだろうかな?
SDGsなんて随分前から海外では騒がれていたのに、日本が今頃になって盛り上がっていることにぼくはなんというか、日本ってそういう国だよねを感じずにはいられないけど。
日本の場合、というか、ぼくの場合は、その言葉はETFの中で最初に目にしたかなあ。
どっかの勉強会に参加した時じゃなかった?

あれは証券取引等監視委員会の勉強会だったね。何年前だったかな。聴講生として参加せてもらって、実に有意義だった。


SDGsという言葉を聞いたのは講義の後半。講師として証券会社の人が壇上に上がって、「今一番ホットな投資商品はSDGs関連銘柄を組み込んであるんです。SDGsは今後伸びていく市場ですよ」ってちゃっかり自社の商品を宣伝したりして。(笑)


しかし、ぼくがこの言葉を目にしたあの段階ですでに半周遅れの感があったと思うんだ。

それなのに、ようやくにしてマスコミは今だからなあ……。

時代の変遷をちゃんと肌で感じてるんだね、圭さん。
この小説もそんな「時代の変遷」を描いた作品だよ。
昭和が終わる?
だけじゃなく、「職人」を必要としない時代の到来をにおわせる結びになっている。
配線のやりかたも、「効率化の名目」でがらりと変わっていくんだよね。

一本張りから何かになって、さらにそれが改良されて……。ちょっとこの辺りも専門用語すぎて理解が追いつかなかったものの、とにかく、熟練の技を持たない人間でもできる配線になりつつあることをこの作品は描くんだ。

これって確かに「現代」、ぼくたちの生きる「今」につながっているよね。

そして、この「変遷」が縦糸で、主人公の「家族」の問題が作品の横糸といったところだろうか。

妻のことを直接的に、悪しざまには描かないけど、なーんか、なーんか随所に棘があるのが気になった。
それでもぼくは、妻の方にかなり共感する。
男女の間には確かに溝がある。

この作品は男性側の視点からしか描かれていないから、妻がワガママに見えたり、協力性がないように見たりするけど、逆の立場から見ればそれってただの男の言い分なんだ。

女の不満を真に解明した男性なんて、ぼくは見たことがない。世の中見渡しても、わかったふり、理解あるオトナのふりをしているだけに思えることがとても多いよね。(逆もしかりだけどね)

でも、この小説はそんな男女のことがよく描けていると思う。確かに男性目線だけど、可能な限りに公平(フェア)だと思う。

最後に家族の雰囲気が「少しいい感じ」になったのがよかった。
希望のない終わりになったらいやだなと思っていたから、ほっとした。
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